【短編】静かな湖畔の森のかげから

ムスカリウサギ

本編

 そよ、そよ、と。

 風がわたしを撫でていく。


 ちゃぷ、ちゃぷ、と。

 水面に波紋が広がっていく。


 橋を渡って、わたしは歩く。

 遠くに見える、小島を目指して。


 湖畔のそばの茶屋から見えた、

 橋の向こうに続く島。


 石造りの鳥居が見えた、

 ささやかなやしろが佇んでいた。


 心地よい、自然の声に耳を寄せ。

 橋の上から、じっと見つめる。

 きらきら煌めく湖面の上で。

 注連縄しめなわが固く結ばれている。


 立ち入り、そっと手を叩く。

 ここは柏手かしわでか、偲手しのびてか。

 少し悩んで、手を叩く。

 空気を読んで、自然な仕草で。


 ぐるり周りを見渡した。

 広がる湖畔の周囲は森ばかり。


 けれど、立ち寄った茶屋とは違う場所で。

 思わず、わたしの視界は動きを止める。


 視線がついつい誘導されて。

 見えたのは灰色、石造りの鳥居。


 緑に囲まれた森の合間に。

 静かにそこに在る鳥居。

 この綺麗な景色に埋もれるように。

 ひとつの鳥居が見つかったら。

 あちらこちらに映る鳥居。

 木々の隣に、蔓草と共に。

 あまたの鳥居が点々と見つかる。

 この綺麗な景色を囲う鳥居が。

 いくつもいくつも目に付いてくる。


 わたしの胸はとくんと高鳴り。

 わたしの背中にぞくりと走る。

 

 敬意か畏怖か、憧憬か拒絶か。

 それはわからなかったけれど。


 わたしの心は、とくん、と鳴ったし。

 わたしの背筋は、ぞくり、と冷えた。

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【短編】静かな湖畔の森のかげから ムスカリウサギ @Melancholic_doe

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