第36話 帰還とアイテムバック


 アイアンブリッジの石畳が朝霧に濡れ、魔導機関の唸りと鉄の匂いが漂う。合衆国街の喧騒は、商人の呼び声と馬車の車輪で活気づく。


 深山祐介率いるチームは、フェイワールドの過酷な冒険を終え、海運王ダーヴィスの屋敷へ向かう。


「ねえ! この街って人が多いね! 人間ってこんな石や木のとこに住むの? フェイワールドの方がキラキラしていいわよ!」


 リルナの金色の瞳が輝き、折れた羽が霧に光る。通りすがりの商人が驚いた顔で振り返る。


「あんまりキョロキョロするな、はぐれるぞ」

「はーい」


 深山が低く掠れた声で注意するとリルナが深山の頭にちょこんと座る。


「ダーヴィスさん、私達の冒険譚喜んでくれるといいなあ」

「大丈夫っしょ! みうぃきチャンネルのトーク力なら喜んでくれるって」


 美幸が冒険の記録をつけたメモ帳を読み直しながらダーヴィスへの報告内容を考え、真島が励ます。


「確かにフェイワールドのような幻想的な世界を旅したとか小説とかおとぎ話のようなものだ」

「ガハハ、ゲームのModで異世界トリップも十分フィクションだぞ」


 園田がウンウンと頷いていると、雷熊山がツッコミを入れる。


 ダーヴィスの屋敷は合衆国街の小高い丘にそびえ、鉄とガラスの尖塔が霧を突く。星脈の紋章が刻まれた大理石の門をくぐり、執事が赤絨毯の廊下を案内する。


 シャンデリアが輝く広間で、ダーヴィスが革の椅子に座る。銀の髪を撫でつけ、星脈信仰のペンダントが胸で光る。海運王の目は冒険談を期待して輝く。


「おお、戻ったてきたか! 今回の地図はどうだった? さあ、話してくれ!」


 深山が革の鞄からシュマイルの魔術全書と黒檀の杖を出し、テーブルに置く。


「地図は本物だった。だが、アトリエ跡はオークに占拠されていた。オークを排除して杖と本を手に入れた。これがあの地図の財宝だ」


深山が淡々と説明し、アトリエで見つけた黒檀の杖と革製の書物を出す。


「そのあと、フェイワールドの子供救出依頼うけてたんですよ! オーガやグリーンハグ、影の精霊の飢餓との戦い、すごかったんですから!」


 美幸が興奮気味にシャマラからうけたクエストの話を補足する。


「子供救出? フェイワールド? 晩餐を用意するから、じっくり聞かせてくれ!!」


 美幸の報告を聞いたダーヴィスが目を丸くし、葡萄酒を手に身を乗り出す。



 執事がダイニングホールへ案内する。白いクロスのテーブルに銀の燭台が揺れ、星脈の紋章が刻まれた皿が並ぶ。


 ダーヴィスが上座に座り、深山たちが両脇に並ぶ。リルナが花瓶にちょこんと止まり、燭台の炎に目を奪われる。


「うわ! 人間の飯、すっごく美味しそう! フェイワールドの食べ物よりすごいかも!」


 リルナの羽がバタバタし、花瓶の水が揺れる。


「さあ、妖精の客人にも食べれる物を用意した! 星脈の光に導かれた冒険者たち、楽しんでくれ!」


 ダーヴィスは珍しそうにキョロキョロするリルナを見て一礼すると、食前酒を掲げて晩餐を始めることを合図する。


 執事が星葡萄と蒼鴨の燻製串を配る。葡萄の甘酸っぱさと鴨の旨味が弾ける。


「うっわ……なにこれ……星葡萄の酸味と甘味が鴨肉と合わさって………すっごく美味しいです」

「ガハハ、日本じゃ食べたことがない味だな! うめぇ!」


 美幸がほっぺを押さえながら前菜に舌鼓をうつ。雷熊山が豪快に串を頬張る。


 銀花根の冷製スープは魔力根菜の爽やかさが喉を潤す。


「上品な味わいでございます」

「こんなスープ初めてだぜ! 高級すぎてちょっと緊張するな!」


 園田が丁重に感想を述べ、その隣ではカチャカチャと音を立ててスープを飲む真島。


「宿り木と契約してよかった! こんな美味しいの、仲間達も飲んだことないかも」


 リルナが妖精用に用立てた小さな皿に入ったスープを飲んで羽を震わせる。

 深山だけがなにも言わずに黙々とスープや前菜の串を食す。



 主菜として運ばれてきたのはパール牛のロースト・エクシア風と言う肉料理。香草の風味が肉汁と溶け、柔らかな食感が広がる。


「うん、旨い」

「もうやっばいよ、これ! こんなの食べたら普通のお肉食べれないかも」


深山が一切れ口に運び呟く。美幸が一口食べると目を見開き、深山の肩をバンバン叩いて興奮する。


 いつもならガハハと笑って豪快に食べる雷熊山が無言で黙々と肉を頬張る。



「さあ、君たちの冒険を詳しく聞かせてくれ!」


