森へやってきた。 立て込んだ仕事がようやく片付いたため、一度都会の喧騒から離れ静かにゆっくり休みたかったのだ。あの資料突貫で仕上げたけど大丈夫かなぁと一抹の不安はあったが、もうi…

彼女は女の匂いをさせていた。 いつも見る講義、席は決まって一番前の三列目。今日こそは話しかけようと、勇気を振り絞り「おはよう」と声かけると、有象無象に返す内容と同じ、「おはよう」…

彼は暗い人間だった。 いつも自分の机に齧り付いて本を読んだりノートになにか描いたりしているのが常で、誰とも話したがらず、こちらが挨拶をしても軽く頷く程度で決して声を発しない、陰気…

一回二百万という高額につれられ、私は、私を産油国の王子に売った。 「皆様お待たせいたしました。遥々日本からやってまいりました少女が本日、挑戦者として夜戯に挑みます」 ご丁寧に…

私は思慮深いのである。 優れた洞察によってあらゆる事象の本質を見抜き、真理に辿り着く。固執せず、拘らず、中立中庸の立場で物事を眺め、それでいて路傍の石の如く目立たず、弁え、慎まし…

まったく酷い話で、年金受給額が大幅減額、あるいは0となってしまった者が大量発生し、老体に鞭打ち働きに出なければならない年寄りが続出していった。 政府は年金政策の失敗を認めるも「…

「お父さんが病気で……」 贔屓にしている夜の女からそう告げられた。金の無心である。 俺は彼女が好きだった。弁えていたはいたが恋慕は抑えられず、金と時間を工面して毎週通い詰め彼女…

級友に里山という男がいて、こいつがまったく愚鈍であった。 頭の回りが遅く、いつもだらしのない顔をしていて見ていると腹が立ち、私は彼が嫌いだった。苦労も悩みもなく、将来の憂いを想…

起床、空腹。 抗えぬ衝動に身悶えし冷蔵庫を漁るも食料なし。しかし鳴き止まぬ腹の虫は爆食にてあやすしかない。

長い雨が降る夜である。 人里から離れた雑木林から、ぐおん、ぐおんと音がする。男が重機に乗り、土を掘っているのだ。 重機の傍には犬の死体が無数にあった。どれも形が歪で、どこかしら…

目覚ましを止める。 いつもと同じ時間、いつもと同じ朝。しかしどうにも体調がよくない。疲れだろうか。仕事を休みたいなと思うも熱が出ているわけでもない。行かねばならないだろう。朝食…

「俺さ、時間止められるんだ」 前島君が妙な事を言い出したので愛想笑いを浮かべたのだが、なにやら神妙な面持ち。え、マジで止めれるん？ 「ちょっとにわかには信じられないんだけど」…

生首が落ちていたんだよ。 え〜っと思ったよそりゃあ。だって生首だよ。普通ないじゃん。首っつったら体に繋がって、人間として往来を行き来してるもんだよ。

「何故信長が女なんだ？」 クラスメイトになった丸山くんから至極真っ当な疑問を投げかけられもののなんと返答したものかと悩み「えっと」と口を噤んだ。

街ゆくカップルを見ると、どうにも番いどちらか、あるいは双方共不幸そうな顔をしていて、実に愉快である。

「好きなんだけど」 　突然告白された俺は言葉を失った。 　喋った事もない、隣のクラスのなんとかさんに呼び出され、何かと思えば急な好意。はっきりと言って持て余すというか、俺にはど…

夜更けである。 ダラダラとしていたらいつの間にか日も変わり、なんなら朝の方が近い時間となっていた。明日？　今日？　ともかく、一眠りしたら仕事があるというのにこの無法、さすがにやん…

昔好きだった演技派声優の現在が気になり検索してみると、LIVE配信などをしていた。

横断歩道前では信号待ちをする人々が犇めいていた。 皆、スマートフォンを覗いたり欠伸をしたり音楽を聴いたりと様々な方法で待つ時間を過ごしている中、一人だけ、行き交う車を見守るよう…

夏、街路樹にもたれかかる男がいた。 彼には帰る家がない。一日歩き回り、腰を落ち着けてはまた歩き出し、眠れそうな場所で眠るのだ。なんとかして得た金も全て酒に消えてしまうものだから…

