直葬でお願いします

白川津 中々

◾️

さて困ったぞと、こういう時に頼りになるのが親なわけだが、その親の問題なのだからまったく難儀しているのである。


「恐れ入りますが、二時間ほどで決めていただけますと」


病院。死体を前に二時間。悔やむ暇もない。

母が死に、その処理をしなければならないのだが勝手が分からぬこの状況。如何にして手続きを踏むのか、そもそも何をすればいいのかまったく不明。「適当にやっておいてくれませんか」と言おうにも医者看護師共に忙しなく動いていて話しかける余地もなく、独力で事を進める他ないが、義務教育後、何も学んでこなかった身で解決するには些か難題が過ぎる。


しかし忘れてはいけない。こういう時の文明の力。スマートフォンを取り出し調査。そして判明。葬儀代の高価格。安月給貯金なしの男一人が払える額ではない。式は断念する方向で調整。となると直葬となるわけだがこれも高い。死体を燃やすだけで二桁万円掛かるなど正気だろうか。なぜ野焼きでは駄目なのか理解に苦しむところである。困窮に喘ぐ人間は死体の処理さえままならない現代社会、実にfuck。どうしたものかと悩み、光明。天啓。金がないなら集めればいいじゃないと閃いたのだ。どうやって? クラファンに決まっている。資本家に死体を燃やす金を出してもらうのだ。これぞ知恵。これぞ資本主義。富める者、貧しき者を救う義務あり。実にナイスアイデア。早速サービスに登録。価格設定完了。リターンは……そうだな。母の遺骨プレゼントにしておこう。後は待つばかり。来たれ、火葬代!


……


二時間経過。

金額、ゼロ。

そらそうだ。赤の他人の死体に誰が金を出すというのだ。期待したのが間違いだった。


「すみません。金ないっす」


打つ手なく、恥を忍んで忙しそうに働く看護師にそう告げると、行政が立て替えてくれると教えてくれた。ありがとう、市政。これで落着……え? 骨収めるのに墓がいる? うぅん……家に置いとけるらしいが、なんか嫌だな……


……よし、フリマアプリで出品しよう。

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