「魔法のIランド」応募作品

リート

無限の愛

 彼女は頭蓋骨にキスをする。

 魔女である彼女には結婚するはずだった男がいた。彼は今この国で起こっている内乱に巻き込まれ、煤塗れの骨となった状態で彼女のもとへと還ってきたのだ。

 魔女は怒り狂い、自身の力を以て内乱を終結させた。魔女は後に「終戦の使い」と呼ばれるようになり、羽織っていた紫紺のローブは権威の象徴として歴史に名を刻むこととなる。


 戦後、彼女は自宅の壁に豪華な額縁を一つ立て掛けると魔法を使って額縁の中に世界を創った。

 一般人が見ればただの美しい絵画に見える額縁内の世界に、魔女は決して戦争が起こらない楽園を築き上げた。丘を創った彼女は頂に縦長の小屋を創る。中に入り大きめの椅子を創った魔女は、そこに座るような形で婚約者の遺骨を配置する。

 遺骨がずれないよう魔法で固定すると、胴体から足部分にかけて茶色の毛布を掛けてあげる。

 魔女は彼の額にキスをすると彼と一生を共にすることを誓った。


 天候は自由自在。時間が停止しているため骨や建物は劣化せずに保持されたまま。そんな世界に暮らし始めて早数百年が経過した。

 体内の時間も停止している魔女は、魔法で創りだした生前の婚約者と一緒に楽しくてのどかな日々を送っていた。

 額縁は魔女の旧住宅が歴史学者によって発見された後、国立美術館へ納められ、現在は展示されている。

 作品名は「導きのローブ」。丘の頂に立ち、紫紺のローブを靡かせている魔女の姿を克明に描いた名画として全世界に広まった。

 やがて年月が経ち、この国は十字軍運動に巻き込まれてしまった。「導きのローブ」は信仰の象徴として敵対勢力の標的となり、国立美術館が焼き討ちされるのと同時に焼失する。

 その時魔女は魔力回復のため深い眠りについており、二人は気づかぬまま制止した世界に永遠に閉じ込められることとなった。

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