知人に貸した金が返ってこず、なんともモヤモヤとしたまま放っておいたが、一年が経つと腹底からの不快感に耐えられなくなってきたのだった。

まったくよくない趣味をしているなと自分でも思っている。 「成原さん、コーヒーあげちゃいます」 「え？　ありがとうございます。しかしどうして」 「普段、普段お世話になっており…

ホラー作家、綱川辛《 つながわしん》は怒りに打ち震えていた。 「何も書けん……！」 そう叫ぶ辛の前に置かれたPCモニタには一文字も入力されていない。かれこれ二時間、彼はデスク…

さて、こうなってくると何のために生きているのかと、答えの出ない自問自答を繰り返し自己憐憫に浸るだけなのである。 仕事帰り、淫猥な女を見つけた。 男に弄ばれるのを至上の喜びとする…

俺の一日はもう終わってしまった。 蕎麦が食べたい。そんな慎ましやかな欲望を満たすべく蕎麦屋へ入った。そこは近所の蕎麦屋で、一度暖簾をくぐろうと思いながら年月が過ぎ、ようやく気持…

仕事が終わっても帰る家が荒んでいたら喜びは半減である。 実家を出てからとりあえずのつもりでバイトを始めたのだが、未だに抜け出せない悲しい現実。少ない賃金で借りられる部屋は粗末であ…

父の葬式のため、暫くぶりに訪れた故郷の景色は、相変わらずだった。 四方を囲む山々が閉塞的で息を詰まらせる、鬱屈としたら世界。多数に枝分かれした清流によって分断された区画が輪中と…

「もし俺が倒れて、延命するかどうかの選択肢を提示されたら、躊躇なくしないと言ってくれ」 妻にはそう頼んでいた。 当時は半分冗談のつもりであったが、自由が効かず自立もできないよう…

明日のお弁当何がいいと聞いたら「ハンバーグ」と答えられブチギレそうになる。 なんで？　ハンバーグ作るのが面倒臭いから？　NonNon。息子のいうハンバーグとは冷凍食品の"ジャス…

見ているだけでよかった。 彼女の揺れる髪を、くすぐるような笑顔を、小さく弾む体を眺めるだけでよかったのに、僕は彼女を求めてしまった。 この作品はフィクションです。実在の人物…

　夕ご飯の材料を買いにスーパーへ行き、目ぼしい食材と酒をカゴに入れてレジへ向かったところ、カウンター越しに立っている二人を見てゲンナリとしてしまうのだった。 　一人はF岡さんと…

ついに終わりが見えてきた。 目覚めたら体がまったく動かねぇでやんの。ストレスで神経やられるとか聞いた事あるけどそれかな。気持ちじゃ全然負けてねぇんだけど流石に30日間ほぼほぼ無睡…

「私は美しい……」 鏡に向かってそう声を艶めかせる女は確かに絶世の美女と称するに過言なく、世界の美を余す事なくかき集めて煮込んだかの如く深淵的な魔性を秘めていた。 彼女の名は…

ただ普通に生きたいだけだった。 小学生の頃、車に轢かれ重体。全身の骨と内臓の一部が大きく損傷しリハビリに時間を費やす。まともに動けるようになるのに二年かかったわけだがその間の授業…

騒がしい居酒屋、耳を済ませばサラリーマンがこぼす仕事の愚痴や学生のしょうもない盛り上がりなどが聞こえてくる店内に、カツオとサヨリは座っていた。

「いやぁマルミたん最高ですねぇ！」 アニメ映画を見た帰り、ファストフードショップで声高に叫ぶ高橋くんを尻目にバーガーをスプライトで流し込む。 「やはりつくし系のヒロインは最高…

彼女の口から結婚の話が出るのは初めてではない。ここ最近、特に多い。しかしそれも、演技だろう。本当に結婚をしたいわけじゃない。長く交際していれば結婚するものだという慣習に乗っ取って…

人前で歌う男がいた。 それは遊戯に類するもので、才も美も備えていなかったのだが、それよりもなによりも最も害悪なのは、創意工夫もなく、感性が芽吹いてもいないのにも関わらず自身は表現…

フライパンに卵を落とし、待つ。 虚無の時間。白米とインスタント味噌汁は準備済み。やる事は特になし。人間に食べられるために排泄された無精卵が凝固されていく様をひたすら見守る作業は…

