第4話 ディスイズ事件?
学校に着き、席に座り読みかけのミステリー小説を開く。
ミステリー小説は俺の趣味の一つだ。大抵のトラックや事件の真相は自身で推理することができるし、当てた時の爽快感は大きい。
よく、推理が得意な人はミステリーを見ても退屈なのでは?と言われるがそう思った事は一度もない。
「小説」と言う媒体を軸にしているから仕方のないことではあるのだが、小説の主人公と小説を読んでいる自分では持っている情報が違う。
読み手である自分には「本当に必要な情報」が強調されて開示されるが、主人公はそうではない。
日常の些細な風景や、過去の事件との比較など、様々な情報があり、読者の持つ情報量とは大きく異なる。
何が言いたいのかと言うと、要は「競争が楽しい」のだ。
提示された情報から推理をして、事件の真相に辿り着くのは当然。
物語の主人公より先に犯人に辿り着けるか、そこが「競争」の本質だ。
勝利条件は先に犯人を特定する。敗北条件は同時、または犯人が分からないまま本を読み終える。この二つだ。
なんて事はない。簡単なゲームだ。
灯や白波には理解されなかったが‥
宗が小説を読んでいると、クラスメイトの男子から話しかけられる。
「ねぇ皐月くん。ちょっと相談があるんだけど‥」
皐月、と言うのは宗の名字だ。
そして話しかけてきたのは確か‥
「井上さん‥だっけ?」
名前がすっと出て来ず、不安そうに宗は尋ねる。
「そうだよ!覚えててくれたんだ!」
「ま、まあクラスメイトだしな‥」
どうやら合っていたらしい、宗は安堵の息を気づかれないように漏らす。
なぜ名前を覚えていないのか。答えは単純だ。
皐月宗と言う人間は交友関係が広いわけではない。
鬼月組の評判自体はかなり良く、地域の人間同士の問題が起こった時にはよく頼み事をお偉いさんに頼まれる。世間的な信頼や地位はかなり高めだと言える。
なのに、交友関係は狭い。
単に宗がコミュ障なのではない。
それは宗にとっての優しさなのだ。
印象の良さで誤魔化してはいるが、鬼月は立派な裏社会の組織だ。家族ぐるみの付き合いが昔からある事もある灯の一家はともかく、他の民間人との過度な交友関係は控えた方がいい。仲良いから人質にしました〜なんて事態が起きてからでは遅い。
それが宗の見解だが、あまりその見解に自信はない。最近だと自分のコミュ障を隠すために自分に言い訳をしているのでは?と感じ始めている節がある。
「井上でいいよ。それで相談っていうのは‥」
「ふ〜ん。今朝なんか話してるな〜と思ってたらそんな事が起きてるんだ」
校舎の屋上で灯作のお弁当を二人で食べながら今朝の出来事を話していた。
井上の相談、それは「妹やその友達が謎の失踪をしている」と言う、なかなかに重そうな相談だった。
「そう、だから放課後一緒に井上の家に行って欲しいんだ」
「別に私はいいけど、その事ちゃんと井上に言った?」
お前は俺を何だと思ってる。
「流石に言ってるよ。」
「そっ、なら良いよ。どーせ私もする事ないし」
「助かる。それと、灯は何か知らないか?」
「あんたが知らないのに私が知ってるわけ無いでしょ…」
宗の問いかけに対し、灯は至極当然の返しをする。まあ知ってるわけ無いよな。念の為聞いただけだし。
「だろうな。この街のことで俺が知らないのに灯が知ってたら怖いよ」
「ますます何で聞いたのよ…って言いたいけれど、たまにそれで私が色々知ってる〜みたいな事あるからなんでしょうね」
さすがは灯、俺が絶妙な所でポンコツになる性質を持っているのをよく分かってる。
そして、灯は言葉を続ける
「それにしても失踪事件ね〜苦手、とまではいかなくとも結構めんどうな分野だね」
実際、失踪事件はめんどうだ。持ってる手札的にも相性が悪い。けれど…
「今回は大丈夫だと思うよ。多分失踪事件じゃないから」
「ん〜?ドユコト?」
唐揚げを頬張りながら、きょとんとした顔で灯が聞いてくる。
「まあ、着いたら分かるよ」
そのまま昼食を食べ終え、教室に戻る。授業を受け、放課後になると二人は井上の家に向かう。
「おじゃまします」
二人仲良く声を揃えながら挨拶をする。
「親は仕事で家に僕しか居ないから、二人とも楽にしていいよ」
「親は仕事で」ねぇ。やっぱり読み通りっぽいね。
「そっか。なら楽にさせてもらうよ」
「妹の部屋は二階だから、着いてきて」
井上の案内で二人は井上の妹の部屋に入る。
パッと見の部屋の感想はと言うと、特段変な要素は無かった。
どこにでもある小学生の部屋、と言うのが宗とあかりの感想だ。
「じゃあ僕は飲み物取ってくるから、二人は何か手掛かりがないか調べてて」
そう言い、井上は一階に降りていく。
「どう?宗の言ってた通りなの?」
「あぁ、予想通りだから今から俺が言うものを確認してくれ」
「分かった。お礼はパフェ一つで!」
「はいはい。いつものだろ?」
「もっちろん!」
灯は笑顔でそう言い、探索を始める。
あいつ、今週一で自分の分と白波の分を俺に奢らせてんのに事あるごとに要求してくるな…
なんでそんなに食べてるのに太らないんだよ…
そんな事を考えていると額に何かがぶつかる
「いたっ」と声がもれ、思わず目をつぶる。
目を瞑っている間にぶつかった何かは床に落ち、コロコロと転がって宗の足にぶつかり回転を止める。
ぶつかった物を確かめるために左手は足元へ、右手はおでこをさするために上に動かす。
右手の結果から言うと特に血が出ているとかではなかった。もちろん灯がそんな事するわけないが。
問題の左手が拾ったものはというと…
「消しゴム?」
宗の額にぶつかった物の正体は消しゴムだった。当然、それを投げた人物は…
「クリーンヒット!」
灯だった。
灯はニヤニヤと笑いながら右手でサムズアップをしてくる。
「灯、何で急に…?」
「何で?って、そりゃもちろん宗が失礼なことを考えてたからよ」
当然のように思考を当ててきやがって…仕方ない
「悪かったよ。降参」
意味はないかもだが両手を上げる。
「ふふーん!分かれば良いのだよ!宗さんやい」
「それで、どうだった?」
「宗の言う通り、服はそこまで減ってなかったよ」
なるほどね…と呟きながら宗は立ち上がる。
扉を開き、一階にいる井上に声を掛ける
「調査は終わった。後は井上の親が帰ってくるまで待とう」
そう、自信満々の顔で宣言するのだった。
白い波は剣を取る ななご @nanago_3
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