絶望の淵に沈んでいた主人公が、新しい世界で心を取り戻していく。
そんな再生の軌跡が、特別な奇跡としてではなく、何気ない日常の温もりの中に丁寧に見出されていく物語。
心をすり減らし、感情さえ薄れてしまったヒロインのアン。
そんな彼女が異世界で出会った新しい家族――姉のセラ、弟のティム、母親のマーサ――との暮らしの中でふと涙を流す、その瞬間が心を揺さぶります。
動物に触れたときの不思議な感覚や、それに寄り添うティムの言葉にならない優しさ。
失われた感情が少しずつ満たされていく過程が静かに描かれていきます。
家族の何気ない会話や食卓を囲む時間、そういった日常の描写のリアル。
特別な事件が起きるわけじゃない。
でも、リオンやマーサの愛情に包まれ、姉弟と肩を並べて歩くアンの姿に、彼女が過去の重荷をほどいていく過程そのものが見えます。
苦しみを抱えた人間が、日常の中に小さな幸せを見つけていく。
その奇跡が、丁寧に紡がれています。
劇的な変化ではなく、些細な一日の積み重ねがアンの心を静かに変えていく。
音楽や織物を通して自分の「好き」という感情を取り戻していく姿は、焦らず着実に歩む強さを感じさせてくれます。
疲れた心に寄り添ってくれる、穏やかな物語。
もし人が本当に再生できるとしたら、それはきっとこんな風に、静かな光が差すような日常の中から始まるのかもしれません。
アンがこの先どんな花を咲かせるのか、ぜひ見届けてほしいと思います。
あまりに過酷な家庭環境にいた杏奈。
ある日、夢で見た草原で目が覚める。
そこでの呼び名はアン。
あたたかな家庭から突然行方をくらました愛娘だったという。
望まれぬ子だった境遇から一転、誰からも再会を願われた子へ。
優しい人々に囲まれた彼女は――――
本作の魅力は心情描写。
杏奈は心を押し殺し続けた結果、自分が何を感じているかすらわからない。
そこからゆっくりと、手探りしながら感情が動き始める推移が本当に見事。
渇ききった土に水をやるような文体は、読者の心にも沁み入ることだろう。
世界観も外せない。
日々の出来事はパステル調といった雰囲気で、ただひたすらに柔らかい。
大いなる秘密が動き出す気配もあるが……今のところはこの陽だまりを享受したい気分。
癒しを求める人には特にオススメする。
お星様は続編を期待しての二つ。
残る一つは、いずれ完全に締めくくられた日に改めて。
スズランの花言葉は「再び幸せが訪れる」「純粋」「希望」です。杏奈が異世界で新たな家族と出会い、心を取り戻していく過程は、まさにスズランの花言葉と重なります。また、スズランの可憐で控えめな姿は、杏奈の繊細な心情や、物語全体の穏やかな雰囲気を象徴するのにふさわしい花だと思い詠みまみた。
注釈
封蕾(ふうつぼみ):閉ざされたつぼみ=主人公の凍った心、あるいはまだ咲いていない感情。
鈴の音触れて:スズランの音、あるいは優しい出会いや家族の声のような“外からの癒し”。その音が主人公に「触れる」という表現、心の距離感。
筆芽吹く:創作の芽生え=再び誰かと繋がりたい気持ち、自己表現、あるいは未来への一歩。主人公が「心を取り戻す」様子を表現。
以下、レビューです🐣
現代社会で心を閉ざして生きてきた女性・杏奈が、異世界で「アン」として新たな人生を歩み始める物語。彼女は、異世界の家族との交流を通じて、少しずつ心を解きほぐしていきます。静かで丁寧な筆致で描かれ、読者の心に優しく寄り添うようなスローライフ系ファンタジー、まだ始まったばかりなので一緒に優しい世界を堪能しましょう。
異世界転生スローライフな物語です。
なんの希望もなく死んでないから生きているといった虚無な日々を過ごしてきた安奈はある日、異世界の少女アンへと転生してしまう。
これまでの人生とは打って変わって回りは優しい人ばかりの中、アン(杏奈)は少しずつ生きる意味を見出していく。
特徴的なのは主人公の性格と文体とが織りなす雰囲気でしょうか。動か静でいったら究極的に静なのです。
そんな中、じっくりじんわり物語が進んでいきます。
スローペースで進むお話で、どこに終着点があるのかは分かりません。
個人的には、杏奈が自分の育ってきた世界に対してどんな精神的な決着を見せるのか。そこに注目したいと思っています。
悲しみの乾いたまっさらな下地の上に、柔らかくて牧歌的な生活の色彩が重ねられていく、そんな物語です。
この物語は、絶望の中で希望もなく生きてきた少女が、異世界へ転生し、世界の温かみを知るという、私たちのよく知る異世界転生物の形式をとっています。
少女が生きていた現実世界は「辛くて」「苦しくて」「悪意にあふれている」そんな場所でした。その現実世界から転生し、未発達な文明の異世界へ飛ばされます。そこで少しずつ人の優しさに触れていく...というストーリーですが、読み進めれば読み進めるほど、「自分の生きる世界はきっと暖かい」とそう思いました。
きっと生きて行く事は辛いことの連続で、飢える肉体がある以上傷ついたり苦しんだりすることは避けようがありません。
けれども、そんな不条理の中で、爪も牙もない柔らかな両手を持って、自分や誰かのために心を痛ませることができる、弱い心をもって生まれたことには、きっと意味がある。少女が人と触れ合う度に、何かを学び、理解していくそんな物語から、それを強く感じました。
この両手で、大切な誰かを存在事抱きしめてあげたい。そして抱きしめてほしい、と願わずにはいられません。
このレビューを書いている、この時点ではまだ作品は完結しておりません。ですが、一話ごとに、自分が手にしている当たり前の幸福に気が付くことができます。
読み終わるたびに、自分の生きているこの世界で、誰かを大切にしたいと思いました。そんな不思議な力を持つ作品です。ぜひたくさんの人に読んでほしい。