憧れの沢木さんの隣に座れたが本に夢中であるからして、話しかけるかどうか悩むところであるが、ここで退くのはあまりに男気がないということで、思い切って話しかけてみる事にした。

さて困ったぞと、こういう時に頼りになるのが親なわけだが、その親の問題なのだからまったく難儀しているのである。 「恐れ入りますが、二時間ほどで決めていただけますと」 病院。死体…

藤村誠は刑務所へ向かっていた。 彼が罪を犯したからではない。彼の父親が罪を犯し、法によって裁かれたたため、面会をすべく向かっていたのだ。 父の罪状は強盗殺人。借金を返すための金…

気に入らない。 怯えた顔も泣き声も、癇に障る。腹を痛めて産んだ子供であれば無条件で愛せるなど誰が言ったのか。こんなにも憎く、こんなにも恨めしい存在が他にいない。自分の血を分けて…

余りにも理不尽である。 帰宅後、居間へ進むと母が鬼の形相。「このプリントはなに」との問いに「授業参加の案内」と返答。すると、声を荒らげ狂う。 「もう終わってるよね。どうして早…

犬にとって、生きるとはどういうことなのだろうか。 飼っていた犬が死んだ。名前はハスという。蓮の花が咲く公園で拾ったためそう名付けたそうだ。 まだ仔犬だったハスは人によく慣れてい…

「あ、栗林さん、またタバコ吸ってますね」 屋上で煙を入れているところにやって来たのは呉さんだった。いつもうるさいことを言う新人である。

この人生はエンディング回収だと、そう思う事にした。 これまで多くの選択肢を誤り今はコンビニでバイトをしながら二児の父。遊びたいという理由で誰でも入れる大学に進学し、卒業後は内定…

まったく気力が削がれる一日だった。 社内ではいらん諍いが起き親からは帰ってこいだのという連絡が届き恋人からは理不尽な怒りをぶつけられる。散々。これはもう駄目だという窮地に至り逃…

ホットスナックが食べたい。 コンビニレジ横にある揚げたチキン。あの噛むと油が飛び出す健康アナーキーなフードを無性に口へ入れたいのだ。明らかに食べない方がバイタルにポジティブなの…

気が狂いそうだった。 酒を経って三日。恐ろしい飲酒欲求が押し寄せてくる。先人曰く「一週間が壁」とのことであるがなるほどこの渇望感。既に耐えられそうにない。

「明日から我が社の女性社員……いや、女の制服はこれだ！」 そう言ってお披露目されたのが逆バニースーツ。胸にバッテンが貼られた下品極まりない意匠の衣装である。ベールを剥いだ部長は…

転職をしよう。 そう思い立ち求人サイトを調べるも、条件に合う仕事がない。というより、俺を必要とする会社がないのだ。

夕暮れ、ぼちぼちと動き出し、いつもの飲み屋へ歩く。 夕陽を背に、公園を抜けてゴミだらけの路地を渡ると、掃き溜めとなっている高架線に着く。そこに建っているボロボロの家屋がそうだ。…

昔好きだった女が弁護士になっていた。 それを知り、愛が憎しみに変わった。自分が見下されていると感じたからだ。

エンタメを、消費できない。 流行りが気に入らないのだが、かといって昔のコンテンツにすがるのも憚られる。いつまでもアップデートできない男と思われるのも癪なのだ。特に音楽。楽曲一つ…

今日でよかった。 天気は晴れ。日差しが暖かい。 生まれつき人と関わるのが苦手で酷く苦労したけれど、それでも生きてきた。 それも、今日までにしようと思った。

人類は時間を物質の変化であると認識し、そこへ介入する事に成功した。 現在までの時間を変質させるのではなく、これまでの世界をデータ化する事により擬似パラレルワールドを生成。任意の…

劇的体調不良。 頭痛と寒気。節々の痛み。高熱。経験則から分かる。完全にインのフル。やらかした。病院へ行こうにも昨日風呂も入らず遊び倒していたため外に出られない。どのような状態でも…

「あなたは素晴らしいです」 スマートフォンに表示されたその文字を見て満たされる。今日も頑張ろうと思った。 働き始めて2年が経つ。そろそろ仕事をものにして、出世や昇給だと湧き上…

