誰もいない

白川津 中々

◾️

父の葬式のため、暫くぶりに訪れた故郷の景色は、相変わらずだった。


四方を囲む山々が閉塞的で息を詰まらせる、鬱屈としたら世界。多数に枝分かれした清流によって分断された区画が輪中となって陰湿な精神性に拍車をかけている。こんな場所で育ち、よくも人としての心を持ち得たと自画自賛に浸る。外来や馴染めない人間を淘汰していく風土が築かれた田舎町は、留まるだけで息苦しい。


「君が偏屈なだけだよ。いいところだよ、ここは」


かつて、知人にそういわれたが、彼女はもうこの田舎にはいなかった。学校卒業後すぐに都会へ行って、それっきりのはずである。

彼女だけではない。多くの若者が皆、自身の産まれた場所を特別に思いたいくせに、都会の風に憧れるのだ。


「僕は、ここを出たい」


あの時の言葉を吐き出してみるも、広がる自然にかき消され、なにもなくなってしまった。


山々と川と、空が澄み渡る透明な空気の中で僕は、帰りの切符を持つ指に力を込めた。

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