第10話 空が、爆発してる
つらい思いをして生きているひとは、いっぱいいるはずだ。もっと世界に希望がなきゃ。こうした幇助がなきゃ、生きていけないひとが、いっぱいいるはずだ。
今のゆかこにはハニーミルクティーでよくても、もっと強い光がないと、だめな人もいる。例え少数派でも、いや、少数派だからこそ、ゆかこは仲間たちを少しでも楽にさせてあげたいと切に思っていた。
そう思うと、公園にある金属の部分にすべて、マニキュアを塗った方がいいのではないか? と思えてきた。
希望は、多いほうがいいからだ。だから途中で計画を変更して、ゆかこと岸辺くんは、二手に別れて、塗っていった。こんなに次々にマニキュアを空にするのは、初めての経験だった。
まだ公園の金属部分は多く残っていると言うのに、マニキュアの一瓶一瓶はあっという間に空になっていって、笑ってしまった。
ところが、塗れども、塗れども、全体で見るとラメのマニキュアのついた部分はまだ僅かで、柵は、思っていたより、果てしなかった。
発明家になったら、これを成し遂げたら、ゆかこ、パパに認めてもらえるだろうか? そう淡い期待を抱くけれど、実際のところ、どうなのだろう。きっと、小さなことを成したところで、まだまだなのだ。社会を変えるくらい、大きなことをしないと。
だとすると、パパの認めるほどの発明家になるとなったら、すぐには難しいだろうし、最悪……パパがいつ亡くなるかだって、わからない。パパだって、人間だ。最近服用している薬の種類も増えたようだし、ゆかこは、心配だ。
パパ。小学生のときに言ったこと、覚えている? なんて、これを、パパが亡くなった時に伝えることは、したくなかった。パパが生きている間に、まっとうに認められたいのだ。
認められて、使命感にもえるなんてことなく、素直に親孝行をもっとして、パパが、ゆかこのパパで良かったと思いながら、お酒をついだり、旅行に行ったり、車を運転して色んなところに連れていってあげて、一緒に日々を歩んでいきたいのだ。
パパは本当にときどきだけれど、おれはそんな長生きしないから大丈夫だよと言う。迷惑は掛けずに死ぬよと言う、そんなパパが、ゆかこは、いやだ。
ゆかこが本当にいやだと思っているのは、そこだけだ。リビングでおならをしてもいいし、酔っ払って帰ってきて、ママと間違えて抱きついてきても、いい。ゆかこは、迷惑かけられてもいいから、パパに長生きしてほしい。
パパがつらいのなら、無理は言いたくないけれど、そうでないのならゆかこは、パパのことを思って、なんでもする。なんだってするよ。
死別して、認められるようにがんばりますっていうのはわかるし、死ぬまでがんばり続けることができるのかもしれない。でも、パパと話せないまま、一生がんばる人生と、もうがんばれないってなっても、パパと楽しく過ごした時間のある人生なら、ゆかこは断然、後者がいいよ。
どう考えても、光の見える人間には、この世はあまりにも生きづらいのだ。ゆかこ、いつだってそんなパパに認めてもらいたくて足掻いているのだ。
「ちょっと、休憩しようか」
岸部くんがそう言ってゆかこ、はっと顔をあげて、辺りが真っ暗なことに気がついた。もうすっかり、夜だった。
ゆかこは、家に連絡を入れていないことに気が付いたけれど、もう、どうってことないやと思ってしまった。
発明家の第一歩、たった一歩だけど、確かな一歩を歩み出したのだから。
けれど、どれくらいの時間、没頭していたのだろう。確かにゆかこは少し、疲れていた。そしてまた二人で、ベンチに腰掛けた。しばらく会話もなく、お互い空を見つめていた。天気がよく、ぎょしゃ座、こいぬ座、オリオン座、すべてがしっかり、きれいに見えた。
「岸部くん、見て。空が、爆発してる」
「え? 爆発?」
「そう。たくさんの星の瞬きは、光っているのは、爆発なんだよ。それがほら、起こりまくってる。本に書いてあった」
機械について勉強をして、本を読み、光について関心高くなったゆかこは、そう言わずにはいられなかった。
「どういうこと?」
「分からない?」
「分からない」
岸部くんでも、分からないことがあるのだと、このとき初めて知った。
色んなことを教えてくれたお返しに、ゆかこはこの爆発について、伝えたいと思った。
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