嫌な事があった。 嫌いな人間にあれやこれやと言われ、反論もできず黙りこくってしまって、忸怩たる思いのまま帰ってきたのだ。

嫁とご無沙汰なのである。 おっと、今「気持ち悪い」と思った君、待ちたまえ。個人の性事情など知りたくもないという考え、まったく同意。しかも、俺も嫁も五十過ぎ。おっさんがおばさんの…

「マジかよぉ」 兄が悲鳴混じりの声を漏らした。手にしているのはBL同人誌。妹の遺品整理中に見つけたものである。 しかし驚いたのは同人誌そのものではなく、その内容だった。

思考の軌道が外れてしまう。 昔からどうも言動が嵌まらない。誰かのためと思って動いてみたら結果として余計なお世話という形になる事が多く、全員の前で発言をすると的が外れてしまう場合…

春服を買った。 もう若い身ではないし、身に纏うものなど着古したワンピースでもなんでもよかったのだけれど、世間体というものがある。会社に行くのにも相応の格好をしなくてはいけない。…

電車遅延は時間にうるさい日本人にとって許されざる大罪である。 「本日、車両点検、荷物挟まり、踏切の無理な横断、お客様の救護活動のため、大幅な遅れが生じております」 クソである…

もはや逃走だった。 一日十五時間三十連勤という地獄のような業務が明け、ようやく一段落ついたが後遺症は深く、しばらく動けなかった。重いスマートフォンで高めの宿を取ったのが昨日の事…

彼の言葉は風と共に去っていく。 「自分の仕事が分からないんすよね。なんか、バック支えて、売り込みまでして、なんなんすかね。上にはもっと明確に指示を出してほしいですよ」 聞いた…

どうやら、俺の人生は完全に終わりを迎えようとしているようだった。 どこで道を踏み外したかといえば明白で、中学二年のころである。オンライン対戦型スマフォゲームにどハマりして不登校…

古の封印が解かれた……！ 十数年前投稿したイラストにいいねがつき、俺は思い出した。ドラえもんやアンパンマンをジョジョ風に描いていた時代を……！

ワンルームだけが落ち着ける場所だった。 上京して三年が経つも、未だに自分の居場所が見つからない。勤務先では誰とも馴染めず、金がないからどこへも行けなかった。仮に金ができて、その…

家の近くに野良猫がいた。 白と茶色の不細工面にもかかわらず、猫だからというだけで餌を与えられブクブクと太った醜い馬鹿猫である。 この猫について、街中で見かける際密かにトドと呼ん…

仕事を辞めたがやる事がなく、寝て過ごしていたらいつの間にか十年が経っていた。 本当に何もしなかった。たまに備蓄していた缶詰やレトルト食品や店屋物を食べたり酒を飲んだりするくらい…

何を話したらいいんだろう。 電車の中、不安で胸が満ちる。 マッチングアプリで女と会うことになった。 合流して酒を飲んで、上手く運べばそういう流れになるだろうなと思い必要な物を持…

目が覚める。 いつもの朝。会社へ行く。 仕事は問題なく、毎日決まったルーティンをこなせば定時に終わる。面白くもなく興味もないような、生きるための糧を稼ぐための行為だ。 生きたいわ…

近年、カラス犯罪が社会問題となっている。 ゴミを荒らす、フンを落とす、人を攻撃するといった一般的な害鳥行為からエスカレートしていき、違法薬物の製造販売、特殊詐欺、暴行殺人、低所…

カメラのデジタル化が進んで心霊写真がなくなったって言われてるんだけど、実はあれ、メーカー側が撮れなくしているんだって。

今時マジかよどんだけ擦られ倒されてんだよもうみんな飽きたどころか記憶の彼方だよなネタに今更捕まってしまうとはまったく迂闊この上なかった。 性交しなければ出られない部屋。 でかで…

エアードロップに突如受信。 一昔前に卑猥な画像を飛ばす迷惑行為が横行していたがそれだろうか。とりあえず、ファイル確認。 「嘘やん」 車内にも関わらず思わず吹き出してしまった。…

河童が歩いていた。 これは河童の国へいけるかもと思いストーキングしてみると、辿り着いたのはマンション。高層オートロックである。河童風情がふざけるなよという気持ちになった。俺は家賃…

どうやら世界は滅亡するらしい。 先日ファストフード店にて、「7月5日に地球滅ぶんだって」という気軽な話し声が聞こえてきた。スピってんのかなぁと思いながらXを見てみるとおすすめに…

