作中にて語られるエリクサーの取り扱いについて、心配される読者の方が多いように思いますので、作中にてなぜそのような扱い方をしているのかという解説をしようかなと思った次第です。
有名無名の無数の作家さんによる蓄積で、共通のミームが作られているという事を肌で感じて、これは本当にすごい事だなと思いました。(俺は流れの中にいる!という感動)
以下、箇条書きですが。
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・エリクサーというものの作中現代の現状と認識
エリクサーは古代魔法王国時代に生成に成功されたものですが、当時でさえも一般的ではなく、誰かが「俺、エリクサー持ってんだけどさ」といえばまず詐欺を疑うようなレベル。
実際には嘘を暴く魔法があるので詐欺は成立しませんが。
嘘感知の魔法は、誇張や欺瞞は暴きますが、それが間違いであっても『その人が本当だと思っていること』は真と認定するので、余程の信頼関係がないと、可哀想なやつ扱いで、おそらく信じません。(例えば、友人が「ガンが治る薬を持ってるぜ」って言った時の感じ?)
作中現代では伝説とかほぼ神話のレベルであるので、一般人はまず知らない。知っていても冗談だと思うか、本気なら正気を疑うレベル。
魔術師とか錬金術師であるなら存在は知っているが、専門家ほど事の真偽に慎重である。
さらにそれが、温泉の形で大量に存在するということが理解の範疇の外。
一番信じられるのは、目の前でその効果を見た時でしょうが、この世界には、非常に珍しくはあるものの、欠損回復や死者の蘇生を行う魔法が存在する。
そしてそれを必要とする人たちには、その事自体が重要であり、「何で治ったか」はあまり重要でないのではないかと考える。
エリクサーで手が生えた人がいて、それが何で、どこにあるのか、を気にする人はあんまいないじゃないかなー、いてもそういう人には使わなさそうだし。
効果を目に見た人が、噂を立てることがあったとしても、情報の伝播の遅い世界で、組織力と経済力を持つ層にそれが届くには、よほど大きな動きにならないと伝わらないと考えられる。
また、たまたま耳にすることがあっても、村人少数の噂を理由に、それを信じ、膨大な金額をかけて調査行を組織するのは現実的ではない。
どこか一勢力がそれを信じたとしても、利益確保の観点から、それを他勢力に知らせることはない。
むしろ積極的に情報統制を行うでしょう。
個人的に信じる人もいるかもしれませんが、現代で治療不可能の病を治す薬がエベレストの山頂にあるらしいよ、と聞いた人が、私財を投じて個人登頂するかなー。的な。
まして、旅そのものが、個人にはかなりハードルの高い世界ですし。
無論例外はあるので、それを熱烈に欲する少数実力者がいないとも限りませんが。
他の作品のように、効果が確定していて、存在が確認されていて、超人がたくさんいて、国家や組織が強力に組織されていて、連絡や情報が一瞬で行き渡る。という世界観ではないので、他の作品のような騒動は起こりにくいかなあと。
現実には詐欺師みたいな錬金術師に騙されて大金払った貴族とかもいるようなので、これがエリクサーです!って目の前に一瓶出せば、買う人はいるかも。
戦争もあまりない世界なので、「無敵の軍隊作るぜー」みたいな需要も今んとこないですし。
魔物相手の戦闘はあるが、兵や冒険者の運用で対処可能。
たまに超強力な魔物もいるがレアケースでもあり、そのための回復手段としては、効果が過剰でコストに見合わない。(回復術師の確保の方が有用)
・現実的な問題
白龍山脈に向かうにはファーライト神聖王国という巨大な王国を通る必要がある。
シエラの出身の少数部族のみならず、周辺の多くの民、民族にとって白龍山脈は畏敬の対象であり、場合によっては崇拝、信仰の対象であるため、無遠慮な入山は歓迎されない。(監視しているわけでも、封鎖しているわけでもないので、個人が入山するのは禁止されていない。やる人はいないけど)
他国の入山はファーライトが拒否するでしょうし、ファーライト自身も政治的な理由でそれを躊躇するでしょう。
今後の展開に関わるので詳しく言及できませんが、国家の性質としてもそれはしない国です(今の所)
(主人公たちは、普通なら高地登山など絶対無理な少人数で入山していて、普通はその人数では登頂不可能)
物理的にも、主人公の超感覚や、大量の食糧や物資を重量0で運べるキシャールの異空間収納などのチートがなければ、普通に不可能ですし、作中でも言及があるように、主人公たちであってもキシャールがいなければ、到達不可能でした。
