第1章 お宝発見前夜 5

 「あーっ、もう!この距離で話してたら声が枯れてしまう。ウィリアム船長、そっちの船に行かせて貰うぞ」

 トドマルとマフィン団のエキストラ達は、次々と相手の輸送船に乗り移った。

 相手の輸送船の方も、乗組員がデッキに集まって来た。

 何でこんな中型輸送船に、これだけ大勢の乗組員が乗っているんだ?

 

 「マルトード船長だったな。ようこそプリンシプル号に」

 「俺は船長だが団長でもある。それも海賊団のな!」

 「そんなの見れば直ぐに分かるよ」

 相手の船員の一人が、そう言った。

 「見れば分かる?」

 「だって、あんたの船のマストの幌に、ソレソレ、メンソーレ、イケイケ、イケメーン、戦え我らは海賊マフィン団!って書いて有るからな」

 「そ、そうだったっけ?」

 このババッチ号にかれているキャッチコピーを、読む奴がいたとは!


 「コホン、では、ウィリアム船長、これから俺達のお願いを発表するよ!」

 「トド船長は、発表するのが好きだな」

 トウシロウは小声でンスに話した。

 「我々は現在、貴船が所有している酒類の半分を無料で分けて欲しい旨、ここに強く希望する。あ~、それから、お酒を飲む時ってやっぱりつまみが欲しく成るよね?」

 「成るな」

 ウィリアムは相槌を打った。

 「ゆえに、つまみに成りそうな食料を少々、やはり無料で分けて欲しい!だが、この希望は酒ほどの強い希望ではない!」


 「はっはっはっ、つまり君達は我々に酒を半分は絶対に分けて欲しいが、つまみの方は出来れば少しだけでも分けて貰えれば有難いと言う事だね?」

 「ウィリアムさんの理解が早くて助かる」

 トドマルは自分達のお願いした内容が、正しく相手側に伝わった事を確信して、ホッと肩で息をついた。

 「君達は本当に面白い海賊団だな!」

 「良く言われる!」

 「だろうな。ところで君達は、我々がゴッドランド島で最大の海賊、ブラックシャーク団御用達の商人だと知った上での要求かね?」 

 「そんな事は知らん!もし知っていても俺達はお願いする立場だから、その内容に変わりはない!」

 「ほう、ブラックシャーク団を敵に回しても構わないと?」

 「ブラックシャーク団か人食いジョーズ団かは知らないが、そんな物をいちいち怖がってたら、海賊なんか務まらねぇよ!」

 「君達は益々、面白い」

 ウィリアムは、これ以上は無い程、嬉しそうな顔をした。

 「それでは最後にひとつだけ君達に伝えて置こう。我々は今、ブラックシャーク団から預かっているお宝を、或る場所まで運ぶ途中だ。そのお宝を守る為にブラックシャーク団の凄腕の用心棒が12人乗船している」

 どおりで中型輸送船なのに、やけに乗組員が多い筈だ。

 「どうかね、君達が我々から力づくで酒やつまみだけではなく、お宝まで奪うって言うのは?」

 ウィリアムは、既に勝ち誇った表情に成っていた。


 「俺達はお宝には全く興味が無いが、そっちが力づくで奪えと言うなら、お願いの交渉は決裂だな、野郎共、デモスト1,2の連続展開を用意せよ!」

 トドマルは野郎共に命令した。

 「おっと、俺に本番の準備をする時が来たようだな」

 そう言うとトウシロウは、皆の陰で柔軟体操を始めた。

 「トウシロウさん、デモストって?」

 ンスがトウシロウに訊ねた。

 「デモンストレーションの略!お前って本当に馬鹿だよな」

 「残念だがそれは違う!俺っちは馬鹿じゃない。アホだ!」

 「そうだったのか?知らなかった!」

 トウシロウは、ンスの説得力のある言葉に感動を覚えていた。

 ただ、ンスがデモンストレーションの意味を理解してない事だけは確かだった。


 「デモスト1オペレーション、発進!」

 トドマルは声高々に野郎共に命令した。

 デモンストレーションが発進する事を知って驚いた野郎共だったが、事前の打ち合わせ通りに声を揃えた。

 「あれを見よ、あれは鳥か?、飛行機か?、いや、あれはあんた達のロゴマークだっ!」

 マフィン団のエキストラ達の掛け声で、相手の乗組員全員が自船のマストの帆を見上げた。

 それを見たヨイチハンは弓を引き絞り、海上はかなりの強風が吹いていたが相手船のマークの中心を射貫いた。

 オーッ!と相手の乗組員から驚きの声が上がり、ウィリアムを含めた全員がパチパチと拍手をした。

 「いや、お見事!」

 ウィリアムはヨイチハンを称えた。


 ここが勝負所だと感じたトドマルは、直ちに次なる命令を下した。

 「デモスト2、発進!」

 トドマルの号令で、気分が変わったのか、トウシロウは打ち合わせとは異なる型を披露した。

 「名もなき神拳、屁ノ屁ノの呼吸、第一の型、モヘジー!」

 トウシロウの流麗だが、ユーモラスでコミカルが動きに相手の乗組員はゲラゲラと笑い転げたが、一人、ウィリアムだけは真剣な表情でその動きを追っていた。


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