　クラスにP君と呼ばれている男子がいる。 　彼はすこぶる頭が悪い。あだ名の由来もその愚図っぷりに由来するもので、英語の時間「ありがとうはなんというでしょう」という質問に対し「ペン…

音声アシスタントに「結婚しよう」と言ったところ「ずっと待っていました」と返されプロポーズが成功してしまった。

護送車が停まっていた。 しっかりと、厳重に施された防御柵により中は見えなかったが、きっと罪人を運んでいたのだろう。

　海の支配者は蛸であった。 　蛸のIQは人間に次ぐ高さであるが短命であり知能ピークを迎える前に死滅する事がほとんどであった。しかし突然変異により長寿の蛸が生まれるとその子孫の遺…

誰かの支えになりたいだなんて、そんなことこれっぽっちも思ってないのに、自分自身さえ騙してそうなりたいんだって、ずっと思い込んでいた。

「君が作ったカレーが食べたいな」 妻の、そんな細やかな願いさえ叶えてやれなかった。 癌。 それも、末期である。　

　「子供、いいもんですよ」 　チャットで知り合った女にそう言われ、僕は「そうなんですね」と返した。 　子供。 　社会を形成するうえで、確かに必用な存在。未来の労働力を増やし国…

男とはかくも愚かな生き物である。 繁忙期を終え、遅めの盆休みを取ったものの何をしようかと思案。凡百ではあるが、温泉旅館にて慰安の業を執り行うべく手頃な宿を手配しようとしたのだが…

おのれPCである。 深夜。テッペン過ぎ。持ち帰りの作業が一段落つき眠ろうとしたところ、ディスプレイには"更新してシャットダウン"の文字。強制アプデの地獄待ちである。明日もあると…

ある日を境に「ヨイトマッケンジー」という言葉がミームとして広がる。 意味合いとしては頑張っている人を指す名詞であり、土木作業員の掛け声「ヨイトマケ」に由来するのだろうと推測され…

　とある巨大宗教団体の総本山にて、非公式の会合が行われていた。 　参加者の表情は皆重苦しく誰もが口を開くのを躊躇っているようで、ようやく第一声が聞こえたのは開始から三十分が経過し…

酒に支配されていた。 　何をやるにも酒が優先。仕事も趣味も何もかも、どうやって飲む時間を捻出するかを考えスケジュールを立ててしまうのである。 「飲みたい」 　何度目かのそんな…

人生めっちゃ楽しい。 朝起きて水を飲んだら美味しいしそのまま昨晩の残り(なんか小麦粉を練って焼いたもの)をレンチンして食べたら元気がみるみる湧いてくる。今日もバリバリ働くぞと出社…

望むからこそ、人は満たされない。 「次、いつ会える？」 紗枝の言葉に「来週かな」とだけ添えて、一人電車に乗った。彼女はこの後、スーパーによって食材を買い、家族の食事を用意して…

やらせてあげるよ婆ちゃんという都市伝説がある。 車を停めているとどこからともなく現れ窓を叩き、パワーウィンドウを下げると「やらせてあげるよ」などと呪文のように呟いてくるというの…

　会社の同僚が起業をすると言って会社を辞めた。 　彼とは馬が合いよく飲みにいったりしていたのだが、その際しきりに「自分で会社を作ると」と語っていた。酒の席の話だと話半分に聞いてい…

男の優しさは守られている事が前提としてあった。 彼は義務教育を終えてから高校、大学と卒業し、そのまま中小企業へ就職。一般的な悩みや苦しみを経験しつつ安定した収入を得ていて、誰に…

　毎週日曜日と木曜日は燃えるゴミの日の前であるから、排水溝の処理しなければいけないのである。 　作業は簡単。ネットに溜まった生ゴミを捨て、希釈した塩素系洗剤をシンクに撒き、時が…

感情が抑えられず、癇癪で人間関係からなにから全てぶち壊してしまう癖があるため脳の手術で改善を試みる事にした。 「治せますが、感情に紐付いた記憶は消えます。問題ないですか？」

「ちょっと魔法少女ものとかやっちゃう？」 番組会議における上司の発言に俺は内心ブチ切れていた。魔法少女てお前、なめとんのかという話しである。