 ある程度腹が膨れて落ち着いたところでダーヴィスが興奮したように冒険の話を催促してくる。


「えっとですね、私達はダーヴィスさんの依頼をうけて───」


 美幸がメモ帳を片手にアトリエ跡での出来事を話す。


 ダーヴィスは自分が冒険者になった想像をしたり、続きを催促したりとまるで子供のように目を輝かせてはしゃぐ。


「アトリエ跡で財宝を見つけた私達は村で一泊して帰ろうとしたらドルイドのシャマラさんから子供達が拐われたと聞いて───」

「なんて貴重な体験なんだ! 私もその光景を見てみたかった」

「あ、つたない絵ですけど、みます?」

「是非っ!」


 特にフェイワールドへの扉を開くシーンにダーヴィスはたまらなさそうに興奮し、美幸がメモ帳に書いたイラストを見て、鼻息荒くページを捲る。


「ああ、今まで聞いてきた冒険譚の中でも最高だ!」


 ダーヴィスが満足げに頷き、興奮を落ち着かせるように葡萄酒を飲む。


「報酬の話だが、君たちの冒険に敬意を表して、シルバークラスのアイテムバックを用意しよう。ギルドで登録後、受け取ってくれ。星脈の加護が君たちを守るぞ!」

「シルバークラス!? 本当に!? クロスロードの空間魔術の最高峰じゃないですか!」

「ガハハ! そりゃ豪気だぜ! 荷物持たなくていいなんて夢だな! 付き人する時にそんなバックあったらよかったのにな」


 美幸が驚いてテーブルに身をのりだし、ダーヴィスに報酬の内容を再確認し、雷熊山がガハハと笑い腹を叩く。


「ヒューッ! シルバーのアイテムバックがあれば、荷物になるから置いてたあれやこれももち運べて探索が楽になるな」

「破格の報酬だな。貴方の期待に沿えるよう精進します」


 真島が口笛を吹きながら指を鳴らし、園田は深々と頭を下げる。


「美幸、そのアイテムバックってなんだ?」

「ねーねー、なにそれ? 甘くて美味しいの?」


 深山はアイテムバックがなんなのかわからず美幸に耳打ちすると、リルナも真似するように美幸に耳打ちする。


「アイテムバックは空間拡張型のバッグで、シルバークラスなら最大500キロまで収納でき、重量も感じないんです! クロスロードでは貴重で、ギルドや自治州の厳しい審査と登録が必要です。無限バック管理法に基づき、密輸や禁制品は即拘束、追跡術式で監視されますよ!」


 美幸がくすぐったそうにしながらもアイテムバックについて早口で蘊蓄を語る。


「審査の方は私が保証人になれば問題ないだろう」


 ダーヴィスは笑みを浮かべながらと胸を張る。


「さて、食事を続けようか」


 報酬に誰も不服がないことを確認したダーヴィスは満足そうに頷くと食事を再開する。



 晩餐後、深山達はダーヴィスの好意で客室にて休息を取ることになった。


 深山が天蓋付きベッドに腰掛け、釵を磨く。無気力な目がランタンの光に映るが、仲間が騒ぐ声に小さく息をつく。


「えーっと、このモンスターの弱点はたしか………」


 美幸はメモを整理しながら呟く。雷熊山はベッドで休み巨体がベッドを軋ませ、大鼾が部屋に響く。


「次は楽なクエストがいいな。オーガとかマジ勘弁」


 真島はクロスボウやシーフツールなどを整備しながら軽口を叩く。


「活人剣の糧となる戦いがあればいい」


 園田が窓の外を見やり呟く。


「人間のベッドってふかふかで柔らかいのね! 葉っぱよりこっちの方がいいかも」


 リルナは部屋の中を飛び回って家具や調度品を弄ったり、ベッドの上を転がったり、スプリングの反発を利用してトランポリン代わりに遊んだりする。


「学生の修学旅行じゃないんだぞ」


 深山はそう言ってため息をつくが、これはこれで悪くないと、傭兵時代とは違う暖かい安息に心を許していた。


 翌朝、深山達はダーヴィスの用意した馬車で冒険者ギルドへと向かう。


 石と鉄の建物は冒険者の喧騒で活気づく。壁に星脈信仰の紋章が刻まれ、依頼板にクエストが貼られる。


 受付嬢のソフィアがアトリエ探索の完了を記録し、ダーヴィスの推薦状を確認。


 遠目から様子を伺っていた冒険者達が今回も財宝の地図は本物で当たりだったのかと仲間同士で呟き、ギルドホールがざわめく。


 ソフィアが革のケースからシルバークラスのアイテムバックを取り出す。黒い革に星脈の紋章が輝き、銀の留め具が魔術の気配を放つ。


「シルバーバックは自治州統一条例第54章、アイテムバック管理法に基づき、登録と監査が必要です。指定されたエリアでの封印ラベル受け入れと年2回の検査を遵守してください」


