第1章 お宝発見前夜 6
「マルトード船長、君はなかなか優秀な手下を持っているようだな」
ウィリアムがトドマルの方に近寄って来た。
「
「そうか?まあ、どちらでも良い。この二人に少し話があるのだが、いいか?」
ウィリアムはトドマルの返答を待たずにヨイチハンとトウシロウに話掛けた。
「弓使いの方は先程、見せて貰った通りの名手だが、拳闘家の方も動き自体は何かのジョークにしか見えないが、その実力は達人級だ」
ウィリアムは二人を褒め称えた。
「その二人がこんなチンケな団に埋もれてしまうのは実に惜しい。ついてはブラックシャーク団に移籍しないか?」
「お前は、俺から二人を引き抜くつもりか・・・?それに俺達がチンケな団だと!」
トドマルは声を荒げたが、ウィリアムはそれも無視した。
「無論、タダでとは言わん。二人にはそれぞれ契約金が支払われ、そこの船長さんと私にはブラックシャーク団から人材紹介手数料が支払われると言う寸法だ!」
「ふ、ふざけるな!」
トドマルは更に声を荒げたが、ウィリアムはトドマルの言葉を
「お二人さんの方は、どうかね?」
「話に成らんな!拙者にはマフィン団が全てだ」
ヨイチハンはきっぱりと断った。
「そうだ、そうだ!」
トドマルはウィリアムを見返した。
「で、契約金は幾らだ?」
トウシロウがウィリアムに訊ねた。
「え?おい!」
ウィリアムは黙って人差し指を1本立てた。
「何だ、1フローリンか?金貨1枚で俺をスカウトするたぁ、少し虫が良すぎないか?」
「君は馬鹿か?」
ウィリアムの言葉に「それは違う!俺っちは馬鹿じゃない。アホだ!」とンス風に言い返そうかと思ったが、それを言えば本物の馬鹿だと思われそうな気がして、トウシロウはその言葉を呑み込んだ。
「1万だよ。1万フローリン!金の重量に換算すれば35kg!」
「い、1万だと?」
「最近の海賊団はどこも人手不足でな。それは業界最大手のブラックシャーク団も例外では無い。そこで君たちが先程のパフォーマンスを見せる事で、相手が早々に白旗を上げて呉れれば無駄に手下を失わずに済むって訳だ」
「1万かぁ・・・」
トウシロウは夢見る少年のような、遠くを見つめる目付きに成っていた。
「ああ、1万でも安いくらいだ!」
「ハハハハ、の歯!ウィリアム船長、あんたはもう少し頭が切れる人物だと思っていたが、それは俺の見込み違いだったようだな」
ウィリアムは、お前は
「あんたが、お宝まで奪ったらどうか?と言った時、俺は、俺達はお宝には全く興味が無いと答えたよな」
「それがどうした?」
「それは、俺達が間もなく、想像を絶する凄いお宝を発見するからだ!だから金貨の1万や2万は、御祝儀でその辺の鮫にエサで呉れてやるつもりなのさ!」
「へへへへ、の屁!マルト-ド船長、大きく出たもんだ!想像を絶する凄いお宝を発見とはな!ホラ話もそこまでスケールがデカいと
ウィリアムは、心底可笑しいらしく、腹を抱えて笑い転げた。
「失礼な奴だな!あんた達に俺達のお願いを聞く積りが無い事は良く分かった」
トドマルは急ぎ、プリ二ー操舵長の方を振り返った。
プリ二ーが操舵室で右手を挙げていた。
よし!全力トンズラの準備は完了しているな。
「野郎共、交渉決裂だ。この船を襲撃して、船倉から予定のブツをババッチ号に運べ!戦闘開始!」
「おーっ!」
これも芝居の一部だと信じて疑わないエキストラが一斉に船倉に雪崩込んだ。
ブラックシャーク団の凄腕12人が、それを制止すべく剣を抜いて、素早くエキストラの後を追った。
用心棒の登場がやけに早いじゃないか!
仕方が無い。ここは撤退するか?せめて酒樽の1個くらいは持ち帰って呉れよ。
トドマルは、祈る様な気持ちで野郎共の背中を見送った。
「野郎共、総員撤退・・・アレッ?アレレレ?」
トドマルの眼前に信じられない光景が広がっていた。
エキストラを追いかけたブラックシャーク団の凄腕12人が全員、トウシロウの当て身を食らって気絶していた。
そして、ヨイチハンはウィリアム船長の側頭部から、矢先が10cmに迫る位置で弓を引き絞っていた。
「分かった!お前達を見くびっていた私の負けだ!私だけなら兎も角、ブラックシャーク団の用心棒を傷物にして返してしまったら、ブラックシャーク団に顔向けが出来ない」
ヨイチハンは、弓矢が向いている先を、ウィリアム船長の側頭部から外した。
「ここの酒と食料の半分を持って行くが良い。私達は次の寄港地で金を払って補給すれば済む話だ。そうだ、お前達も荷物を運ぶのを手伝いなさい!」
「へーい!」
ウィリアム船長の命令で、相手の船の乗組員と気絶から目が覚めたブラックシャーク団の連中までもが、積荷をババッチ号に運ぶ手伝いをした。
お陰で物資の積み替えは、短時間で完了した。
「いやー、久し振りに愉快で痛快だったよ。マルトード船長とマフィン団の諸君!またどこかで会えると良いな。それでは良い船旅を、そして良い海賊ライフを!」
ウィリアムはトドマルに握手を求めた来た。
やがて、全力トンズラ運行の必要が無くなったババッチ号は、船首をボーンホルム島の方角に向けて、まるで名残りを惜しむかのように帆に少しだけ風を
プリンシプル号から敬意を表する汽笛が
汽笛を持たないババッチ号は、有りったけの銅鑼を叩いてエールを交換した。
ユーモア小説 冒険王トドマルの生涯(青春篇) 瑠璃光院 秀和 @syuwa-rurikouin
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