第57話 激戦、乱戦、大合戦!

「やりました! 玉木さん、ボク勝てましたっ!」

 そう言って満面の笑顔で私に胸の青いリボンを見せる夏目クン。大合戦での最初の相手との戦いで見事勝利を収めたようだ。


「ナイス! 私も今終わった所よ」

 私、玉木環も今しがた、青森のスポチャン愛好会のおばさんを倒し、勝利の証の青リボンを譲り受けた所だ。

 最初の相手の酒巻君はそれなりに手強かったけど、二人目のこのご婦人はあまりスポチャン、というかスポーツに向いてないタイプみたいで楽勝だった。たぶんにぎやかしで参加した、選手の保護者の方かなんかだろう。


 私たちは目標ターゲットである三木美樹ミキミキさんを探すべくコンビを組んでいるんだけど、さすがに両軍千人もいるんじゃそうそうエンカウントは出来ない。なのでまずは人数が少なくるまで、なんとか生き残ることが先決だ。


 と、会場のスピーカーがヒィーン! と共鳴音ハウリングを響かせた後、木槌の音をキンキン!と打ち鳴らし、続いてアナウンスが流れる。

『西軍、滋賀琵琶湖大付属。棒の部女子3位の内村律子うちむらりつこ討死うちじに!』


「あ、もう来たか」

「誰か強豪と鉢合わせたのかな?」

 夏目君と顔を見合わせてそう話す。実はこの大合戦、先の個人戦や団体戦でのベスト4の選手が負けた時にはこうして場内アナウンスされるという演出がある。

 該当する選手にはあらかじめ無線が配られていて、敗れた際には本部に連絡するのが義務になっている、もちろん国分寺ウチの黒田君も対象の一人だ。


『首級を上げたのは山形金目高校、松波まどか!』


 とまぁ、こうして大物食いジャイアントキリングを果たした選手はアナウンスで称えられるわけだ。だからこの大合戦では無名の選手がこぞって有名人を探して挑もうとするのがひとつの楽しみになっているとか。このへんも実際の合戦に習ってるんだなぁ。


『東軍、群馬魔界スポチャンズ、男子槍の部2位の須藤艇羅すどうていら討死!』

『西軍、鹿児島薩摩元治流。女子長刀両手の部3位、島桜 大子女しまざくら おこめ、討死!』

『西軍、団体戦ベスト4。大阪清流館、星名瀬奈ほしなせな、討死』

『東軍、型演舞準優勝。岩手すずり大付属中学、春園一平はるぞのいっぺい、討死』


 そうこうしてる間にも次々と強豪選手の脱落が報告されていく。ウチの黒田君は大丈夫かなぁ……


『東軍、国名館高校。長刀両手の部優勝者! 成瀬鳴動なるせめいどう~~討死ッ!!!!』


 その報が流れた時、会場全体が一斉に「ええっ?」と驚きの声を上げた……無理もない。あの成瀬君がこんなに早く? 一体誰が??


『首級を上げたのは、徳島……』

(……う、うそ!?)

 アナウンスのその言葉に、私の背筋がざわっ、と寒気立つのを感じた。私たちのうちの誰が? 黒田君、ムンダ君? まさか岡吉先生じゃ……


『え、えーっと……国分寺国際東剛隆吾とうごうりゅうご、君』


「ぶーーーーーーっ!!!!?」


 ちょ、何やってんのよ東剛君! さらっと現れたゲストがスポチャン最強剣士をあっさり倒しちゃって……まぁ彼ならありえなくはないけど、ちょっとは空気読みなさいよーっ!


