第39話 クオリア

「ここで会ったのもなにかの縁!!!全部ウチにぶつけてぇな!!!最初にも層言うたやろ!!!」


パシンッッッ!と手のひらに拳を打つサーシャ。

何を戯けたことを…とショコラは睨見つけるもどこか心に不思議な感覚を覚える。

なんなんだこの気持ちは。

たった今出会ったばかりの女だぞ。

それにただの地球人だ。

そんな女に自分の何がわかると言うのか。

しかし、ショコラは何もかもをぶつけたくなる衝動が沸々と湧き上がる。

これは決してまやかしなどではない。

サーシャという女は言葉の通り、全てを受け止めてくれるかのような心情にさせてくる。

コイツは危険だ。


「グゲゲゲ…面白れぇ…。だったら望み通りに…全部ぶつけて…。」


拳に力を入れる。

血管が次第に盛り上がり体中へと駆け上る。


「グチャグチャのスクラップにしてやらぁぁぁぁッッッ!!!!!!」


勢いよく飛びかかるショコラ。

サーシャは会話を通じて回復はしたものの万全ではない。


(来るッッッ………!!!!!!)


ショコラは鋭利な爪を伸ばし、貫手の要領でサーシャに突き刺す。

それを間一髪で首を曲げ回避。

しかし左腕が生きている。

ショコラは残った片方の腕でサーシャにボディブローをお見舞い。

鈍い衝撃音が響く。ギリギリのタイミングで両腕を前に、腰を低くし足を内またに曲げサーシャはブロック。

重たい一撃が腕を通して伝わるも、直ぐに反撃にでる。

そうでもしなければ嵐のような連撃が襲いかかる。

サーシャはショコラの足を引っ掛けながら上半身を押し倒した。


「アンタの弱点はなぁ…!!!これやろッッッ!!!」


ガシッ!!!


ショコラの左腕を股ぐらに挟みつつ逆側に折り引っ張るサブミッション。

腕ひしぎ十字固めだ。


「グギャギャッッッ………!!!」


「アンタの身体に貼ってるバリア!関節技は防がれへんやろ!!!」


脂汗を流しながら苦しむショコラ。

選手専用客席でガッツポーズを取るベラニーたち。

確かにサーシャの言う通り、ショコラの身体に張り巡らせているボディバリアは物理技が効かない。

しかしこの世のどんな魔法にも穴がある。

完璧ではない。

バリアを殴り続けるといつか綻び崩れる。

しかし今の状況を考えればそんな悠長な事はとてもではないが言ってられない。

起点を利かしたサーシャの鋭い判断が光った瞬間である。


「どないしたんな…!!!反撃してみ…ウォ………ッッッ!!!」


「ガギギギ…!!!」


馬鹿力で無理やりサーシャを持ち上げるショコラ。

力の差もそうであるが、何より問題は身長差である。

サーシャの身長158cmに対してショコラの身長は241cm。

ほぼ1m以上の身長差にてこの原理を用いた腕ひしぎは限界を迎えていた。

腕を持ち上げたと思いきやゆっくりと立ち上がるショコラ。

これでは腕ひしぎの意味がない。ダメージは0になる。

サーシャはすぐさま技を解除して離れなければならなかったのであるが、体力の消耗のせいかバカだからなのか判断が遅れそのままリングに叩きつけられた。


「ガバッッッ!!!!!」


背中に強烈な痛みが走る。

しかしそのまま連撃はしないショコラ。

少しの間ではあるが、確実にサーシャの腕ひしぎが効いた証拠である。

腕をプルプルと震わし痛みを和らげる。


「イチチチ…やっぱしこんなんじゃアカンか…!ヨッシャ!もっと来んかいッッッ!!!………………て、どないしたんよ…。」


ショコラは頭を抑え苦しんでいた。

鋭利な牙が揃った口からは涎が垂れ、目をつむり眉間に皺ができている。


(も………いい………!もういい…!この辺で…辞めて…!!!)


「おい…ショコラのやつ、いきなりどうしたんだよ。」


「なんか苦しそうだけど…。サっちゃん今のうちに攻撃しないのかな…。」


周りの観客は審判、ベラニーたちには聞こえない確かな声。

聞こえているのはどうやらサーシャだけらしい。


(もういいでしょ!思う存分に暴れたんだから!)


「……………もしかして、ショコラちゃんか?」


その声の正体は表ショコラであった。

表ショコラは裏ショコラの激しい戦いのせいか、表に出てきてしまったのだ。


「て………てめぇ…!!!な、なんで…起きて…やがんだ…!!!普段はぁ………、ね、寝てるのによぉ…!!!」


(そんなのわからないよ…。でも…でも!もういいじゃない!どれだけ勝手なのよ!もう十分暴れたんだから満足したでしょ!もういい加減にして!)


