後編
手始めにと、セアは食堂へアセビを連れて行った。休憩も兼ねての為、職場の大勢が利用する。
「完全栄養食品のスティックと、ゼリー飲料……。せめておにぎりにしたら?」
普段通りの動きをするアセビ。手にしている物を見て、セアの表情は引きつる。
「それってお腹ふくれる?」
「食べた実感はある。男女で感覚も変わってくるし、問い詰められても困る」
「問い詰めてないって。そう感じたなら、ごめん」
アセビの手から完全栄養食品のスティックが消える。別の何かが、皮膚に触れた。
「スープ?」
「手軽だし、栄養も取れるよ? それに、お湯を使うから温まるし。満たされる感覚もある」
アセビの表情が、僅かだが、変わる。
「これにする」
「俺も同じやつにしよ」
ではまた後ほど、と業務を済ませて、昼休み。
1人増えたことに、アセビの目が泳ぐ。
「ちょうど休憩らしくて、誘った」
男性の手元にはランチボックス。
「セアの同僚? 事前に言ってくれよ。もう1人いるって」
「いるって知ってたら、何を考えたんだよ」
「昼を考えずに済んだんだ」
「節約したくて弁当にしてるんじゃないんだ?」
「独りだと自由だし、そうしてるだけで。というか、独りで食堂は虚しい」
男性の言葉に、アセビは目をぱちくり、不思議そうな顔になる。
「何で独りは虚しいんだって思ってる女が目の前に」
淡々と話していたが、セアは堪えきれず、最後は笑う。
「1人の時間がないとダメって人はいるんだから、恥ずかしいことじゃないんだけどね。僕はどうにも考えちゃって、こうして誘ってくれるセアには正直感謝なんだ」
なるほど、とアセビは何度も頷いた。
男性は急用が入り、パパッと済ませると、行ってしまった。
「スープを選んでみた感想は?」
「身体があったかいし、美味しかった」
次の日も、なんだかんだ理由をつけられ、昼休みを数人で過ごす事となった。
「2人とも健康的なモノね〜。流行りのモノとか食べないの?」
ピンクの髪。甘そうなドーナツにかぶり付く女性。
「俺は甘いものは、ちょっとね。アセビはどう?」
「興味がない」
「苦手ならやめとくけど、どっちでもないなら、ひとくちいきなよ~」
女性は、ドーナツを指先でちぎり、アセビの目の前へ差し出した。
「では……頂きます」
「ちょい待ち。ここはあーんってするとこだからね?」
「なぜ……?」
「いいから。あーんってやってみ?」
ぎこちなく開いていく口。女性はポイッと入れる。
やわらかい舌触りと、広がっていく甘さ。人の手から直接食べたという行為に、アセビはどこかフワフワした気分になる。
「……美味しい」
「へぇ、そっか。良かったじゃん」
面白い状況に、セアは微笑む。
特に用事は無いらしいが、ルーティンのようなことがあるようで、女性は行ってしまう。
「セアはいろんな人と付き合いがあるんだな」
「ちなみに、選んで付き合ってるから」
「選ぶ?」
「甘いものが苦手なら無理やりはしないって、さっきの奴言ってただろ?」
「そうだね」
「まわりの考えも聞ける奴を選んでるから、偏りは多少ある。本当にいろんな奴でいいなら、周囲を巻き込んでる」
「なるほどぉー……」
包容力のイメージしかなかったセアに見えた、ダークな一面。
「まだ、人生を終わらせてもいいって、考えてる?」
「肩の力は抜けてきた気がする」
「考えすぎなくなってきてるなら、いいか。最終手段も考えてきてたけど、いいや」
「最終手段?」
セアはそっぽを向く。「俺を彼氏に選ぶっていう選択肢」
「それだと、別の意味で、人生を終わらせてもいい」
「なんで……」
「充分に満たされたってこと。自分には良すぎる人だから」
そう言って微笑むアセビ。わらってるならいいかと、セアは息をついた。
もう終わってもいいと思った 糸花てと @te4-3
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