妖精に強制されたんだが?

きの狐🍄

妖精に消しゴム取られた

 朝起きると、机の上に小さな妖精がいた。


 透き通る茶色の羽を持ち、手のひらほどのサイズ。優雅な雰囲気をまとっているが、険しい顔で腕を組んでいる。


「人間よ、この部屋の惨状はなんだ」


……はい?


「私は掃除の妖精、オルディナス・クリーンハルト。汚れた空間を見過ごせぬゆえ、こうして参上した」


 つまり、勝手にやってきたということらしい。


 よく見ると、消しゴムを小脇に抱えている。


「それ、俺の消しゴム?」


 クリーンハルトは厳かに頷くと、茶色の羽をふわりと動かし宙に舞った。


「返してほしければ、まずはこの机の上を片付けよ」


 うわ、そういうやり方する!?


 仕方なく、散らばっていたプリントやペンを整理する。すると、妖精は満足げに頷き、消しゴムを返してくれた。


「よくやった。だが、これは始まりに過ぎぬ」


「…………は?」


✦✦


 それからというもの、妖精は毎朝現れた。


「このアメを返して欲しければ……」


(うわっ。それ好きな子にもらったやつ!)


「床に落ちた制服をハンガーにかけろ。毎日だ」


(母ちゃんかよ)


「ベッドの下のほこりを掃除せよ」


(うわっすごいホコリ)


「拭き掃除も欠かせぬ」


(ゴシゴシゴシ……)


 言われるがままに片付けると、取られた持ち物は返ってくる。気がつけば、部屋は見違えるようにきれいになっていた。


 最初は面倒だったが、不思議とスッキリした気分になる。クリーンハルトの言う通り、掃除には思った以上の効果があるのかもしれない。


✦✦


 そしてついに、その日が来た。


「人間よ、もはや私の役目は終わった」


 見渡せば、部屋はピカピカ。余計なものがいっさいなく、心なしか空気まで澄んでいるように思える。


 妖精は誇らしげに頷くと、一冊の小さな本を差し出した。


「これは?」


「我が著書『チリトリの降臨』。清らかなる空間を維持するための指南書だ」


……チリトリ。確かに無いと困る時もある。


「お前ならば、きっとこの書を活かせるだろう」


 そう言い残し、クリーンハルトは光の粒となって消えていった。


 いや、最後まで偉そうだったな。しかも当然のように自作の本を渡してきた……


 けどまあ、部屋がきれいになったし、いいか。


 俺は本を手に取り、さっそく最初のページを開いた——


 小さっ!?


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妖精に強制されたんだが? きの狐🍄 @kinokokokoo

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