あなたの代わりに泣いてあげます。
東城智秋
あなたの代わりに泣いてあげます。
葬式の帰り道、僕は泣けなかった。
祖母が亡くなったというのに、目も鼻も乾いたまま。
火葬場の煙の匂いだけが、やけに生々しく鼻をつく。
家族の誰かがぼそっと言った。
「やっぱり“感情出力AI”を使うべきだったんじゃないか?」
最近では、葬式や結婚式、卒業式などの“感情の場”に合わせて、代わりに泣いたり笑ったりしてくれるAIが主流になっていた。本人が感情をうまく出せない場合でも、AIが最適な表情や言葉、涙を出力してくれる。
実際、祖母の通夜には、参列者の中に一人だけやけに美しい涙を流す女性がいた。たぶん、AIだったのだろう。
僕は祖母に育てられた。
毎晩寝る前に絵本を読んでくれたし、テストで悪い点を取ったときは黙ってプリンを出してくれた。
だけど、それを思い出しても泣けなかった。
だから、申し込んだ。
「あなたの代わりに泣いてあげます。」
という広告文に惹かれて。
翌日、黒髪の女性が家を訪ねてきた。
年齢不詳の、少し無表情な顔。
やはりそうだ。
感情出力AIが搭載されたヒューマノイドであろうことは一目瞭然だった。
けれど目の奥にだけ、人間味のある静かな光があった。
「ご依頼内容を確認します。
“祖母に育てられたが泣けないので、代わりに泣いてほしい”。
状況と記憶の共有をお願いします」
僕は祖母との思い出をいくつか話した。
話しているうちに、喉の奥が詰まって、言葉が途切れた。
彼女はうなずいて、数秒間目を閉じた。
そして、泣いた。
一筋の涙が、頬を伝って落ちた。
あまりに静かで、あまりに綺麗な涙だった。
その涙を見た瞬間、僕の中で何かが壊れた。
――初めて、涙がこぼれたのは僕の方だった。
「……ありがとう」
それだけ言うと、彼女は少しだけ微笑んだ。
帰り際、彼女がふと振り返った。
「本当は、泣くのが仕事じゃないんです。
“誰かが泣く理由を思い出させること”が、私の役目ですから」
そして彼女は、音もなく去っていった。
気づけば、空が少しだけ泣いていた。
あなたの代わりに泣いてあげます。 東城智秋 @halfumi
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