「た、玉木さん。私たちも急いで三木選手を探しましょう。このままじゃあの人もいつ討死するか分かりません!」

「そ……そうね。衝撃の事実に驚いてる場合じゃ無かったわ」

 そう、あの成瀬君すら戦線離脱してしまったんだ。私たちも急いでみきみきさんを探し出さないと、いつ他の誰かに打ち取られるか分かったもんじゃないわ……でも。


「いざ!」

「そこのカワイ子ちゃん、いざ勝負よ!」

 そうこうしてる私と夏目君に、また新たなチャレンジャーが現れてしまった。ちなみに「カワイ子ちゃん」って言われたのは夏目君の方だ、なんか腹立つなぁ。


 実際、対戦拒否も出来るのは出来る。でもこのイベントに参加してる以上、断るのはなんか違う気がするんだよなぁ。


「あーしは茨城、筑山工学大、佐久間貴子さくまたかこよ、あんたは?」

 そう言って武器を向けて来る相手。ふ、獲物が薙刀とはおあつらえ向きじゃないの、いいわ、受けて立つ!

「国分寺国際、玉木環! いざ、尋常に勝負ッ!」


 隣では夏目君も相手の挑戦を受けたようだ。うんうん、三木さんと戦う事もだけど、こうして男らしく挑戦を受けるのもまた君の男気を上げるんだから、頑張れ!

 ……って、よく考えたら男子なのに女子に挑まれてるんだよねぇ。


 おっと、目の前の相手に集中、集中っ!


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 さかのぼる事20分前。

 既に7人の相手を倒して7つの赤リボンを胸に付けた東軍最強の男、成瀬鳴動はまるでモーゼのようにそのオーラで西軍の面々を分断させて、無人の野を歩むがごとく敵陣深くへと歩みを進める。

 さすがに西軍の面々も尻込みをせざるを得なかった。なんせまだ合戦が始まって30分も経ってないのに、勝てない相手にカッコつけて挑んで早々にリタイアするのは避けたい所だろう。成瀬がすでに7人もの挑戦者を屠っているのだから尚更である。


 が、その中で彼の前に立ちはだかり、「いざ」と声をかける男が現れた。誰あろう国分寺国際のサバゲー部部長、東剛隆吾である。


「いざ! と言いたい所だが、短刀でいいのか?」

「……問題ない」


 臆することなく短刀をナイフのように構える東剛を見て、成瀬も「よかろう」と剣を正眼に向けて対峙する。

 周囲の面々もどこかほっとした様子で、他のエリアに異動したり、他の相手を見つけて自分のいくさに突入していく。


 周囲が動き出し、戦場に少し砂ぼこりが舞い始める。この公園は基本芝生だが、こうも大人数が動き回るとさすがにホコリっぽくなる。


 と、その時! 東剛はなんと成瀬に背を向けて、猛然と逃げ出し始めた! そのまま成瀬の視界の向こうに消えていく――


「え、お、おい、ちょっと!」

 剣を構えたまま呆気にとられる成瀬。それも当然で、これから戦うと思っていた矢先に一人にされたんじゃ、これからどうしていいか分からない。

 果たして次の戦いに移行していいのか、それとも決着がつくまで身動き取れないのか……だとしたら追いかけて仕留めるしかないのかなぁ、と頭をひねる。


「あ、そうだ。無線で大会本部に相談するか」

 ヘルメットに仕込んだインカムを操作して本部に連絡を取る。こういう場合の大会ルールはどうなってるのか、向こうに判断して貰おうと。


 その行為が成瀬最大の失敗になるとは、彼もまさか思っても居なかった。


 なにせ姿を消した東剛はそのまま人の群れに紛れると一気に風下に回り、砂煙と芝生に迷彩服を溶け込ませたまま、猛然とほふく前進で再接近していたのだから!

 まるでワニかオオトカゲかというスピードで這ってきた東剛が、そのまま成瀬の足の健を短刀ナイフでバチンと両断した時……


 名門、国名館高校の主将。全国個人と団体の二冠の男の、高校最後の大合戦は、無情にも終わりを告げる事となった。

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いざ⚔チャンバラっ! 素通り寺(ストーリーテラー) @4432ed

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