「…………………。」


ショコラとショコラの対話。

サーシャは黙って見守っていた。


「だ…黙れ…!!!いつもいつもテメェだけいい思いしやがって!!!私にも楽しませろ!!!美味しいもの食べたり!恋したり!遊んだり!服買ったり!テメェだけ楽しみやがって私は蚊帳の外ってかッッッ!!!」


「あのさ。」


(うるさい!いっつもいっつも邪魔ばっかり酷いことばっかりするじゃない!何が楽しませろよ!どれだけ自分勝手なの!)


サーシャは貧乏揺すりが目立ってきた。


「あの、ショコラちゃん聞いてん…」


「テメェの人生めちゃくちゃにすんのが楽しいからだよ…!!!」


(な…………!!!あなたのせいで…友達も離れた!好きな人には嫌われた!怖がられた!なんであなたはいつもいつも私の邪魔するの!!!もう現れないでよ!!!!!あなたなんかッッッ!!!!!!!!!)


「ショコラちゃんちょっちうるさいで。話聞いてや。」


ドスの効いた声が静かに響く。

イライラしていたサーシャが少しキレたのだろう。

裏表のショコラが一気に強張り身体に緊張が走った。


「今ウチが戦ってるショコラちゃん…、裏ちゃんはな…ショコラちゃんの事昔から助けてくれてたんやで。」


(え……………。な、なにを…。)


「詳しくは分からんけど、ショコラちゃん昔嫌な思いとか酷い事あったんやろ?その時助けてくれてたんが裏ちゃんなんやで。」


黙るショコラ。

感情をむき出しに叫んでいた姿から一変、サーシャの声に会話に耳を傾けている。


「昔からアンタの事助けてくれてたんやって。せやから決して悪い子やないで。大丈夫よ。」


「テメェ余計なことッッッ!!!…………」


「アンタもアンタや!なんで言わんねん!喋れや口あるんやからよぉ!なんや口臭いんか!そんなん気にせんでええやろがい!ウチはめちゃくちゃええ香りやけどな!」


嘘である。

正直サーシャの口は臭い。


「ちゃんと話せばええ事やろ!ええカッコしたかったんやろ!せやからショコラちゃんをわざと寝かせて知らん間に解決して満足してたんやろ!やのになんで腹立っとんねん!自分から始めたんとちゃうんかい!」


「………………ッッッ!!!」


「ショコラちゃんもショコラちゃんやで!知らん間に解決してたらなんかおかしい思うやろ普通!なんでなんも思わんかったんよ!これを機会にちゃんとお互い喋って会話して乳開かんかい!!!」


多分胸襟を開かんかい、と言いたかったのだろう。

サーシャの知能指数の低さが露呈。

ショコラは黙りこくり、裏ショコラは怖い顔のままサーシャを睨む。

しかし憎悪などの睨みではない。


「……………………黙って見てろショコラ。」


落ち着いた声。

先ほどまでの憎しみがこもった声ではない。

サーシャもすぐに解決するような事ではないと分かっているのでファイティングポーズを構える。


「……………始めんぞ…。」


「せやの。客も退屈してまうわ。ちゃんと後で話しぃや。」


「……………なんなんだお前は…。」


小さくつぶやき、ショコラはリングを蹴り飛ばし駆け出した。


「アヂャーーーーーッッッッッッ!!!!!」


サーシャがあびせ蹴りを放ちショコラの肩にぶつけ、続けざまにパンチを浴びせる。

ショコラもショコラでカウンターを仕掛け着実にサーシャにダメージを与えていく。


ウォオオオオオオォォッッッッッッ!!!!


観客は盛り上がり、アスカたちも両者を応援。


「ショコラさんにダメージが通ってる!バリアが解けてます!」


「精神的なもんか。よくわかんねぇけどよ。」


マンナとベラニーがショコラのバリアが解けている事が解る否や、大声で応援を始めた。


ズガガガガガガガガガッッッッッッッッッ!!!


リング中央での殴り合い。

魔法などは使わず、シンプルな殴り合い。

両者考えるのは、ただ目の前の相手を殴り蹴るだけ。


「ギギャァァァァッッッッッッ!!!」 


ショコラの振り下ろしハンマーがサーシャの頭部を狙う。

サーシャは一気にしゃがみ水面蹴りでショコラをこかせ前のめりになったところに顎めがけアッパーカット。

クリーンヒットしたショコラは宙に浮かぶ。

しかしこれを利用し勢いのまましたから野太い尻尾でサーシャの顎にアッパーカット。

反応が遅れたサーシャはモロに食らい意識がとびかける。


(あ………かん…!!!!!!)


パシンッッッッッッッッッ!!!


