勇者が誕生したので、魔王を決めないといません。

鳥居之イチ

001 勇者誕生

 勇者が誕生した。


 その話題は瞬く間に全世界に広まった。

 もちろん魔王城にも。




 おい、聞いたか。勇者が誕生したらしいぞ。

 らしいな、てことはあれだろ。あれが行われるんだろ。

 だよな、お前は出るのか?

 いや、出るわけねーだろ。結局は勇者に殺されるんだぞ?

 だよな。殺されるってわかってて出るやついんのかよ。




 魔王城は勇者誕生を機に大パニックだ。

 それもそのはず、そもそも魔王なんていないのだから。









 -魔王城にて-

 「今ここに魔王選抜大会の開催を宣言する。」


 うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。

 うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。

 うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。

 うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。

 うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。

 うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。

 うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・



 私は魔王城の経理を担当しているケイリーンと申します。

 皆も知っての通り、勇者が誕生した。つまり勇者を迎え撃つ準備をしなければならない。

 しかーーし!ここ千年以上魔王城とその付近は平和そのもの。

 魔王がいなくともなんとかなっていた。

 簡潔に言うと魔王が不在なのである!


 さあどうする。魔王を決めるしか無いだろ!

 貴様ら魔王になる気はないかー!



 「・・・・・」



 魔王になれば、魔王城とその付近は魔王の所有物!

 魔王になる気はないかーー!



 「・・・・・」



 誰も魔王になりたくないのだ。

 だって、勇者が攻めてきたら死ぬしかないから。

 でもそんな中、一匹の魔獣が呟いた。



 「ケイリーン様が魔王でいいんじゃないですか?」



 小さなつぶやきのはずが、魔王城に集められた全魔獣・魔人・魔物に聞こえた。



 「そうだ!ケイリーン様が魔王でいいじゃねーか!」

 「そうだそうだ!今も仕切っている!これは魔王だ!」

 「皆に認められてこそ魔王。すでに魔王は決まっていたんだ!」


 「「「「ま・お・う! ま・お・う! ま・お・う! ま・お・う!」」」」



 「まてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!私は断じて魔王などではない!魔王にはなりたくない!魔王は嫌だ!」

 ケイリーンが泣きじゃくって魔王を嫌がっている。




 ケイリーンが泣き止み、話し始めるまで15分もかかった。





 ケ「えー、ゴホン。いますぐ魔王を決めるわけじゃない。皆が思う魔王とはどのようなものかを本日は教えてほしい。」


 「魔王って言ったら、ヒト型じゃねーか?」


 「たしかに、だったら俺達魔獣は魔王にはなれねーな。」


 「たしかに仕方ない。仕方ない。」


 「じゃあ魔人が魔王でいいんじゃねーか?」


 「ならケイリーン様でいいだろ。魔人だし。」


 ケ「嫌だ!死にたくない!ほ、他の特徴はないのか?」


 「宙に浮くイメージがあるな。」


 「魔法が使えるってことか。魔人で魔法が使える・・・・・」


 「ケイリーン様じゃねーか?」


 ケ「ほんとに嫌だ!他の特徴!!」


 「全体を仕切ってる。」


 「横暴で凶悪。」


 「あ、確かに、怖いイメージあるよな。」


 「見た目なら魔獣は怖いぞ!」


 ケ「おおお!なら魔人だけが魔王になるわけではないな!ささ、次の意見を。」


 「死ぬ直前で勇者に呪いかけてそう。」


 「勇者の行く手を先回りしてトラップしかけてそう。」


 「部下を道具としか思ってなさそう。」


 「直属の部下に最終的に裏切られそう。」


 ケ「なんかだんだん悪口になってない?」


 「複数の形態変化があって、最後にはドラゴンになって焼き払ってくれるわ!とか言いそう。」


 「それめっちゃ言いそう。」


 「ならドラゴンに形態変化ができるやつが魔王ってことか?」


 「そんなやついるのか?」


 「ケイリーン様じゃね?」


 ケ「なんでだ!ドラゴンは無理だ!できてワイバーンくらいだ。」


 「同じ飛竜種なんだから、ドラゴンもワイバーンもわかんないだろ。」


 「ならやっぱりケイリーン様が魔王では?」


 「さすが魔王。」


 「あぁ、さすがは魔王。」


 ケ「魔王じゃないって!!!!ほんとに無理だって!他にはないの?」


 「四天王と作戦会議してそう。」


 「「「「「ししししししししし四天王????」」」」」


 ケ「そうだ!四天王が必要だな!では魔王を含めて5名を選抜する必要がある!」


 「魔王はケイリーン様だから、あとは4名か。」


 「四天王って、どんな感じなんだ?」


 「俺は四天王の中では最弱。とか言ってそう。」


 「言ってそう。つまり四天王に強さは関係ない?」


 「おいバカ!強い方が良いに決まってんだろ。俺等みたいな弱い魔物も選抜対象に入れるな!」


 ケ「おい、魔王にはならないって!話進めないで!」


 「てか、そろそろ農作業に戻ってもいいですか?」


 「俺もこの後配達あるんで」




 その言葉を皮切りに続々と魔王城から出ていく。



 ケ「か、かえるなーーーー!まだ話し合いは終わってなーーーい!」


 「魔王様が終わってないってさ」


 「魔王様が言うなら仕方ないか」


 「そうだね。魔王様が言うなら」


 魔王ケイリーン「だから魔王じゃなーーーーーーーーーーーーーい!」








 魔王城の連中は知らないのだ。

 勇者は本当に誕生しただけ。まだ赤ちゃんなのを。

 魔王城を攻めに来るのはあと20年後なのを・・・・

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勇者が誕生したので、魔王を決めないといません。 鳥居之イチ @torii_no_ichi

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