叩けボンゴ!【KAC20255・三題噺「天下無双」「ダンス」「布団」】第三弾

カイ 壬

叩けボンゴ!

「ダンスが趣味だ、なんて言わなきゃよかったなあ」

 直子とともに社員食堂で昼食のプレートを持って空いている席に着いた。


「どうしたのよ清美。ダンスが趣味だなんてとっても優雅じゃないの」

「面接のとき社交ダンスとはいわずにただダンスが趣味って答えちゃったのよ。そうしたら、今度の飲み会でダンスを披露してほしいって」

「へえ。清美のダンスか。見ていたらうっとりしそうね」


「それがそうでもないのよ。オリンピックを見ていた上司が多いらしくて、私のダンスもブレイキンだと思われているの」

「ブレイキンっていわゆるブレイクダンスよね。リズムよく即興でアクロバティックに踊るやつ。でも、ダンスと聞いてブレイキンだなんて、上層部も安直というか短絡的よね。ダンスって聞いたら普通は社交ダンスでしょうに」


「サルサとかルンバなら踊れるけど、ブレイキンなんて踊れないし」

「今から訂正しに行こうよ、清美」

「でも私のダンス披露は決まっているらしくって」


「それじゃあ社交ダンスのペアで披露すればいいんじゃないかな」

「ペアかあ。うちの社に社交ダンスが踊れる男性っていたっけ」

 直子は首を傾げて思案しているようだ。


「ああ、そういえば総務の山田課長が、昔ダンス大会に出て金賞を獲ったとか聞いたことあるかも」

「総務の山田課長って今病気療養中じゃなかったっけ。他に誰かいないのかしら」

「そうねえ。あ、経理の高橋部長が、いつかは忘れたけど趣味でダンスを始めたって聞いたことがあるわ」


「高橋部長って、私にブレイキンを踊るよう言ってきたのが、高橋部長なんだけど」

「これは知ってて意地悪をしてきたってことかしらね。早く食べてしまって、お昼休み中に高橋部長に談判するわよ」



「高橋部長、佐藤清美さんにブレイキンを踊れと言ったのはあなたですよね」

「なんだい急に」

「なんだいじゃありません。佐藤さんが踊れるのは社交ダンスであって、ブレイキンじゃないんです。いくら面接でダンスが趣味と言ったからって、なぜダンスがブレイキンをピンポイントで示しているとお考えになったのですか。普通ダンスが踊れると聞いたら社交ダンスじゃないですか」


「いやあごめんごめん。社長からダンスが踊れる社員で慰労会を盛り上げてくれって言われてね。ダンサーがブレイキンを踊ったら社長の度肝が抜けるかと。かわいいいたずらを仕掛けようと思ってね」

「それで佐藤さんがこんなに悩んでいるんですから責任をとって高橋部長が踊ってくださいよ。マツケンサンバIIを」


「マツケンサンバIIねえ。確かに場は盛り上がるだろうけど今からかつらと金ピカ着流しを用意するのは難しいんじゃないかな」

「今のままで踊っても、それなりに面白いと思いますよ」


「そういえば総務の山田課長がマツケンサンバIIを踊れると聞いたことがあるけど。ああ、あいにく腰を痛めているらしくて決めのポーズは難しいんじゃないかな」

「どうして腰を痛めたんですか」

「なんでもタンスを移動させようとしてギックリ腰になったとかで、今日も布団の上でじっとうつ伏せになっているんじゃないかな」


「高橋部長は踊れないんですか、マツケンサンバII」

「遊びで踊ったことはあるけど、振り付けすべては憶えていないからなあ」

「じゃあ今から憶えてください。佐藤さんが社員の前で恥ずかしい思いをするのはお嫌ですよね」

「まあ美人社員を羞恥プレイさせるわけにもいかない、か」


「それじゃあダンス企画そのものを取りやめればいいじゃないですか」

「いや、慰労会の出し物としてダンスが盛り上がるだろうと、他のものは考えていないんだよ」


「そんな大役を社交ダンスしか踊れない佐藤さんひとりに任せようとしたのですか。高橋部長、それはパワハラですしモラハラですよ」

「佐藤さんすまなかった。私も協力するから、ぜひ頑張っていい出し物にしよう。天下無双のマツケンサンバIIを踊って度肝を抜いてやれ」


「部長が踊るんですよ!」



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