とはいえこの世界には魔術もあり、マジックアイテムもあるので、絶対に不可能というわけではありませんが、貴重な人材と物資を大量に投入してまで、未到達の高山を攻略するには余程の理由が必要だと思います。真偽不明の情報ではそこまでしないような。
・エリクサーそのものの特性(主人公が理解していないことも含みます)
作中ちょこちょこ言及があるように、ミーカール(とキシャール)の作り出したエリクサーは、古代王国期に作られたエリクサーと厳密には同一のものではなく、主人公たちの作ったものはエリクサーと呼ばれてはいますが、非常に魔法的な存在で、確定の効果が存在しません。
無意識と意識の話をしだすと非常にややこしいので省略しますが、効果には実感を伴った個人の思いや願いが重要で、欠損が無条件で治るというわけではないのです。
フローラさんの若返りの件を例に出しますと、
生命の精霊の循環により、事前に少し若返っていたこと。
それによって、体が動く、心が軽やかである、などの若々しさを実感していたこと。
明確な思考ではないものの、主人公への恋心が芽生えており、その若さにふさわしくなりたいと無意識で願っていたこと。
温泉での行為(意味深)により、その感覚と恍惚をより多く、より長く感じたいと思ったこと
などが若返った理由として挙げられます。
若くなりたいわ〜、と思いながら入っても、若くなりたい人が出来上がるだけです。
意識のない人に飲ませたりした場合、飲ませた人物が、その人が元気になることを心から信じていれば治るでしょう。
「転がる石」などはこのパターンで、霜の巨人のナチュラルな回復力に加え、ミーカールが『こいつが元気だったらすげーだろうな」と思っていたことが多く作用しているのでしょう。
(勝てる気がしないと言っていたところ)
頭で考えていたらそうなるというわけではないのですが。
・その他
今後ちょこちょこと使っていく機会はあると思うのですが、「これはエリクサーだー!」「すげー治った!」という展開は今の所考えておりません。
ただ、今後一切、エリクサー争奪戦が起こらないかというと、その補償もありません。書きたくなったら書くかも。
※ただし主人公以外の周辺人物に、物語の都合だけの理不尽な不幸は起こらないことは明言しますし、主人公とその周辺人物に、危機管理の全くできないアホは出て来ません。(気をつけた上で出し抜かれることはあるかもしれません)
しかし主人公は、怯えて何もかもを隠すほど病的な人物でもありません。彼なりのバランスで危険を冒す勇気ある人物を描きたいと思っています。
本人でさえエリクサーである事を信じてはいません。(賢者の石が関わっているので、名称として使用しているだけ)
主人公にはそもそも全ての人にこれを使う気がない。
必要であれば躊躇しないが、代替手段があり、時間に余裕があるならそちらを選ぶ。(必要の判定はだいぶ適当)
古代王国期に作られたエリクサーが、確定した効果のあるものなのかどうかについては未設定です。(他の設定を考えると、ありそう)
現状(2025/01/10時点)でエリクサーの効果を他人が知ってしまう、明確な障害は、フローラさんの若返りの件だけだと思うのですが、
フローラさんは、そもそも郊外の森で1人で暮らしており、極限られた人間としか交渉しておりません。
たまに街で買い物くらいはするとは思うのですが、あるときやってきた若い娘さんを見て、たまに買い物にくるおばあちゃんが若返った!と思う人はあまりいないと思います。エルフなんでそこまで容姿に変化はないんですけど。
ラーダン周辺にはエルフが多いという設定があるのですが、それでも頻繁に見かけるというほどではなく、親しい人でなければ、まず「あ、エルフだ」という認識になると思われ、あの時あそこで見たあの人だ! という明晰な記憶力を持つ人はあまりいないでしょう。
フローラさんは、冒険者ギルドと薬のやり取りをしており、数人の人間と知り合いではあるのですが、その辺に関する話は、かなり先の展開で少しだけ描かれます。
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とゆー感じです。(大雑把にですが)
今回、このノートには、公開してない事前の設定と、未設定の部分、あるいは未公開部分に書いてあることと、考えてはいたけど文字になっていなかった部分があるのですが、自分が言語化できていなかったままの部分を言語化でき、なぜそう思っていたのかが、自分の中でも明確になったので、すごくいい経験だったとマジで思います。
長く書いているとノリが出てくる部分もあり、設定や、前に書いたことと矛盾ができてきたりするのですが、できるだけ誤解を与えないようにしたいと思っています。
今回、貴重な機会をくれたコメントを書いてくださったみなさん、こんな長文を読んでくれた皆さん、ありがとうございました!