「コイ」の話に盲目だった
非常に暇である。
文化祭と言えば高校生活において、一大行事であり、甘酸っぱい青春の一幕になりそうである。
しかし、俺の前にあるのは夏休みに丹精込めて作ったピタゴラス◯ッチだけだ。
可愛い女の子の一人でも居たら嬉しいが、理系には女子が少なく、更に我がクラスには3人ほどしか居ない。
その3人が大事な大事な青春の1ページをこのピタゴラス◯ッチを眺めるだけに教室に残るだろうか?
残るわけがない。
そんな訳で、我がクラスは文化祭の休憩室となり、暇な男どもが集う場所になっていた。
俺もピタゴラス◯ッチを尻目にスマホでゲームをやっていた。
いつもならスマホを学校で弄るのは禁止だが、この文化祭の期間に限っては黙認されている。
ゲームのキャラクター育成のためにオート周回をしていると誰かが声をかけてきた。
顔を上げると「メガネ」が居た。
「メガネ」と言えば地味な男子を想像するだろうが、俺がそう思ってもらうようにあだ名をつけた。
実際にメガネをかけているが、メガネの存在感を圧倒し、メガネという存在を遺憾無く長所とした美形。
つまりイケメンである。
俺はこいつがあまり気に入ってないが中学の頃からの腐れ縁である。
「やけに調子が良さそうだな。」
「いやまあちょっとね。」
「それよりピタゴラス◯ッチの調子はどうだい?」
「ああ、すこぶる良いぞ。」
「ここの部分なんか特に気合を入れた。」
「実はなー…」
俺はメガネの言葉が社交辞令であるとわかっていて、あえて話を盛り上げようとした。
こいつはだいたい厄介な話題を持ってくる。
俺はそれに関わるのが面倒なので、話を逸らした。
それを察したのか、薄ら笑いを浮かべて俺の話を聞いている。
しばらく道化を演じ、馬鹿馬鹿しく思い始めた所で、
「で?誰か見に来たのかい?」というマジレス一閃で俺の話の幕は閉じた。
「なんの用だ?」
「そう警戒しないでくれよ、僕の話を聞くのがそんなに面倒なのかい?」
「正直面倒。」
「今回はちょっと真面目な話だから、聞いてほしいかな。」
こいつが真面目な話とは驚きだ。
この男は大抵「面白い話」か「驚きの話」を持ってくる。
「真面目な話」は今までに聞いたことがない。
そう思うと俺はなんと酷いことをしたのだろうか。
人の話はちゃんと聞こうと心に留めた。
明日くらいから。
「実は「華のある女生徒」さんから相談を受けているんだ。」
「華のある女生徒」さんは「メガネ」が所属する美術部の部員だ。あだ名の通り華があって男子から人気がある。
「その相談事を俺が聞いていいのか?」
「僕だけで事足りれば良かったんだけどね。」
「どうにも僕では役不足だったようだ。」
「俺なら事足りると?」
「その可能性があるって感じかな。」
「ほう」
「「大人しそうな女生徒」さんを覚えてるかな?」
「かろうじて。」
「大人しそうな女生徒」さんも「メガネ」と「華のある女生徒」と同じ美術部員だ。
俺は一度、彼らが持ってきた謎を推理したことがある。
その際に容疑者として挙がった1人が「大人しそうな女生徒」さんだった。
他人に興味の無い俺だが、さすがにその一件で存在は覚えた。顔はあんまり覚えてないが。
「「大人しそうな女生徒」さんに何かあったのか。」
「実は「大人しそうな女生徒」さんの大事なものが盗まれたんだ。」
「それは職員室か警察に持ち込むべきでは?」
「いや、財布なんかの貴重品ではないんだ。」
「じゃあ何が盗まれたんだ?」
「メガネ」が少し恥ずかしそうな顔をする。
なんだ?俺に告白でもするのか?
