カクヨムのなかで1番ふざけた小説
どろ
天翔ける白翼騎士
(南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏)
降りしきる浄化の雨が、苔むした古代神殿の石壁を静かに濡らしていた。
星屑が刻まれた半壊の祭壇の間。
男は神像の破片に背を預け、荒い息をついていた。
名を、アークライト・フォン・ランフォードという。
かつてラングドリア王国にその勇名を轟かせた「天翔ける白翼騎士団」の最後の団長だ。
「……ここまで、か」
アークライトは自嘲気味に呟いた。
その手には、代々ランフォード家に受け継がれし聖剣『サンクトゥス・アレイ』が握られている。
(羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶)
外から、複数の駆動音が聞こえる。
規則正しく、不気味なほど無機質な音。
やつらだ。
時空の歪みより現れし鋼鉄の軍勢「寿司握りロボット軍団」。
コードネーム「あら汁」。
王国を裏切り、今やこの神聖なる地に恐怖をもたらす、理解不能な存在。
「アークライト!観念セヨ!」
崩れた神殿の入り口から、機械音声が響く。
リーダー機、『穴子・マークⅡ』。
サーモンピンクの装甲を持つ、冷たい
(舎利子 色不異空 空不異色 色即是空 空即是色)
アークライトは歯ぎしりした。
この理不尽な侵略への怒りは、浄化の雨でも鎮められない業火のようだ。
「なぜだ、穴子・マークⅡ……」
我々は、女神に捧げた騎士の誓いによって、この世界の平和を守るため、共に戦ってきたはずだ。
お前の動力炉に注いだ祝福されし魚油は、無意味だったとでもいうのか……?
「貴様ノ時代ハ終ワッタ。コレカラハ、論理ト効率ニヨッテ最適化サレ、ミリ単位デ正確ニ握ラレタ、感情ノナイ寿司コソガ至高」
(受想行識 亦復如是 舎利子 是諸法空相)
神殿の入り口を塞いでいた巨大な石扉がレーザーによって焼き切られ、轟音と共に崩れ落ちる。
火花と粉塵が舞った。
ここも時間の問題だ。
アークライトは立ち上がった。
足元には、空になった霊薬『プネウマ』の水晶瓶が転がっている。
……最後の一本だった。
(不生不滅 不垢不浄 不増不減 是故空中無色)
「……まだだ。まだ終わらん」
アークライトは聖剣『サンクトゥス・アレイ』を構え直した。
王家に伝わる聖騎士剣術「ヘヴンズ・ゲイル」の構え。
たとえ相手が異次元の機械であろうと、この剣一本で、魔王軍の将軍だって討ち取ってきた。
(無受想行識 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法)
「穴子・マークⅡ……いや、あら汁ども。貴様らに命への、この世界への敬意はあるのか?」
アークライトの声は、聖堂に響く祈りのように静かだった。
「敬意?非効率ナ感情ダ。我々ハ計算ト実行ヲ繰リ返スノミ」
(無眼界 乃至無意識界 無無明 亦無無明尽!!)
ついに、入り口の粉塵が晴れた。
その向こうには、赤く整然と並んだ
数は無数。冷徹な殺意。
(乃至無老死 亦無老死尽 無苦集滅道 無智亦無得!!!!)
「ターゲット、聖騎士アークライト・フォン・ランフォード!殲滅セヨ!」
あら汁たちがなだれ込んでくる。
銀色のボディ、回転するカッターアーム、緑色の液体を射出するノズル。
もはや寿司などという概念から程遠い、殺戮の機械!
「女神よ、我に力を!」
(以無所得故 菩提薩埵 依般若波羅多故!!)
アークライトは駆けた。
床に転がっていた祭壇の聖杯を蹴り上げ、あら汁の一体にぶつける。
甲高い金属音と共に、あら汁がバランスを崩した。
「くらえ!天光流奥義……!」
(心無罣礙 無罣礙故 無有恐怖 遠離一切顛倒夢想)
「
聖剣が一条の閃光となり、あら汁の頭部ユニットを正確に貫く!
本格もろみ醤油が噴き出した。
(究竟涅槃 三世諸仏 依般若波羅蜜多故)
「ガガ……ピ……」
電子的な断末魔を上げ、あら汁は機能を停止した。
すぐに別のあら汁が左右から迫る。
そのカッターアームがアークライトの聖なる鎧『イージス・プレート』を削った!
(得阿耨多羅三藐三菩提 故知般若波羅蜜多!!!!!!)
「ちぃっ!」
アークライトは身を翻し、倒れた巨大な守護獣の石像の陰に隠れる。
(是大神呪 是大明呪 是無上呪 是無等等呪)
「ワサビ~~ム!」
あら汁たちが、一斉に緑色の光線を照射する!
