第11話 スーパーキュートな運転をしてやろう

「光って、すごいことなんだよ。光があるから、希望が見えるの。……分かった岸部くん。理解の、速度をあげよう。岸部くんのコンタクトレンズにも、ラメのマニキュア、塗ろう」


「えっ?」


「岸部くん、柵にマニキュア塗り始めてから、すごく生き生きしてる。ゆかこの見ている世界は正直、すごいよ。今の岸部くんも、それを手に入れたらきっともっと楽になれるよ。で、これは今思いついたことなんだけど……身をもって、輝く目を持てばね、これから先も絶望なんて感じないでいられると思うの」


「それ危なくないの?」


「大丈夫。ゆかこは裸眼だから、だめだけど、カラコンとか流行ってるし、岸部くんはすでに眼球との間にプラスチック当ててるわけだから、いけると思う」


「ほんとかなあ」

「うん、絶対大丈夫」


 ゆかこは、念を押した。だって、こうすることで、岸部くんはもっと希望をもてるようになるんじゃないかと思ったから。眼球の裏は直接神経がつながっているというし、目は生活をしている上で、一番良く使う感覚器らしい。


 ならば……いける。きっと作用する。感情自体を強要させることはできないけれど、感性を与えるヒントなら、プレゼントできるから。ばーばが、ゆかこにマニキュアをくれたように。


「ゆかこちゃん、ほんとのほんと?」


 と、岸部くんは身を反らす。逃げるようにしながら言う岸部くん。あは。壁みたいな大男が、こんなことにびびってしまうなんて。


 ゆかこ、「信じて。動くともっと危ないよ」と注意をし、右手に持っていたマニキュアを、左手に持ちかえた。右手を使って目を開き、固定するようおさえる。


 はけをマニキュアのボトルにつけ、持ち上げると、もったりとした液体にふんだんに混ざったラメが、公園の街灯に照らされてキラキラッと光った。すぐさま、べったりと塗った。

 はけを落とした途端「いたたた!」と岸部くんは言ったけれど、ゆかこだって、利き手じゃない方でマニキュアを塗ったから、むずかしかったし、我慢するようにお願いした。


「どう? 見える?」


 痛い痛い痛い、と大きな声で連呼するも、しばらく眺めていると少し落ち着いた岸辺くんは、真っ赤な目をして涙をだらだら流しながら、


「ごろごろするし、いてーし、でもたくさんの光が、めいっぱいぼやけて輝いてて、まぶしい。こんな見え方してたら、考え方変わるわって感じ」

 と小さな声で、言った。

 岸部くんは、あんなに怯えていたけど、ちゃんとゆかこの言ったことをやってくれて、男らしいなと思った。


 そのまま、お互い前を見て、しばらく黙っていた。明日、朝になってこの公園の前を通る人や、遊びに来た人は、こんな光に溢れた世界を見てしまったら、きっともう今の社会には戻れなくなってしまう。


 そうしてみんなみんな、戻れなくなればいい。絶望が当たり前のこんな社会なんて集団ストライキして、一旦リセットしなきゃ変えられないのだ。それからは、もっと明るく、夢のような、はしゃいじゃう、そんな社会になってしまえば、いい。


 だけど、なぁんだ、広い柵をここまでラメでキラキラに、仕上げることができたのだから、小ぶりな車一台をラメで仕上げるなんて簡単にできそうだ、と思った。運転だって、苦手なS字カーブだって、できそうな気がした。



 そうだ。ゆかこは、免許をとったころにはおそらく春なので、無職でもスーパーキュートな運転をしてやろう、と心に決めた。ばーばに負けないくらいの、とびきりキュートな運転を。パパや、岸部くんを乗せて。



 きっと今は同じフィルターを通して、同じものを見ている、岸部くんとゆかこ。大丈夫。これから、ちゃんとした春がくるよ。


 夜明けが近づき、朝の空気のにおいがした。木々と、緑の葉っぱの隙間からさし込む光が、希望たちをキラキラと照らし始めていた。

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女子大生発明家は、ミニクーパーをラメのマニキュアで塗りたい さちゃちゅむ @sachuneko

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