「「大人しそうな女生徒」さんの「恋文」が盗まれたんだ。」
「ほう。」
他人の思いがけない事情に足を突っ込むことになるとは。
しかも「恋文」、つまり恋愛ごととは。
俺は恋愛などというイベントには、とんと縁遠い人間である。
本当に役にたてるのであろうか。
しかし、「メガネ」が真面目な話と言っているのだ、
茶化しはせずにちゃんと聞こう。
「まずはことの次第を聞かせてくれないか?」
「メガネ」にそう尋ねると、
「やる気になったんだね。」と少しはにかんで笑った。
ーーーーーーー
「大人しそうな女生徒」さんはどうやら「恋」をしてしまったらしい。相手は生徒会書記の「爽やかな男子生徒」くん。
「爽やかな男子生徒」くんはこの学校、そして俺たちの学年ではかなり有名だ。
イケメンなのはもちろん、成績優秀、部活はサッカー部で3年生が引退した後は副キャプテンを務めている。
つまり、文武両道のイケメン。
隙のない男子生徒なのだ。
もちろん彼のファンは多い。
そんな中で「大人しそうな女生徒」さんも虜になってしまったようだ。
なんとか想いを伝えたいが、面と向かって昼間っから告白するのは向いていない。
それならばと「恋文」という、古く、慎ましいやり方で告白することを選んだのだが。
どうやらそれは上手くいかず、恋文が盗まれてしまったようだ。
「「恋文」が「盗まれた」というのはどういうことなんだ?」
「メガネ」に尋ねる。
「「大人しそうな女生徒」さんは靴箱に「恋文」を入れたそうなんだが、どうやら「爽やかな男子生徒」くんには伝わっていなかったらしいんだ。」
メガネは続ける。
「そもそも「手紙」なんかも見てないって彼が言っていたんだよ。」
「待て待て。」
「まず第一に告白された事実確認を「爽やかな男子生徒」に誰がしたんだ?」
「それは僕だよ。」
「「大人しそうな女生徒」さんの名前は伏せて、最近告白されたことがあるか聞いたんだ。」
「「メガネ」。前提の話からしよう。お前と「爽やかな男子生徒」は何か関係があるのか。」
「ああ。君は知らないかもしれないが、僕と「爽やかな男子生徒」は中学からの友達なんだ。」
「あれ?同じ中学だったか?」
どうやら俺の頭にボケがまわり始めているようだ、気をつけないと。
「そうだよ。」
「だから、今回「華のある女生徒」さんに相談された時に聞いたんだ。」
「「爽やかな男子生徒」が嘘をついてる可能性は?」
「無いとは言えないけど、ある程度の仲だからね。」
「嘘をついてたらなんとなくわかるよ。」
「じゃあ「恋文」を見てないと言うことは本当だとしよう。」
「なら、なぜ「恋文」が盗まれたと断定出来るんだ?」
「メガネ」が眉をひそめる。
「確かに。」
「僕は「華のある女生徒」さんに盗まれたと聴いたんだ。」
「だから、盗まれたこと前提で話を進めていたんだけど、、、」
「メガネ」がしばし考え始める。
「メガネ」は若干浮かれているようだ。
普段なら気づくであろう、話の疑問点にまで頭が回ってないらしい。
俺が思うにこの事件はあまり難しいことは起こっていない。
問題はどうして起こったかだ。
「「華のある女生徒」さんに話を聞かせてもらっても良いか?」
ーーーーーーー
美術部では文化祭に際して、展覧会を開いていた。
俺には絵の価値はわからないが、ざっと見た感じどれも気合が入っているように見えた。
特に目を引いた作品があった。
暫く眺めていると「メガネ」が、
「これは君がこの前関わった、例のもう一つの美術部の生徒さんが書いたやつだよ。」
と説明してくれた。
一通り見て回ると、美術部屋の出口の前に「華のある女生徒」さんが座っていた。
「メガネ」と二人で「華のある女生徒」さんの前に行くと、向こうも気づいたようだ。
「こんにちは。」
「ふたりとも絵は見てくれた?」
とても華やかな笑顔で声をかけられたものだから、
声が上擦ってしまった。
「ああ。みんな凄いな。」
その返答に、「華のある女生徒」さんはクスクスと笑った。
「何か御用?」
華のある女生徒さんの問いに「メガネ」が答える。
「例の件のことなんだけど。」
それだけ言うと、何かを察した「華のある女生徒」さんは、
「あと30分したら時間が空くから、ちょっと待っててくれる?」
とにこやかに返事をしてくれた。
実に華がある女性だ。
ーーーーーー
30分もあったので、「メガネ」と靴箱を見に行った。
もしかしたら、「恋文」がどこかに飛んでいってしまったという可能性を考えたが、この学校の靴箱には扉がついていて万が一にも飛びそうもない。
「これで可能性が一つ潰れたね。」
「ああ。」
「僕も手紙をもらったことがあるけど、風にあおられた形跡は無かったしね。」
「ふーん。」
こいつの自慢話はさておき、
「後は、誰か他の人の靴箱に「恋文」を間違えて入れたか、誰かが「恋文」を抜き取ったかの二つだろう。」
「もしくは、「爽やかな男子生徒」くんが隠しているかだな。」
「うん?それはなさそうだとさっき言ったけど。」
「いや、「恋文」を隠しているのではなく、別のことを隠しているのではないかと思ってな。」
「それが関係あるのかい?」
「今回は犯人がある程度絞れてるからな。」
「問題はどうやったか、何のためにやったかが重要なんだ。」
「犯人は誰なんだい?」
「…」
なんと答えたものか、この答えを聞いた彼は失望しないだろうか?
