第4話
「あ、タオル見つかった?よかったー」
何事もなかったかのように、もなかが近づいてくる。
ばくばくと心臓がうるさい。とりあえずタオルは口もとからそっと離した。
「なな、なん……」
「わたしも曜君から連絡きてさー。生徒会あるから無理だよって言ったんだけど、抜けられそうだったから来てみた」
「え、いま、見、」
「うーん……」
少し考えるように首を傾げた後、もなかはじっと朔を見つめた。
「あのね、来たのがわたしでよかったね。もうちょっと気をつけたほうがいいよ!」
勢いよく顔を近づけてくる。
あまりの迫力に、朔はこくこくと頷いた。
もなかが自然と隣に座ったので、朔も静かに曜の席に腰を下ろした。
なんだか叱られた子どものような気持ちになり、俯く。
「自分と違うって……残念だけど、すぐ標的にされちゃうんだよ。受験もあるからストレスたまってる子もいるし……」
もなかが色のない瞳で言う。
ああ。これは多分気づいている。朔は小さく息を吐いた。
「詳しいね。経験者?」
「うーん。そうかも」
「……被害者?」
「ううん」
「か……加害者?」
まさか、と思って聞いてみると、もなかはうーんと唸って曖昧に笑った。
「傍観者」
傍観者。その響きは冷たく、いつも明るいもなかからは温度を感じなかった。
「小学校の頃にね。多分、お互い好きなんだろうなって男の子がいたの。わたしは気づいてたんだけど……ある日、片方がラブレターを渡してて。そっと知らんぷりしようと思ったんだけどクラスの子に見つかって、手紙はみんなに公開されて、大騒ぎになって、ふたりまとめていじめられてた。」
もなかによるとその事件はそれなりに大事になり、授業が潰れ学級会が何度も開かれたそうだ。ただそれは「いじめをやめよう」という内容を繰り返すだけで被害者ふたりに寄り添ったものではなく、ふたりは次第に学校に来なくなり、知らない間に転校をしていたらしい。
「わたし、何もできなくて。でも今さら罪悪感抱くなんて最低じゃん。最悪な自己満足じゃん……ってことを、付き合う前曜君に話してみたことがあったの。世間話というか、思い出話的な感じでね」
「……そしたら?」
「叱られた!それはもー真っ直ぐに!」
あははと大きく笑いもなかが言った。
「でもその後、オレがもしもなかちゃんだったらどうしてただろう、いやでもやっぱり誰かを傷つけることは良くないし、とかいろいろ言って、もなかちゃんの気持ちをわかってあげられなくてごめんって謝られた」
面倒くさい男だ。
好きな女の打ち明け話に対して、正しさで向かってしまうような面倒なやつなのだ。だからこそ朔はつい惹かれてしまうし、目で追ってしまう。
「よくそれで付き合う気になったね」
「あはは、まーね。でも、そんな曜君の良いところ、朔君は知り尽くしているでしょ」
にっと口角をあげたもなかに、思わず朔も苦笑いを返した。
その時、ポケットの中のスマートフォンが小さく震えた。
【タオル!タオルは⁉︎朔様〜〜ジュース奢るから!】
泣いている絵文字とともに、曜からのメッセージが届いていた。
画面を覗き込んでいたもなかと目が合い、朔は顔を見合わせる。
「だってさ。ふたりで届けに行くか。」
「そうだね。わたしもせっかく生徒会抜けてきたし」
タオルを手にしたまま立ち上がり、朔は大きく伸びをした。
ふたりで届けに行ったら、曜は驚くだろうか。目を真ん丸にした表情を思い浮かべ、心の中で少し笑った。
俺の青春は間違っているかもしれない。
でも。
間違って、いないのかもしれない。
右手に持ったタオルを見つめる。
少しだけ泣きたい気持ちになったが、ぎゅっとタオルを握り、グラウンドへ向かった。
俺の正しい青春 しお しいろ @shio_shiiro
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