第六十話 母ちゃん
翌日の朝、
「ほら、口に粟粒がついてるわよ」
そう言って、粟粒を取り、自分の口に中に入れるのです。へへっと嬉しそうな
「
「何よ、
お母さんという言葉に、
「
またまた。照れちゃって。
「この、照れ屋さんが!」
そう言うと、コチョコチョと逃げられないように脇腹をくすぐります。
「はははは、こ、こ、
どうよ、このくすぐり攻撃は。離した後も、
朝餉の後も、一緒に掃除や孤児の食事の準備、洗濯といろんなことを手伝ってくれました。本当に働き者なのです。
気がつけば夕方になっており、洗濯物を取り込みに庭に出て行くと、空は
「ね、
下から私を見上げた
「俺、魚が食べたいな」
と、無邪気に言うのです。私は
「じゃあ、私が料理してあげよっか?」
「……
ううん。ちょっと残念。
それでも、その薄く大きな
「ほら、ああん」
差し出された魚をぱくんと一口。
「うん。いつもより、うめえ」
何度も口を開けて待っています。ふふ、雛鳥に餌をあげるみたい。どんどん、口にイワナの身を運んでいきます。うまい、うまいと
「ふう、もう入らねえ」
ゴロンとその場に横になった
「じゃあ、寝床へ行くよ」
「……ん」
すでに大あくびの
一緒に床に入ると、
「
「そ、ありがと」
そう言うと、
「
私は思わず体の向きを変え、
「もちろんよ。私はお前の母ちゃんなんだからね」
可愛い、本当にかわいい!
「か、母ちゃん……」
「ん、何だい。
「母ちゃんって、寝る前に歌を歌ってくれるって本当?」
へえ、よく知ってるね。
「本当よ。目をつぶって」
そう言って背中をトントンと叩きながら、小さく歌を歌います。
「
だんだん
「うん、行こうね」
「で、テツさんの……」
そこで
翌朝、起きると私は一人で寝床に寝ていました。
まあ、
そのまま、空を眺めて大分立つのに
「
いつものように
「ねえ、
すると、
急いで大広間に入ると、そこには九郎の他に、
「みんな、おはよう! ねえ、
すると、九郎はまっすぐに私の目を見つめて言うのです。
「
ん? どゆこと?
とすんと座った私の上に、
「
えっ? 何で
「お前の怪我をずっと自分のせいだと思っていた
昨日の深夜、出発したこと、それに
「お前の怪我に何もできないのが、もどかしかったんじゃろう。ワシや九郎に必死に頭を下げておった」
……
「
けれども、
「どうしてよ! あんな小さな子が都で修行なんて辛すぎるじゃない!
つめ寄る私に、
「話にならないわ!!
「
九郎……、九郎だったら分かるよね。私はフラフラと九郎の前に立つのです。
「九郎。今すぐ、馬を出して!
けれども、九郎は首を縦にはふらないのです。
「ぼくが決めたんだよ、
九郎は胸元から一枚の紙を取り出し、私に差し出します。
受け取って中身を見ると、下手くそな字でこう書いてあったのです。
「こるり、おりがと。かあちゃん」
「相変わらず、「あ」と「お」を間違えて……」
そう言って私はその紙を胸に押し当てました。
「釣りに行くって言ったじゃない。
その瞬間、私の目から涙が流れ落ちます。母親に甘えたことなんて昨日のたった一回しかないのに、これからはずっと一人で生活していくのです。もう抱いて歌を歌ってくれる人はいないんです。冷たい寝床で、ずっと一人で眠るのです。あまりにも
誰も何も話さない中、雨はますます降り続き、時折、霙まじりになって屋根を叩き続けるのでした。
お前は生け贄だと追放された醜女の姫、どうせ死ぬし~と好きなことをやっていたら愛され人生がスタートしました ちくわ天。 @shinnwjp0888
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