どうでもいい短編集
タビサキ リョジン
その男の名、JJ
ジョー・ジャックは、今日も街のフリーWi-Fiに無造作に接続していた。
自慢のマシン、家電屋で安売りしていた、大手メーカー製の量販品だ。
よくわからないアプリが山盛りはいって、マシンの動きを遅くしているが、ジョー・ジャックはそんなことを気にしたことがなかった。
なぜならジョー・ジャックは男の中の男だからだ。
「へへ、パスワードは123456に限るぜ」
ジョーはそう呟く。
小さな頃からそうだった。
自転車にかけるチェーンロックも0000以外にはしたことがなかった。
だからこのマシンを手に入れたときも、パスワードは自分の誕生日の日付にした。
ジョーの誕生日を知るものなど誰もいないのだ。
鉄壁のパスワードといえる。
そもそも、今の世の中にはパスワードが多すぎる。
長文を要求されるもの。英数字を要求されるばかりか、大文字と小文字を混在させろというものも最近では珍しくない。
記号だって使えたり、使えなかったり。面倒なことこの上ない。
前に作ったパスワードを再び使おうとして、『使えない文字が含まれています』などといわれた日には、怒りさえ覚えた。
世の中をシンプルに生きたいジョーにとっては生き辛い時代だ。
「ま、けど、俺くらいになれば、そんな世の中に流されることもねーけどな」
ジョーはそう嘯き、adminと入力して社内のネットワークに接続。
このことをみんなに知らせる必要がある。
いくら自分が有能だとはいっても、自分だけが抱え込むにはその作業量は膨大にすぎたからだ。
『いつもお世話になっています。スケジュールの共有のため、メンバー全員にシェアします。書類の作成、書き換えなども各々できるようになっていますので、今後は各自でおねがいします。パスワードはこちらです』
そういうメッセージと、ネットワークの管理者パスワードを打ち込む。
そして、ふっとニヒルな笑みを一つ浮かべると
メンバー全員に向けて、メーリングリストをつかい一斉送信した。
そのメールを受け取った、ある若手の社員が呟いた。
「この会社……、ヤベーな……」
どうでもいい短編集 タビサキ リョジン @ryojin28
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