エリートにはなれなそうなので、革命家になることにしました。

@jjyajyajya

第1話 あなたの人生に、あなたの役割を

「長々と話したがつまり、幸福、公正、進歩、いかなる点で見てもアダムスは素晴らしいということだ!アダムスに抜け目無し!アダムス万歳!」


 壇上での先生の長い演説が終わり、生徒たちは呆れながらも拍手を送った。これほどの熱量で長々と話されると聞き手の精神が磨耗するのでやめてほしい。


 とはいえ、演説の内容に関しては、この教室にいる全生徒が大賛成だろう。


 2150年、人の幸福と可能性を測るAI『アダムス』を日本と米国の共同研究グループが発表した。発表当時は、その原理の不明点の多さと「あなたの人生に、あなたの役割を」というあまりにも胡散臭すぎるキャッチコピーにより批判の的となった。


 しかし、アダムスは徐々に社会に取り込まれた。


 最初は、学生の遊びに、その後は中小企業の採用に、そして大企業の企業戦略や政治活動に利用されるようになった。


 発表から100年経った今では、進学、就職も日常の行動さえもアダムスが決める。


 もはや、誰もアダムスの批判などしない。


 「あなたの人生に、あなたの役割を」その通りだ。誰しもが一流の大学や職業に憧れる。しかし、一流の役割を果たせない人間に一流の職を与えても幸せにはなれない。猿には猿の幸せと役割があり、人には人の幸せと役割があるのと同じだ。そこをアダムスは公正に見定め、幸福と進歩の道を人々に示すということだ。


 そして、今日は俺が高校を卒業する日であるのと同時に、そのアダムスによる公正な見定めをする日だ。


 中学や高校を卒業した後の進路はアダムスが決める。アダムスは日々、個人の行動と人格の移り変わりなどを記録し、その記録から進路を決める。


 前の席からタブレットが回ってきた。


 先生が生徒に向けて、先ほどの演説とは違って冷静に言う。


「今配布したタブレットに諸君の学籍番号と氏名を入力するとアダムスによる診断結果が表示される。輝かしい諸君らの未来だ。念の為、隅々まで確認するように」


 この先生の言葉は、ついにアダムスの診断がやってきたことを実感させるものだった。


 正直に言うと、絶頂に近しいほど興奮している。顔がニヤけて仕方ない。いったいどれだけこの日を待ち望んだか。


 俺は6歳の頃から2ヶ国語話せた。中学校に進学する頃には、高校の学習を終えていた。日本一の高校である帝都学園に入学した後も、常に成績はトップだった。今日のために、俺はアダムスの望む通りに努力してきたんだ。


 もはや一流大学への進学は決まったも同然だ。一流企業や公務員に飛び級で就職できる可能性だってある。


 タブレットに学籍番号と氏名を入力する。


「ふぅー」


 一旦目を閉じて、深呼吸をする。目を開ければ俺の輝かしい未来が映っている。覚悟を決めて、画面を見る。


 画面に映っていたものは....





 

 『アダムスによる厳正な診断により、青峰秀治はブラックとして国家に従事することが決定しました。』


 なんだこれ。入力を間違えたか?再度入力し直し、もう一度画面を見る。


 画面に映っていたものは....






 『アダムスによる厳正な診断により、青峰秀治はブラックとして国家に従事することが決定しました。』


「嘘だよな....」


 何度入力しても、画面には『ブラック』という単語が映っていた。


 そうこうしている間に、先生が再び話し出す。


「以上をもって終了とする。アダムス診断の不備などに関しては校長先生に相談するように。では諸君、輝かしい未来を!」


 先生の話が終わると、教室が騒がしくなり、数人の女子が俺の机に向かってくる。


「青峰様!診断結果はどうでした?」


「やっぱり帝都大学ですか?」


「早く教えてくださいよ!」


 あり得ない診断結果に、思考が停止しそうになる。


 いや、よく考えろ。先生はさっき不備と言っていた。診断結果に不備がある場合もあるということだ。


 だとしたら、こんな奴らに構ってる時間などない。一刻も早く校長室に行かなければ。


「すまないが野暮用があるんだ。僕の進路は卒業パーティーで教えるからさ」


 そうして、足早に教室を出ると今度は....