 そう言ってソフィアがバックを深山達に手渡す。


「嘘だろ、シルバーランクのアイテムバック!?」

「今までダーヴィスさんがあんな破格な報酬だすことあったか!?」

「今回の財宝いったいどれだけ価値があったんだ!?」


 シルバーランクのアイテムバックが渡されたのを見て、ギルドホールにいた冒険者達がざわめき、驚きの声をあげる。


「クロスロードサーガでもお馴染みだったけど、こんな形なんだ」

「便利だな」


 美幸と深山が呟き、背中に背負う。


「きゃっ!? いったーいっ!!」



 リルナがアイテムバックの中に飛び込もうとすると、バチンと火花が飛び散って弾かれる。


「残念ながらアイテムバックに生物をいれることはできません。今のように弾かれますのでお気をつけ下さい」

「んもーっ! それなら早く言ってよ!」

「お前が説明も聞かずに飛び込んだのが悪いのだろ」


 ソフィアが苦笑しながら生物は入らないこと忠告すると、リルナが腰に手をして抗議する。

 そのやり取りを見ていた深山がため息をつきながら注意する。


「シルバーバックは最大500キロまで入ります。1万クローナ相当までの交易品や物品までなら問題なく持ち込み持ち出しが許されてます。ギルド法典により、識別符号と追跡術式が義務です。検問でスキャンされ、禁制品は即拘束。密輸物によっては処刑もあり得ますのでご注意を」


 ソフィアが口頭でアイテムバックの注意事項を伝える。


「あーちょっとまって! メモするから」


 美幸はメモ帳を取り出し、注意事項を書き写す。


「うっひゃー、まじで何でも入るし、全然お重さ感じねえ!」

「あまりはしゃぐな、恥ずかしい」


 真島がもってきたシーフツールなど様々な荷物をアイテムバックに入れていく。

 あからさまにバックよりも大きな荷物もあったのにするんと入り、バックの形は変わらない。


 真島はバックを背負っても重さを感じないことに興奮しており、それを見た園田がため息をつきながら真島を注意する。


「確かこいつは食べ物も行けたよな? 時間の流れも遅くなるから腐りにくいって聞いたけど、本当か?」

「はい、緩やかに時間が経過するので腐りにくくはあります」


 雷熊山は珍しそうにバックを見回しながらソフィアに質問をしており、ソフィアが笑顔で答える。


「そうなの!? 私の宿り木! 珍しくてキラキラして美味しいもの一杯入れて!」

「太るぞ」


 雷熊山とソフィアの会話を聞いていたリルナが目を輝かせて深山の肩に止まるとおねだりしてくるが、深山は一言で断る。


「祐介君、君たちの冒険は星脈の光そのものだ。シュマイルの書物は私が預かり、研究者に渡す。また大きな冒険をしたら聞かせてくれ」


 冒険者ギルドでの必要な手続きが終わると、ダーヴィスが話しかけてくる。


「また依頼があったら呼んでくれ」

「ダーヴィスさん、ありがとうございます!」

「貴方が私と宿り木が出会うきっかけを作ってくれたのね、おかげでこんなに楽しくてキラキラしてるとこに来れたわ!」


 深山と美幸がダーヴィスにお礼を言い、リルナが飛び回る。


「また仕事あったらよろしくっす!」

「今回はありがとうございます。このバックを与えてよかったと思われるよう活動約束します」

「ガハハ、このままタニマチになってくれたら最高なんだがな」


 真島が軽く挨拶して、園田が深々と頭を下げる。

 雷熊山が豪快に笑いながら自分の腹を叩く。


 全員との挨拶を終えるとダーヴィスは邸宅に戻ろうとするが、チャンスを伺っていた他の冒険者から次々と挨拶やらアピールを受けている。


「さて、折角だからなにか仕事を受けるか」


 深山はそう言うと依頼ボードへと足を向けた。

 またクロスロードに新たな冒険が始まる。

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Modを入れたら異世界トリップ!? ~千のクエストクリアするまで帰れま1000!?~ パクリ田盗作 @syuri8

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