手乗り女子高生、現る。

紅夜チャンプル

手乗り女子高生、現る。

 俺は雄大ゆうだい。普通のサラリーマンの傍ら、小説を投稿する日々を送っている。最近Web小説コンテストで短編が中間選考を突破した。嬉しい。

 だが次の公募の締め切りも迫っている。仕事もあるため平日の日中は執筆不可能。よって夜や週末にまとめて作業するのだ。最近は寝不足も続き、会社でも忙しいので毎日ふらふらだった。


 

 そんな日が続いたある朝のことである。俺が目を覚ますと、枕元に小さな人影が立っていた。身長はわずか15センチほど。ツインテールでセーラー服を着た、まるでお人形のような可愛い女子高生だった。妖精なのだろうか?

 彼女はキリッとした目で俺を見上げ、こう言った。

「やっと起きた! あたし、ミナ。よろしくね♪ あなたがあたしの新しいパートナーなんだから」


 俺は目をこすりながら混乱した。

「パートナー? どういうこと? 俺、夢でも見てるのか?」

 するとミナは小さな手を腰に当て、ふぅとため息をつきながら言う。

「夢じゃないわよ。あたし、手乗りサイズの女子高生。困ってる人を助けるために存在してるの。あなた昨日『誰か助けてくれ』ってつぶやいてたよね?」


 確かに俺は昨夜、仕事のストレスや公募で「もう無理、誰か助けてくれ」と独り言をつぶやいていた。でも、それがまさかこんな形で現実になるとは。しかも可愛い女子高生がうちにいる。

 ミナは俺の机の上にちょこんと座り、こちらをじっと見つめる。そこにいるだけで可愛いので永遠に目で追ってしまいそうだ。

「で? 雄大さんは何に悩んでいるの? 仕事? 恋愛? 家族?」

「えーと……仕事の合間に小説を書いているんだけど、睡眠不足で疲れてしまって」


 それを聞いたミナはうんうんと相槌を打ちながら、おもむろに小さなノートとペンを出してメモを取っている。

「よし! 仕事の応援をするからさ、あたしも会社に連れてって!」

「え?」

 俺は鞄にミナを入れて出勤した。外ポケットから小さな顔だけちょこんと出ているのがまた可愛い。デスクにつくと俺の肩の上に座り、耳元で「ゆうくん、素敵だよ……頑張って♡」と囁いてくれる。いつの間にか「ゆうくん」と呼ばれて心臓が飛び出てしまいそうだ。

 

 ミナのその可愛い声が俺にパワーを与えてくれた。素敵だよ……かっこいい……後で一緒に帰ろうね……など。たまらない。俺は幸せを感じながら仕事も捗り、何と今日の分を定時で終わらせることができたのだ。

「ミナのおかげだよ」

「えへへ。良かった♪」

 帰りも俺の鞄にミナが入って家まで向かった。


 

 それからというもの、ミナは俺の日常に欠かせない存在になった。朝は可愛い声で「起きなさーい!」と起こし、日中は仕事の応援をしてくれる。夜に小説を執筆している時は「あたしをヒロインにしたら?」とアドバイスしているつもりなのだろうが、プッと笑ってしまう。まぁ、異世界の冒険だから小さな女の子が出てきてもいいのかな。彼女に癒されながら執筆もどうにか進んでいった。

 週末には、手のひらに乗せて大きな公園に散歩に行く。ミナはツインテールを風になびかせながら目を輝かせている。

「うわぁー緑が多くて広々しているね! 空ってあんなに大きいんだ!」

 彼女の喜ぶ姿を見て俺も気持ちが高まっていく。


 ある日、俺はミナに聞いてみた。

「なんでそんな小さくて、しかも女子高生の姿なの?」

 ミナは少し照れくさそうに笑って答えた。

「わからない。あたしを生み出した誰かが『このサイズと見た目が一番男性を励ませる』って決めたのかも。でも、ゆうくんが元気になったら、あたしの役目も終わりかな」


 その言葉に、俺は胸が締め付けられる思いがした。ミナがいなくなるなんて、想像もしたくなかった。

「じゃあ、ずっと困ってるふりしてればいいよね?」

 俺は冗談のように言うと、ミナは小さく笑って「何言ってるのよ」とつぶやいた。



 ミナと過ごして数週間が経過し、俺は公募の締め切りにどうにか間に合った。

「ありがとう、ミナのおかげだよ」

 そう言ったが、先ほどまでいた彼女がどこにもいない。まさか……もう公募も応募できて時間の余裕ができたから、彼女は姿を消したのだろうか。

「ミナ……会いたいよ……」

 

 それでも日常はやってくる。翌日からも俺はミナのことを思い浮かべながら仕事をこなしていった。不思議なことに前よりも自信がついてスムーズに進むようになったのだ。ミナのおかげかもしれない。

 次の公募もあったが仕事も定時で終わることが多く、比較的執筆の時間を確保できた。もう俺はミナがいなくても……大丈夫なようだ。

「ミナ……寂しいけど俺、どうにか頑張れているよ」


 そして数ヶ月後、ミナと一緒に執筆した公募の結果発表があった。何と「奨励賞」だ……信じられない。書籍化はされないが俺は初めての入賞に感動した。

「ありがとう……! ミナ……!」

 SNSのフォロワー数も一気に増えて俺の作品の読者が増えた。これも嬉しい。もっとたくさん執筆して自分の作品を届けようと思った。


 ピンポーン

 インターホン鳴る。誰だろうか。

「ゆうくーん! ミナだよぉ」と声がする。

 ミナ? 俺は慌てて玄関のドアを開けるとそこには普通の人間のサイズの女子高生、ミナが立っていた。ツインテールにセーラー服姿である。

「ミナ……どうして?」

「えへっ♪ あたしの役目は終わったんだけどさ、流れ星にお願いしたんだ。ゆうくんと一緒にいたいって。そしたら……こんな姿になっちゃった」


 信じられない。ミナが……ミナが目の前にいる。

「ミナ……! 会いたかった!」

 俺は彼女を抱き寄せた。温かい……ミナのお日様のような匂いがする。

「ゆうくん……あのね。頼み事があるの……」

「何?」

「住むところがないから……一緒に住んで?」

 夢のような彼女の提案に俺の心が踊る。


「もちろん! ずっと一緒にいよう!」

「やったー!」

 もう一度俺たちは熱い抱擁を交わした。そして自然な流れでそのまま唇を重ねた。

 これからも仕事や公募で辛いことが待っているかもしれない。だけどミナと一緒なら、きっと愉快で楽しい毎日を送ることができる。

 そう思いながら俺はもう一度……彼女をぎゅっと抱き締めた。





 終わり



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