手には手を

羽詐欺なな

第1話 恋愛経験ないけどね

 自己流、緊張を和らげる方法を持っている。


 そのうちの1つはアナウンサーになりきること。人前でスピーチをするときも、英検の2次試験でも。

 クリップボードを指さしてハキハキ喋る彼女アナが、私に憑依する。



桜田さくらだ咲來さくらです」


 慣れない名前を口にして、自分でも笑いそうになりながら教室全体を見渡した。


「神奈川県から来ました。部活の引退時期が近いと思いますが、短い間だけでも剣道部に入るつもりです」


 自己紹介のコツは『シンプル』だ。よろしくお願いします、とここで切り上げる。拍手喝采。

 ちなみにディープキスのコツも同じらしい。



「桜田さん、ありがとうございました。席はいちばん後ろですね。あと、今日誕生日ですね」



 これはありがたい偶然だ。

 誕生日おめでとう、とクラスメイトが私に話しかける第一声として、今日一日便利に使われた。






「朝日ちゃん、好きな人いるでしょ?」

「えっ?」

 教室が騒がしい、かつ、ふたりきりになれるタイミングがあって、前の席の女子に小声で聞いてみた。私にも作戦がある。


「んー。もしかしてそうかなぁと思ったんだけど……」

 言いながら一瞬、ようぎしゃの背中を見遣る。先生と雑談中。


「……正解デス。私、そんなに分かりやすかった?」

「目が、輝いてた」

 えぇぇ、と恥ずかしそうに楽しそうに俯く彼女。


 それからいろんな人の恋バナ聞いて、クラス内相関図を把握しつつ、盛り上がって。

 いつの間にか『咲來お悩み相談所』が出来上がり、クラスの子たちと打ち解けた。



 ──恋バナ作戦大成功。

 好きな人の有無に限らず全員が話題を持っていて、深くて、面白い最強トピックス。


 恋は、いい。持論ですけど。



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手には手を 羽詐欺なな @usagi_n7

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