ダンスに対する愛だけを残して

リュウ

第1話 ダンスに対する愛だけを残して

 今は、何時だろう……。


 時間がわかるものを身につけていない。

 今の私には、何時だろうと関係ないことだと気づいた。


 私は、ただ歩き続ける。

 大きめのリュックとガムテープで補強したつぎはぎだらけの紙袋。

 これが私の全財産だ。


 車や人通りが無くなった歩道を歩き続ける。

 タクシーがスピードを落とさずに通り過ぎて行く。


 時折り、思い出したように寒気に襲われる。

 それも、生きてる証拠かと一人笑う。

 布団で寝たのは、いつかと考えるが、思い出せないほど昔の話らしい。

 寒さに耐え、眠気と闘いながら、ただ歩き続ける。

 右足を前に出したら、次に左足を前に出す。

 これだけでいい。

 簡単な事だ。

 これを繰り返すだけだ。




 私は、この歳になるまで世界中を旅してきた。

 街角で踊り、日銭を稼いだ。

 道具も何もいらない、身体ひとつで出来る。


 ダンスは、言葉を使わない意思を伝えるツールだ。


 古くは、手拍子や掛け声や太鼓みたいな打楽器で、単調なリズムをつくり、踊ったのだろう。

 狩がうまくいったとか、

 誰か生まれたとか、

 誰か亡くなったとか、

 戦いに向かう戦士を讃えるとか、

 神に祈ったり、感謝するとか。


 私は、そんなダンスに魅せられた。

 いつの間にか、メディアで取り上げられて、”天才”とも言われた。

 ”天下無双のダンサー”とも言われた。

 それからも旅を続けた。

 いつの間にか、私は世間から忘れ去られてしまっていた。

 世間が、私に興味を無くしたのだろう。

 時は、私から全てを奪い去った。

 ダンスに対する愛だけを残して。



 車のクラクションで我にかえった。

 身体が寒さを思いだす。

 周りを見渡すと公園を見つけた。

 大きめな公園だった。

 中央部に小高い山があった。

 そこに登った。


 頂上から周りを見渡す。

 街頭が身体を照らす。

 私は、両手を広げ高く上げた。


 目を瞑る。

 拍手が聞こえる。

 段々と拍手が大きくなる。

 スポットライトが当たる。

 私は、飛ぶようにステージに飛び出す。

 拍手や歓声が私の身体を包む。

 私は、踊る。

 力一杯、踊る。

 引きちぎれるほどに両手を広げ、重力を忘れたように高く飛ぶ。

 悲しみを

 苦しみを

 怒りを

 祈りを

 喜びを

 感謝を踊る。


 踊り終わると、鳴り止まない拍手や歓声が空気となりエネルギーとなり私を包み込む。


 私は、何度も何度もお辞儀をする。

 私は、今、生きている喜びに震えていた。


 気がつくと私は、大の字で寝ていた。

 目を開けると、暗い空から雪が降ってきていた。

 じっと雪を見ていると、身体が空へ空へと昇っていくように感じた。

 果てしない星々が輝く宇宙へと向かって。


 私は、ゆっくりと目を閉じた。

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ダンスに対する愛だけを残して リュウ @ryu_labo

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