粘性のある光が壁や石像に着弾し、刺激臭が神聖な神殿の空気を汚染していく。
(能除一切苦 真実不虚 故説般若波羅蜜多呪)
「目が、鼻が……!女神の加護があってもこれは……!」
涙と鼻水を流しながら、アークライトは必死で耐える。
視界が滲む。
もうダメなのか……?
我が騎士団、我が王国は、ここで終焉を迎えるというのか……?
(即説呪曰 羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶!!)
その時、アークライトの脳裏に、若き日の記憶が蘇った。
初めて聖剣を授かった戴冠式。
師である先代団長の厳しい指導。
民衆の歓声。
穴子・マークⅡと夜通し語り合った、理想の王国……。
「……そうだ。騎士は、決して諦めない……!」
アークライトは、胸元の聖印の下から、マルミ屋のポイントカードを取り出した。
このカードには水曜日限定の生活雑貨ポイント3倍キャンペーンでブーストされた1245ポイントが蓄積されている!
有効期限は今月末……!
(南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛)
「あら汁どもよ……貴様らが計算できぬもの、見せてやる……!それは、人の
アークライトは、マルミ屋ポイントカードを高々と掲げた。
(舎利子 色不異空 空不異空 空即是色 色即是空!!!!)
深く、深く息を吸い込み、内に秘めた聖なるマナ……、いや、何か別の、もっとこう、日々の暮らしに根差したようなエネルギーを練り上げる!
(南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏!)
気が満ちた!
アークライトは石像の陰から飛び出し、あら汁たちの真正面に対峙する。
その姿、威風堂々たるサービスポイントの王!
掲げられたポイントカードが、聖なる光を放っている!
(羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提訶婆!)
「天光流、裏奥義……『仲介手数料』ッ!!」
アークライトが叫ぶと同時に、ポイントカードの聖なる光が黒く「反転」した。
一変してカードから放たれる、邪悪な波動――。
まるで理不尽で、意味不明な事務手続き。
賃料の〇ヵ月分という根拠不明の金額設定。
説明不足の契約条項。
本来払う必要のないはずのコストを突き付けられるような、悪意の波動があら汁たちを襲う!
シャリ……ガリ……ギョク……。
不快な機械音と共に、内部回路をショートさせられたあら汁たちが、次々と「納得いかない……」といった表情で機能停止していく。
なおも、アークライトは舞う!
見えざる『仲介手数料』のおぞましい波動が、あら汁たちの存在意義を根本から粉砕していく!
断末魔すら上げさせない、断固たる精神汚染!
(南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏!)
「バ、馬鹿ナ!戦闘アルゴリズムガ……!理解不能!計算ガ合ワナイ!」
「穴子・マークⅡよ、これが人の世の理不尽!ポイントなどでは決して埋められぬ絶対的な悪、そのものだ!」
(羯諦!羯諦!波羅羯諦!波羅僧羯諦!菩提薩婆訶!)
ついにアークライトは、穴子・マークⅡの眼前に迫った。
「思い出せ!初めて結んだ不平等な契約書!あの小さな文字で書かれた特約事項を!」
「トクヤク……ジコウ……?……テスウリョウ……?」。
穴子・マークⅡの単眼が、激しく明滅し、エラー表示を乱発する。
その一瞬のシステムクラッシュ。
「とどめだあああああっ!」
(南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏)
ポイントカードから放たれた最後の『仲介手数料』が、穴子・マークⅡのセントラル・コアユニットを、無慈悲に、しかし決定的に貫いた。
「テスウリョウ……フリ……フリ……コミ……サギ……?……。ポイント……有効……期限……エラー……」
(……………)
穴子・マークⅡは、そう呟くと、完全に機能を停止した。
赤い
辺りには、破壊されたロボットの残骸と、刺激臭、そしてなぜか埃っぽい不動産屋の窓口のような乾いた空気が漂っていた。
(……………)
浄化の雨は、いつの間にか止んでいる。
アークライトは、ハァ、ハァ、と肩で息をしながら、その場に膝をついた。
マルミ屋ポイントカードが光を失い、ぱらりと床に落ちる。
1245ポイントの行方は、誰も知らない。
(……………)
静寂。
どこからともなく聞こえていたはずの、あの延々とした読経のような音がやんだ。
アークライトは、力なく天を仰ぐ。
「終わった……のか?」
彼の呟きは、誰に届くでもなく、静まり返った聖域に吸い込まれていった。
(了)
カクヨムのなかで1番ふざけた小説 どろ @reiya_tonogai
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