相撲でよく使われるキツケ。

サーシャは両頬を思いっきり叩き、意識を保った。

そしてそのまま尻尾を掴みジャイアントスイング。

ショコラは初動で爪をリングに食い込ませこれを阻止。

 

「ほなコレはどないや!!!」


ショコラの背中に跨り、顎を持ち上げそのまま背中を逆折状態に運ぶ。


「キャラメルクラッチッッッ!!!」


キャメルクラッチの間違いである。


「何をしてますのサーシャ!!!キャメルクラッチは相手の腕も固定しなければ成立しませんわ!!!」


マクロビの言う通り、相手の両腕が生きていれば技として成立しない。

ショコラは腕だけの勢いだけで飛び上がり、サーシャを背中で潰す。

セントーン。

たまらず目をつむり大ダメージを受ける。

ショコラが立ち上がり接触が無くなった。

次は確実に反撃がくる。

サーシャもほぼ逝きかけの意識で無理やり肘を折り振り返ったショコラの頸動脈を狙った。


ガスッッッ


ニヤァァァ


(し………しまった…………!!!)


バックステップで後ろに下がったショコラ。

サーシャの肘打ちはショコラの喉元を掠ったのみ。


ドッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!


直後サーシャの腹にバズーカ砲のような前蹴りが飛んできた。

何回転もし、身体をリングに叩きつけラインスレスレまでぶっ飛ぶサーシャ。

ショコラは口をガバッッッ!!!と開きレーザーノウトを放とうとしている。

しっかりと印を結んでいるので威力も跳ね上がるだろう。

サーシャは立ち上がりその場から離れようとしたが、足の回復が追いつかず上手く動かない。

誰もが固唾を飲み終わったと感じた。


(喰らえや地球人ッッッ!!!)


口が光った。


「……………………………ッッッッッッ!!!」


……………………………


静まりかえる会場。

何故か技を出さないショコラ。


(ま………………まさか………………!!!!!)


いや、出さないのではない。

【出せない】のだ。


(こ……声が出ねぇ…!!!そればかりか………い、息も出来ねぇ…!!!)


それもそのはず。

サーシャが放った肘左フック。

ショコラの喉元を掠っただけとは言ったがその掠ったのが返ってまずかった。

衝撃で声帯が【脱臼】したのだ。

それも運悪く、呼吸器官をふさぐ形でズレてしまったのだ。

ショコラの技は声にある。

このままでは技どころか呼吸もままならない。

よく分かっていないものの、サーシャは足を無理やり動かし駆け出す。


ガシッッッッッッッ!!!


ショコラの頭部を右脇に挟み身体を持ち上げようと試みる。

ショコラは全身に力を入れなんとか耐えるものの、少しだけ足元が浮かぶ。


(負けて…………たまるか……ッッッッッッ!!!)


「ぐんぬぬぬぬぬぬッッッッッッ!!!!!」


分かるだろうか。

ここに広がるは恨みや怒りではない。

女と女の勝負。

女比べである。

互いに思いと気持ちをぶつけあうリングとなっている。

サーシャもサーシャで全身に力を入れ最後のフェイバリットまで力を込める。

油断は死、だ。


(負けるのか…!!!この私が…!!!なんのためにこんなところに…!!!)


「グギギギギギギ…!!!」


次第に身体が浮かぶショコラ。

もはやこれまでか。と思ったその時。


(踏ん張って!!!)


「ッッッッッッッッッ!!!」


(私も頑張るから!!!あなたも頑張って!!!)


なんとショコラが裏ショコラに激励。

本人もか弱き乙女、ではなく心と力を込め耐え忍んでいる。

浮かんでいた身体が再びリングに接触。


「それで……ええんや………ッッッ!!!2人は元は1人……!!!そうでなくちゃ…………!!!」


サーシャも負けじと踏ん張るものの、だんだんショコラに軍配が上がってきた。


(テメェ………なんで………。)


(私………すごい勝手だったと思う………。ごめん…………。もっとお話するべきだった…。もっと色々な気持ちを分け合うべきだった…………。でも!!!今は頑張って!!!)


(………………勝手な女だ。)


ショコラは悪態こそつくも、微笑んでいた。

サーシャもそれを見て、余計に力がこもり再びショコラを宙に浮かす。


「ウオオオオオオォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッーーーーーーーーーーー!!!!!!」


「ギシャァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッーーーーー!!!!!!!」


「ウチも負けてられへん!!!こっちも色々背負っとる!!!ここで負けるわけにはァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」


ショコラを思いっきり縦に持ち上げた。


「いかんのやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」


ウオオオオオオォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!


「ブレエエエエエェエェンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!バスタァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッーーーーー!!!!!!!」


激しい衝突音が会場に響き渡った。

まさしく、これぞまさしく王道技ブレーンバスター。

2人の思いが重なったショコラ。

しかし、その思いも1人の地球人の女の子に惜しくも押し負ける。


25分3秒。


サーシャの勝利であった。


カンカンカンカンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!










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