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それから俺と草平は、途中だった食事を再開した。刺身の船盛もきれいに平らげ、すっかり机の上を片付ける。食欲は、本当を言えば全然なかった。草平も多分、そうだったと思う。生きるの死ぬのの話をした後に、食欲がわく人間なんていないだろう。それでも、俺も草平も、料理を全て食べてしまうまで、箸を止めなかった。そうしている間は、黙っていても自然だったから。
食事を終え、俺は徳利の酒を自分のお猪口と草平のお猪口に注ぎ分けた。草平と二人で酒を飲むのは、はじめてのことだ。草平が無暗に酒を飲んでいた頃、俺は酒なんかめったに飲まなかったし、こうやって温泉宿で俺が飲むようになったら、反対に草平が飲まなくなっていた。
「……何回目か、覚えてる?」
黙っているのも不自然な気がして、俺がそう問いかけると、草平は黙って首を横に振った。
「だよね。俺も覚えてないもん。」
「お前は、覚えとけよ。」
「なんで。」
「……なんでも。」
変なの、と、笑いながら、俺は涙を流さないことに必死だった。これで最後なんだから、そんなに寂しいことを言わないでくれ。誰も信じないたちならそれでいいから、俺には好かれていたいなんて、そんな片鱗を見せないでくれ。
徳利が空になると、俺たちは銘々歯を磨いて、中居さんが敷いてくれた布団で寝た。今夜の中居さんは、当然のことながら二人の布団をやたら離したりせず、常識的な距離感で敷いていった。俺は点々と寝返りを打って、一晩眠れなかったのだけれど、草平はじっと仰向けになっていた。眠っていたのかどうかは、知らない。どちらにしろ、異様に寝相がいい男ではあるのだ。
翌朝、無言で朝食をとり、いつもより早い時間の急行に乗って、最寄の駅まで戻った。いつもなら途中で乗り換えて去って行ってしまう草平が、なぜだか今日は、俺について俺の最寄りまで電車に揺られていた。その間も、別に口は利かなかった。
「じゃあ。」
最寄駅で電車のドアが開き、俺はそれだけ言って、席を立った。もしかしたら草平はついてくるかもしれないと、期待しなかったと言えば嘘になる。でも、草平はただ黙って頷いただけで、腰を上げはしなかった。
よかった。これでよかったのだ。
何度も自分に言い聞かせながら、ホームを足早に抜け、改札をくぐり、駅を出る。
よかった。これでよかったのだ。
アパートへ向かう道をたどりながら、何度も何度も繰り返していると、一筋だけ涙が頬へ流れた。俺はそれを手の甲で拭い、かっこつけずにキスぐらいしておけばよかったな、と、ひとりで笑った。
道行ごっこ 美里 @minori070830
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