トリにあこがれて(KAC20252)

つとむュー

トリにあこがれて

「地名の神様、地名の神様!」

「おう、なんだ?」


 一人の相談者がやってきた。

 ぶっきらぼうに返事をすると、神妙な顔つきで望みを訴え始める。


「あなた様は、地名を変えることができるとお聞きしました」

「地名の管理が仕事だからな、当然だ」

「それなら私の名前に『トリ』を付けて下さい!」


 相談者からほんのりと良い香りが漂ってきた。花の香りだ。

 もしかしたらこの相談者、花で有名な『島』のアイドルなんじゃないのか。


「なんでトリを付けて欲しいんだ? 今でも素敵な名前……のはずだと思うが?」


 相談者が予想通りの島のアイドルなら、三文字の素敵な名前のはずだ。


「理由はですね、日本の端っこの島には名前にトリが付くからです」


 端っこの島の名前? そうだったっけ?

 ——南端はオキノトリ、東端はミナミトリ、北端はエトリフ……。

 確かにそうだ。言われてみれば名前に『トリ』が付いている。


「私の名前にもトリが付いたら、グググっと地殻変動が起きて端っこを狙えると思うんです」


 確かにこの相談者は、端っこに近い位置にいるけどさ。


「そんなに簡単に地殻変動なんて起きないぞ」

「それでもいいんです。名前が変わるだけで端っこ仲間に入れるような気がするんです」

「いいのか? 後悔しないか? アツモリソウやウスユキソウの名前も変わっちゃうぞ」

「後悔しません。お願いします!」


 真剣な眼差しで懇願する相談者に根負けした。

 ふうっと静かに息を吐く。

 目を閉じて、腹に力を込めながら意識を集中させた。地名の変更にはかなりのパワーが必要だった。

 そして呪文を唱える。


「トリの降臨!」

「おおおおおおぉぉぉぉ……!」


 まばゆい光が相談者を包み、光の力でだんだんと地名が書き換えられていく。

 世界中のすべての地図、文献、看板、花の名前、そして人々の記憶の中までも。

 やがて新しい名前をまとった相談者が現れた。


「今日から君は、トリレブンだ」

「ありがとうございます! それにしても不思議なものですね、名前が変わるだけでこんなにも端っこっぽくなるなんて。地殻変動を起こして絶対に北の端っこになってみせます!」


 そんなことができるだろうか。

 まあ、ちょっと北に動いたら宗谷岬よりは北になりそうな気もするけど……。

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