時計台の夢

井澤文明

第1話

「あの夢を見たのは、これで9回目だった───」


 近頃、ネット上で「同じ夢を何度も見る」という体験談が相次いでいる。その中でも特に多いのが、「古びた時計台が登場する夢」についての報告だ。投稿者たちは皆、ほぼ共通する内容の夢を見ていると語る。


 夢の中では、薄暗い町を一人で歩き、道の先には古い時計台がそびえ立っている。時計の針は止まっており、風の音だけが響く。振り返ると誰かがいるような気がするが、そこには誰もいない。ただ、それだけの夢だ。


 しかし、この夢を繰り返し見る人々は、9回目の夢で「決定的な違和感」を覚えるという。

 以下、体験者たちの言葉を直接引用する。


「最初は気のせいかと思ったんです。でも、9回目の夢では確かに誰かの呼吸音が耳元で聞こえました。」(体験者A氏)


「振り返ると、何かが消えるのが見えました。追いかけようとすると目が覚めるんです。」(体験者B氏)


「目覚めた後、鏡を見たら自分の姿が映らなかったんです。何度も目をこすりましたが、確かにそこにいるはずの自分が映らない。恐ろしくなって、部屋の隅で震えていました。」(体験者C氏)


 興味深いのは、この夢を9回見たと報告した人の一部が、その後、消息を絶っていることだ。ネット掲示板には、「今夜で10回目の夢を迎える」という書き込みを最後に、投稿者が突然失踪したという事例がいくつか存在する。


 さらに、ある共通点も指摘されている。10回目の夢を見る直前、時計台の針がわずかに動くのが分かるというのだ。「時計が動いたら終わり」という警告めいた書き込みを最後に消えた者もいる。


 また、夢を見た者の中には「現実の風景に違和感を覚えるようになった」と語る者もいる。「街角の時計が全部止まっているのを見た」「人の顔がぼやけて見えた」「聞こえるはずのない時計の針の音がどこからか聞こえてくる」などの証言も寄せられている。


 この現象について専門家の意見は分かれる。心理学者のC氏は、「反復する夢は潜在的な不安やストレスの表れであり、オカルト的な現象ではない」と述べる。一方で、民俗学の観点から「時計台が持つ象徴的な意味」に言及する者もいる。


 だが、確かなことがひとつある。9回目の夢を見た者は、決して10回目の夢について語ることがない──あるいは、語ることができないという点だ。


 もし、あなたが今までに「時計台の夢」を9回見たことがあるなら、今夜は眠る前に、一度部屋の時計を確認してみることをおすすめする。そして、目覚めた後、鏡に自分の姿が映っているかどうかも忘れずに確認してほしい。

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時計台の夢 井澤文明 @neko_ramen

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