「とりあえず「華のある女生徒」さんに話を聞こうじゃないか。」
約束の30分が経とうとしている。
急がなければ。
10分前行動には遅すぎるが、5分前には間に合うはずだ。
ーーーーーーーー
「「メガネ」くん、あの話をこの人にもしちゃったの?」
華やかな女生徒さんがにこやかな笑顔で言う。
ちょっと怖い。
「今回は犯人が居るってことだから、早々に捕まえて手紙を取り返した方が良いと思ったんだ。」
「駄目だったかな?」
「ううん。全然良いの。」
「私も早く犯人を見つけたかったから助かるわ。」
「それで、聞きたいことが何かある感じなのかな?」
こちらを上目遣いで見てくる。
あざといな。
「ああ。」
「なんで盗まれたと思ったんだ?」
「君たちは「恋文」を入れた靴箱を見た?」
「あそこから勝手にものが落ちるなんてありえない。」
「それに前にね、「爽やかな男子生徒」くんと仲の良い「冷たい雰囲気の女生徒」さんが、「大人しそうな女生徒」ちゃんにちょっかいを出してきたの。」
「ちょっかいとは?」
「「大人しそうな女生徒」ちゃんが勇気を出して話そうとすると、毎回「冷たい雰囲気の女生徒」さんが邪魔をしてきた。」
「それに厳しい態度で、
「あなた、「爽やかな男子生徒」くんと、どうなりたいの?中途半端な気持ちで邪魔しないで。」
って言ってきた。」
「人の想いなんて人それぞれなのに、そんな言い方無いと思うわ。」
「だから、犯人は「冷たい雰囲気の女生徒」さんだと思ってるってことか?」
「その可能性が高いと思ってる。」
非常に感情的で理屈は通っていないが、そもそも恋愛ごとの相談だ。
理屈では考えられないことが起こっていても仕方がないだろう。
だが、どうにも気になる所がある。
「そもそも「恋文」はいつ入れたんだ?」
「昨日の夜ね。」
「昨日の夜?」
「夜に何か用事があったのか?」
「「メガネ」くんから聞いたかもしれないんだけど、「夜間の美術部の生徒」の子と仲良くなったの。」
「それで文化祭に絵画を出したいって話だったから手伝ったのよ。」
「その時の帰り際に、「大人しそうな女生徒」ちゃんと靴箱に「恋文」を入れたの。」
「なるほど。」
「それは名案だな。」
「だから誰にも邪魔されずに渡せるはずだったんだけどね。」
華のある女生徒さんはため息をつく、
少し暗い表情をするのは初めて見たな。
「わかった。」
「とりあえず聞きたいことはそれだけだ。」
「今日の文化祭が終わったら、どうなったか報告するから2-Bの教室まで来てくれ。」
「わかったわ。」
「名探偵さん。よろしくね。」
再び華のある笑顔を向けてくる。
きっとこの華の中に棘があるのだろう。
ーーーーーーーー
「で、何かわかったかい?」
「メガネ」が尋ねてくる。
「ああ、ある程度な。」
「そうか、それは良かった。」
「なんだ?お前は犯人が気にならないのか?」
「まあ、さっきの話を聴いていて僕でもなんとなくわかったよ。」
「犯人が?」
「うん。」
「だから後は報告すると言った君に任せるとするよ。」
「そうか。」
