第38話 情けは人の為にもなる

勢いよく連続でリングにショコラを叩きつける。

いわば地獄車の派生技であろう。

サーシャ曰く、前からこんな感じの技は考えていたのであるが上手いこと形にすることが出来ていなかった。

そこでグラーケンの道場でやっとのこさ身につけたのだ。

乳を揉まれた殺意とともに。


ガガガガガガガガッッッッッッッッ!!!!!


いくら丈夫なショコラとはいえ、そう何度も叩きつけられては溜まったものではない。

そこで光るはやはり戦闘経験か本能か。

回転しながら叩きつけるということは、身体を一周する必要がある。

ショコラは抜群のセンスで身体が空中側に向いた時、レーザーノウトを天に向かい発射。

サーシャはその圧でショコラの下敷きに。


「うべッッッッ!!!」


「ガァァァ……………!!!!!!」


すぐさま体勢を整え、サーシャを片手で軽く掴んだと思いきや先ほどまでのお返しをするかのように何度もサーシャを右に左とリングに叩きつける。

ちゃんと受け身やガードも施すもあまり効果がなくサーシャはされるがまま。


「あ…………が…………。」


頭を鷲掴みにされ持ち上げられるサーシャ。

目は逝っており、グロッキー状態。


「サーシャさんッッッッッッッッッッッッ!!!」


「何してますの!!!しっかりしなさいなッッッッ!!!!!」


選手専用客席から激励をかけられるも反応が薄い。

意識もギリギリなのだろう。

ピクピクと指や足が動いているのは痙攣かはたまたまだ動けるという意思表示なのか。

ギリギリの判定ではあるが、審判も汗を流し真剣な面持ちでサーシャとショコラを見ているのでまだ戦意はあると判断しているのだろう。


「ギギギ…どうだぁ…お前のお望み通り全部ぶつけてやってるぞ…。どんな気分だ…。」


「あ………………あんた………………。」


確かな憎悪と悪意で頭部をギリギリと締め上げられる。

サーシャは確信した。

ショコラは突発的魔力暴走症ではない。

ショコラは……………………


「死ね。」


二重人格であった。


「そりゃ…………………薬…………き、効かん………はず………や………わ………。」


「弱っちぃなぁ…お前…。やっぱり地球人なんざこんなもんか…。」


突発的魔力暴走症はまずこんなに流暢に話すことは不可能である。

叫び声だけを上げ周りのものを破壊し、暴れ狂うのが本来の症状である。

本来ならば最初に気づくべきであった。

ショコラは技を出す時叫んでいた。

しっかりとした意思がある証拠の何物でもない。


「弱ぇやつは大っ嫌いだ。弱いくせして生きようとする。一人じゃ何もできないから泣き叫ぶ。例え誰かに助けられたとしても感謝するのなんてその一瞬だけ。酷いもんじゃ、感謝のかの字すらない。」


「………………な、……なんの話や…。」


「お前が言ったんだろう。【全部ぶつけろ】って。だからぶつけてやってんだよ。」


「へ……………へぇ………そ、それは………感謝やな……。」


「あのクソッカスはなぁ…、昔それはもう酷い酷いイジメを受けてた。特に小学生の時にな。」


白目で口角を上げながらサーシャを絞め上げるショコラ。

サーシャは鼻血が流れ、痛みとともに鼻がムズムズしてきた。


「給食に消しカス入れられるのは当然、便所で水をかけられ靴は捨てられ…殴られ蹴られは日常の生き方をしてきた。そんなやつがなんでここまで生きてこられたかわかるか?強いから?辛抱したから?全部違うね。」


「…………………。」


「私が生まれたからだよ…!!!アイツは現実逃避のためにもう一つの人格を生み出した!!!それが私だ!!!自分が苦しみたくないから身勝手にも私を創った!!!最初こそアイツのためだと思って動いた!!!舐め腐ってるクソガキどもを全員病院送りにして!!!アイツの苦しみ全部取っ払ってやったさ!!!」