「おっと....どうした?学園一の秀才がそんなに急いで」


「赤木....」


 何かと俺に対抗心を向けてくる、嫌味ったらしい赤木くんの登場だ。


 無論、こんな奴に構う時間もない。


「退いてくれないか?学園二の秀才、赤木君」


 俺の挑発を聞き、赤木がニヤリと笑いながら言う。


「そうか....それは失礼したよ。さぁどうぞ」


 赤木はご丁寧に俺に道を譲った。


 おかしい。


 いつもなら顔を真っ赤にして発狂しているはずだ。


 いつもの赤木とは違う行動に違和感を覚えつつも、譲られた道を通って校長室に急ぐ。


 だが、急ぎながらも、もう一度深く考えなければならない。


 なぜ、この俺の進路が『ブラック』なのかということを。


 アダムスは、人間の階級を3段階に分けている。特権階級『ホワイト』、一般階級『グレー』、凡下階級『ブラック』の3つだ。ホワイトが上の階級でブラックが下の階級なのは、一目瞭然だろう。


 ブラックというのは、肉体労働のほとんどをロボットが担う今の社会で、資金的な理由や地形的な理由などで、ロボットができない過酷な労働を低賃金で奴隷のようにやらされる人間のことだ。


 はっきりと言えば、ブラックはアダムスに価値がないと判断されたような無能な人間が行き着く人生の墓場だ。


 つまり、帝都学園からブラックなんてあり得ないということ。ましてや、この俺がブラックなんて絶対にあり得ない。


 考えられる理由は二つ。


 一つは、アダムス診断のミスの可能性だ。なんらかのミスで俺の診断結果が変わってしまったのかもしれない。もう一つは望み薄だが、俺の知らないブラックがある可能性だ。ブラックという何か別の職業があるのかもしれない。


 何はともあれ、校長に聞かなければ。


 俺は大きく深呼吸をして、校長室をノックして要件を言う。


「三年の青峰秀治です。アダムス診断のことで、ご質問があります」


「入りたまえ」


 校長の威圧感のある声に動じずに、俺は校長室に勢いよく入る。


「失礼します。」


 校長は、中に入った俺をまるで敵意があるかのように睨んだ。


「質問とはなんだね?」


 校長は、まるで何も知らない口振りだ。校長は、俺の診断結果を知らないのか?この一流高校からブラックが輩出されるなんて前代未聞だろ。


「私の進路診断の結果についてです。ブラックというのは、何かのミスでしょうか?それとも、他に一般には知られていないブラックという役職が何かあるのでしょうか?」


 校長は俺の質問について考える素振りもせずにすぐに答えた。


「その診断結果には、なんのミスも無い。そして、君の進路のブラックというのは、一般に知れ渡っているブラックで間違いない。以上だ。何か質問は?」


「....は?」


 考えもしなかった校長の返答に、思わず声が漏れてしまう。


「他に質問がないのなら退出するように....」


「ちょ、ちょっと待ってください!どういうことですか!?」


 俺は完全に取り乱して、校長の目の前まで近づく。


「先ほどの答えのどこに不満がある?」


「どこに不満があるって....俺はこの名誉ある帝都学園で一番の成績優良者ですよ?この学園で最も優秀なんだ!その俺が猿でもできるブラックなんて常識的に考えておかしいでしょ!?」


「いいや?何もおかしくない。」


 俺の態度に全く動じずに校長は続ける。


「確かに、君は優秀な高校生にはなれた」


 待ってくれ。


「だが、優秀な大学生や社会人にはなれないというだけのことだ」


 こんなことは、あり得ない。


「高望みをしても幸せにはなれない。それが今の社会の常識だ」


 視界が揺らぎ、頭も痛い。もう終わりにして欲しかった。しかし、それでも聞いてしまった。いや、聞かなければいけなかった。

 

「つまり、俺は社会の中でブラックの役割しか果たせないということですか?」


「そうだ。アダムスは絶対だ。君も知っていると思うがな」


「どうして....どうしてアダムスは今まで俺に努力を課したんですか!?」


「もちろん君が幸せになるからだ。現に努力したおかげで、帝都学園で一番になれて、君も幸せだっただろう?」


 そんな残酷なことは認めたくなかった。


 いままでの自分の全てが惨めに見えた。


 これからの自分の全てが惨めに思えた。


 今までのこと、これからのこと、この世界のことさえも全て夢であってさえ欲しかった。


 


 


 


 


 


 


 





 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 



 


 


 


 


 


 


 


 


 



 

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