「そういえば、さっきはなんで話に入ってこなかったんだ?」
「おいおい、それは君が良くわかってるんじゃないか?」
「…」
こいつはいちいち鋭いやつだ。
こういう所が俺は苦手だ。
「なあ「メガネ」、頼みがある。」
「なんだい。」
「「爽やかな男子生徒」くんに聞いてきて欲しいことがある。」
ーーーーーーーーー
文化祭の1日目が終了した。
俺たちのピタゴラス◯ッチが陳列された休憩室には誰もいない。
スマホに来た「メガネ」からのメッセージを見ながら、「華のある女生徒」さんとどう話すか思案していると、扉が開く音がした。
「待たせちゃったかな。」
華のある女生徒さんがいつものにこやかな笑顔で話しかけてくる。
「いや大丈夫だ。」
「それより、今回の事件の犯人がわかったから俺の話を聞いてくれないか?」
「本当?凄いね!」
「華のある女生徒」さんは満面の笑みをみせた。
彼女はどこまでも華やかだ。
まるで造り物みたいに。
「犯人は「華のある女生徒」さん、君だな。」
俺はこの言葉を聞いて多少「華のある女生徒」さんも動揺すると思った。
だが、「華のある女生徒」さんは満面の笑みを崩さなかった。
「どうしてそう思ったの?」
その反応に少し困惑したが話を続けた。
「そう難しいことじゃない。」
「君が言った事実を述べた場合、犯人は二人に絞られる。」
「「大人しそうな女生徒」さんと、「華のある女生徒」さんだけだ。」
「「夜間の美術部の生徒」さんの可能性もあったが、話を聞いた限りだと、その人はこのことを知らないように思える。」
「じゃあ、もしかしたら「大人しそうな女生徒」ちゃんが自作自演したかもしれないけど?」
「それなら、そもそも俺たちに話を持ってくる必要がない。」
「二人で完結させられる話だったからな。」
「でも今回は君が話を「メガネ」に持ちかけた。」
「自分は「大人しそうな女生徒」さんの仲間であるとミスリードさせるために。」
「だが、さっき「メガネ」に「爽やかな男子生徒」くんにあることを確認してもらった。」
「それは何か。」
「「爽やかな男子生徒」が最近告白したのは誰かを聴いたんだ。」
「そしたら、「華のある女生徒」さん、君の名前が挙がったよ。」
「ここから、一つの仮定が生まれた。」
「「華のある女生徒」さんは「大人しそうな女生徒」さんの好きな「爽やかな男子生徒」くんに告白された事実を「大人しそうな女生徒」さんから隠したいのではないかということだ。」
「告白したら振られること可能性が高い。」
「更に万が一にでも「爽やかな男子生徒」が「華のある女生徒」さんのことを言うかもしれないからな。」
「だから「恋文」を盗むという形で二人が会話することなく、告白を失敗させたんだ。」
「華のある女生徒」さんを見る。
変わらない笑顔。
俺はそれを見て背筋がぞっとした。
この人は何も思わない人なのか?
俺には全くわからない。
「華のある女生徒」さんは口を開く。
「そうね。」
「間違ってないよ。」
そういうと大きく笑った。
「ありがとう。」
「私たちの用意した答えを見つけてくれて。」
用意した?
