扉を開けると極上布団がいました
天柳李海
扉を開けると極上布団がいました
◆◆◆
「今日も留守か。しかし戸口に鍵をかけないのか。不用心すぎるぞルシリカ?」
リンゼイはため息をついた。前回来た時もルシリカは施錠せず、食材を取りに森に出かけていた。
基本彼女は、自給自足しないといけないため、自分の食い扶持は自分で得る必要があるのだ。リンゼイが城から差し入れできる物資も限度がある。だから採取に行くのは構わない。
「留守中、万が一怪しい生物が建物内に侵入したら、どうするつもりだ……」
リンゼイはいつも差し入れとして持参する小麦粉袋をキッチン下の棚にしまい(何故かここに置くのは自分の役目になっている)他にルシリカに頼まれた物資が入った白い包みを机の上に置いた。
塔の二階は居室部分となっており、シンクと作業台しかないキッチンとトイレ、一人用の机と背もたれのない丸椅子が一組。そして部屋の奥に調理台を備えた暖炉があるだけだ。
そう。
数日前までは。
リンゼイはあるものに目を奪われた。
居室は石床がむき出しのため直に座ることができない。よって暖炉の前のスペースの所だけ、毛足の長い絨毯が敷かれている。季節が冬に近づいてきたのでリンゼイが秋用のそれと変えたのだった。
そこに見慣れない白いもこっとした大きな塊があった。
「――クッション?」
白い布に綿を詰めたものだろうか。リンゼイのような青年が座っても、体全体を包み込むことができるぐらいありそうだ。そっと触れてみる。ふわっとした手触り。指で軽く押してみるとほわんと押し返す弾力性もある。
背筋をぞくぞくっと何かが走る。
なんだこのふわもこな感覚は。
もう一度。もう一度だけ、その羽毛の中に手を入れてみたい。
リンゼイが白い塊へ手を伸ばした途端。『それ』が動いた。
「えっ?」
真白いクッションだと思ったそれに、小さな黒い目がついていた。目と目の間に鳥の嘴みたいなのがあって、それが「ポヨッ!」と軽やかな鳴き声を漏らした。
リンゼイの脳裏に先日、ルシリカが連れ去ってしまった(違う)連れ帰ってしまった『ポヨン鳥のヒナちゃん』のことが思い出された。
これが、成鳥のポヨン鳥か!
「ポヨン」
すっと小さな翼(体全体がもふもふなので翼が見えなかった)が招かれるように動いた。
「あ……いいのか?」
リンゼイが戸惑いながらポヨン鳥の隣に座る。するとポヨン鳥はリンゼイの肩を抱くように翼を広げた。
◆◆◆
「るんるん」
ルシリカはご満悦だった。南の森は食材の宝庫なのだが、今日はそこで栗の木を見つけて、栗拾いを楽しんできたのだ。持参した籠山盛り一杯の栗である。
「栗を湯がいて、余った分は蒸しパンに入れてもいいわね~」
栗を使った料理のことを考えると、スキップどころか一人でダンスのステップを踏んでみたりして。冬が近づいて森の恵みも見つけるのが厳しくなってきたから、今日の収穫は大きい。
「ただいま!」
幽閉中のルシリカの帰りを待つものはいない。いないが「ただいま」と言うことにしている。
「あれ~?」
「ポヨン」
白い
「あら、
ルシリカは食材が入った籐籠を机の上に置いて、ポヨン鳥の傍に近づいた。
「えっ? リンゼイ?」
そこにはポヨン鳥のふわふわもふもふな羽毛に埋もれて、すっかり熟睡している黒髪の騎士の姿があった。ポヨン鳥はまるで自分のヒナのように、リンゼイを背後から抱えて座っていたのだ。
「まあ。貴族のお嬢様たちには、文武両道で天下無双なイメージのリンゼイ様が。幸せそうな顔して寝てるわ。その気持ち、わからなくもないけど。だってポヨン鳥の羽毛に包まれたら、その辺の布団なんかで眠れないもの」
つんつん。リンゼイの頬を指でつついてみる。
だが彼はまつ毛の先すらも揺らすことなく寝入っている。
「逆毛君。私もリンゼイの反対側で寝てもいい? いや、寝たいの。お願い」
「ポヨン(是)」
「わあ! ありがとう!」
「ポヨポヨ(そのかわり)」
「うんうん。後で焼き立てのパンをごちそうするから」
「ポヨッ(交渉成立)」
ルシリカはポヨン鳥が座る左側に体を寄せた。ポヨン鳥がリンゼイの頭をうまい具合に自分の右側に寄せる。ポヨン鳥の脇の下部分にくぼみがあり、そこにリンゼイの後頭部が入り込む。
ルシリカもまた左側のくぼみに頭を載せると、ふわっとポヨン鳥の羽毛に体が包まれるのを感じた。
まるでポヨン鳥の雛になったような気分と安心感。
そして暫く経って、うたた寝からリンゼイが目覚めるのだが、隣に何故かルシリカが眠っていて、飛び起きてしまったのは言うまでもない。
『私は何もしていないぞ……!!』
⇒リンゼイ、心の叫び
『すやすや……クフフっ(モンブランが食べたい)』
⇒ルシリカ、寝言
『ポヨ~ポヨ~』
⇒ポヨン鳥、ただの寝息
(終わり)
扉を開けると極上布団がいました 天柳李海 @shipswheel
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