だんだん怒りのボルテージが上がってきたのか絞め上げる力が強くなる。


「なのにアイツは感謝しねぇ…!!!なんだったら私が表に出てる時は寝てやがる!!!目が覚めたら何もかもが上手いこといってるんだから不思議だったろうさ!!!」


ショコラはそのまま成長し、成人を迎え順風満帆な人生を送っていた。

嫌な事やストレスが極限になると眠りにつき裏ショコラを表に出す。

それの連続。

しかし、だんだん嫌になってきたのだろう。

自分に感謝もしない、ありがたいとも思わない。

そんな事微塵も思わずにヘラヘラして生きている表の人格に苛立ちを覚え始め、ショコラの人格を強制的に眠らせ無理やり表に現れ人生をめちゃくちゃにしてやろうと謀ったのだ。


「痛みを受けるのはぜ〜んぶ私だ。辛いことも苦しいことも。私は幸せになれない。痛みの場でしか私は存在出来ない。アイツだけが…アイツだけが幸せになろうとしてやがる!!!だから全部ぶっ潰すのさ!!!アイツが少しでも目を光らせた人間をなぁ!!!」


ショコラはエリマキを首元から出現させ、サーシャの頭部を覆い始めた。


「ま、マズイ!!!」


「アレは俺がやられたグリムリパーサウンド!!!オレはキメラだから助かったけど地球人がそんなもん食らったら確実に死ぬぞ!!!」


「サっちゃんしっかりしてええええぇぇッッッッ!!!」


完全にサーシャの頭部を自分ごと覆い、とどめの一撃を放つ。


「グリムリパーサウンドッッッッッッッッ!!!」


ドッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!


激しい音が鈍く響き、エリマキが膨れ上がる。

静まりかえる会場。

ほんの数秒。確実な一撃。


「サ………………サっちゃん………。」


「し…死んだのか…?」


答えの時間はゆっくりと嫌でもやってくる。

ゆっくりとエリマキがめくれ始めた。

ショコラとサーシャが出てきた。

しかし、何故か両方ともめちゃくちゃ汚ったない謎の物質に覆われていた。


「ブギ……………………ベァァァァ…………ッッッッッッッッ!!!!!!」


ショコラが白目で心から嫌そうな顔をしながら苦しむ。

繋がっている部分を辿るとサーシャの鼻の穴に通じていた。


「ズズズ…、ごめんくしゃみしてもうた…。さっきから鼻ムズムズしてたから。」


ズコーッ!!!!!


目をつむりこれまたしんどそうな顔をするサーシャ。

先ほどのエリマキの衝撃はグリムリパーサウンドではなく、バカでかいサーシャのくしゃみであった。

生理的嫌悪を顕にし頑張ってどうにか顔にへんばりついた鼻水を取ろうとするショコラ。

サーシャが審判に手を上げテイッシュを持ってこさせた。というかなんちゅう鼻水の量や。


「ごめんごめん、大丈夫?」


「うん…なんとか…。」


ズビー!と鼻をかむサーシャ。

ショコラも顔が綺麗になったが心のダメージが大きい。


「アンタの話、聞いてて思ったんよ。アンタ…ショコラちゃんはもう一人のショコラちゃんの人生潰したいとかめちゃくちゃにしたいんやない…。幸せになりたいんやろ。」


「……………は?」


「美味しいもの食べて、大好きな人と一緒に過ごして笑って…そら時に悲しいことも辛いこともあるやろうけどさ。感謝し感謝され、生きていくのが人間やから。せやから…自分も幸せになりたいんやと思うで。」


「………………………………。」


何を綺麗事を。

目の前の屁こきくしゃみ鼻水女に対する殺意と憎悪がジワジワと湧き出る。

何も知らないくせに、わからないくせに何を知ったような事をほざきやがる。

私が幸せになりたい?違う。

私は…………私は…………


「そのさ、ウチ頭悪いから上手いこと言えんけど…どうにか幸せ成分分けれる事とか出来るんちゃうかな。そこをまず目指そうよ。共感性とか言うんかな。分からんけど。」


「お前に何がわか…!!!」


「その前にッッッッ!!!アンタも今までの人生での鬱憤溜まってるやろし!!!ウチももーーーーーーっと腹括ってぇぇぇ!!!ショコラちゃん!!!」


「な、なんだ…?!」


「喧嘩…仕切り直そうや…!!!」





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