ということは、、、
「本当の答えがある。」
「そう。大正解。」
「君に質問するね。」
「「メガネ」くんは今どこで何をしている?」
意図していない質問が飛んできたが、
「メガネ」のことは把握している。
はずだ。
「今あいつは「爽やかな男子生徒」と会ってる。」
「正解。」
「じゃあ、どうして会ってるの?」
「「爽やかな男子生徒」が「華のある女生徒」さんに告白したことを確認するため。」
「それは君の視点での話だよね。」
「他に理由があるってことは考えなかった?」
俺は固まった。
今回の一連の出来事の謎を解くことは自分にとって簡単なことだった。
それが故に視野を狭めてしまっていた。
自惚れていたのだ。
「華のある女生徒」さんは笑う。
「君はもしかしたら、今回の謎を解き、私が君に「私の秘密」を話すことでお近づきになれると思ったかもしれない。」
「だから一人で来たんだよね。「メガネ」くんもそれを察してくれたんだと考えた。」
「でも違うの。」
「本当は「メガネ」くんが君を一人で行かせたの。」
「「メガネ」くんが告白を受けるために。」
「つまりね、今回「恋文」が送られた相手は「メガネ」くんなの。」
「いやそれはおかしいだろ?」
「それだと前提条件がおかしい。」
「それに、なぜ「メガネ」は俺に隠しごとをしたんだ?」
「隠しごと?君は聞いたの?」
「「メガネ」くんが告白されたということを。」
「聞いてもいないことを責めるのは良くないんじゃない?」
俺は取り乱していた。
俺は自分のことを過大評価しない凡庸な人間であるとそう思っていた。
だが、美術部の「石膏像」の一件からもしかしたら自分には何か特別な才能があるのではないかと思い込んでいた。
それを見透かされた。
俺が何も言えずに立っていると「華のある女生徒」さんが口を開いた。
「今回のことを教えてあげるね。」
「「大人しそうな女生徒」ちゃんが好きな人は「メガネ」くん。」
「だから、「恋文」を書いたの。」
「内容はこんな感じ。」
大事な話があるので、
放課後裏庭まで来てください。
「名前は伏せて書いてたわ。」
「そして、夜に靴箱に入れて、朝には「恋文」は「メガネ」くんにちゃんと届いた。」
「でも「大人しそうな女生徒」ちゃんが、やっぱり怖くなったから「恋文」を取り消したいって言い始めたの。」
話を聞いていて、落ち着いた俺は言葉を挟んだ。
「そこで「大人しそうな女生徒」さんが「爽やかな男子生徒」に「恋文」を出したという話を「メガネ」に持ちかけたのか。」
「そう。」
「それで「メガネ」くんが考える、「恋文」を送ってくれた相手の候補から外れれば良い。」
「でも、それだけじゃ確実じゃない。」
「だから協力してもらったの、「爽やかな男子生徒」くんに。」
「「爽やかな男子生徒」はそっち側だったのか、、、」
「「爽やかな男子生徒」くんが告白してきてくれた時に、私は良い友達としていてくださいって言ったの。」
「そしたら彼はそうしてくれた。」
「本当に良い人。」
彼女の笑みには陰が見える。
とても深い陰が。
「今ちょうど裏庭で「爽やかな男子生徒」くんが「メガネ」くんに今回のことはドッキリだったって話してるところよ。」
「「メガネ」が俺を一人で行かせたってのは、告白を受けるために裏庭に行くためか。」
「そうだよ。気づけなかったね。」
「そうか。」
俺はもっと「メガネ」のことを見ておくべきだった。
そういえば、声をかけて来た時も浮かれていたし、
靴箱の時もあいつは「僕も手紙をもらった経験があるけど。」ということを話していた。
それを過去の話だと決めつけてしまっていたが、
あれは今日の出来事だったのだ。
俺は自分の傲慢さゆえに、視野を狭めて、真実を知る機会を自ら失っていたのだ。
自分の浅はかさに天を仰ぐ。
「しょうがないよ。」
「君は知らなかっただけだもんね。」
その言葉にも反論することが出来ない。
する元気がない。
「じゃあまた、次の機会を楽しみにしてるね。」
「名探偵さん。」
ーーーーーーーーーー
学園祭二日目
相変わらずスマホのオート周回をまわしてぼーっとしていると、「メガネ」がやってきた。
今日は特に浮かれた様子もない。
「メガネ」が尋ねてくる。
「どうだい?昨日は何かあったかい。」
「ああ。あった。」
「それは良かったじゃないか。」
「そうだな。」
俺が生返事にしていることに、気付いたのか「メガネ」はつまらなさそうな顔をした。
「それじゃあ、僕たちの思った通りにいかなかったみたいだね。」
「ああ。」
「メガネ」は告白が嘘だと言われ、俺は見事に騙された。
何一つ思った通りにいかなかった。
いや、思った通りにいくと思った時点でおかしな話だったのだ。
俺に話を続ける気がないことを察したのか、
「じゃあお互い文化祭を楽しもうじゃないか。」
と社交辞令だけ残して去っていった。
あいつも残念な想いをしたというのに律儀なやつだ。
今回の事件で俺は、「故意」の話に盲目だった。
俺は凡人であると理解せねばならない。
ひとつ大きな溜息をついた。
文化祭の続きは楽しめそうにない。
「」シリーズ @noraneko280
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