わたしだけの最高のアイドル

八方鈴斗(Rinto)

わたしだけの最高のアイドル


 あ。もしもし?


 ごめん遅くに。平気?

 ちょっと話したくて。


 はは、生きてるってば。

 私もバタバタしてて、SNSいじるヒマもなくて。

 ゴホッ――そう、

 先週のロコ様の生誕イベントから、ちょっとね。


 最近ずっとだけどさ、

 あの日のロコ様。特に無気力だったよね。

 いっつも手抜きっていうか。

 まあ元々ビジュ強だし?

 全然見てられるけど。


 でもデビュー直後のキラキラっぷりと比べると……うん。


 あの頃から推してる側からすれば、


 ちょっとね。



 推し変? しないよー。

 彼なしじゃ生きらんないもん。


 そ。惚れた弱みってやつ? あはは。


 うん。確かにロコ様あれ以来露出ないけど、

 でも大丈夫だいじょゴホッ、

 ゲホゲホゲボッ――


 ゔ、ゔん、ごめん。


 いや、悪いことって重なるもんでさ。


 そ。病気。

 末期も末期。

 私、もう長くないんだって。


 ……いやいやいや気にしないでよ。


 そんなことより聞いて。


 やっぱ、悔い残したくないじゃん。




 私、ロコ様さらっちゃって。




 そ。だから露出ないわけ。

 ほら、昔ほど輝いてなくたって、

 最後ってなったらね――


 でも正直、やって後悔。

 ロコ様、暴れて私の言うこと聞いてくんないし。

 見え透いた嘘ばっかですぐ逃げようとするしさあ。もう。



 ええ? 



 妄想でしょ、って?



 ふふ



 ……どこからが、妄想でしょーか。



 あはっははは――ゴボゴボッ、ンン゙。



 憧れのアイドルとの同棲も、楽しくないしさー。

 体調悪いし、イライラしちゃうし。



 怪我させちゃった。


 逃げらんないように。


 骨折ろうとしたけど。


 あれ超大変で。



 ロコ様も痛がるし、やっぱ罪悪感あるじゃん。


 でもさそれで、初めて私を見てくれて。



 やっと色々、話せて。



 デビューからずっとロコ様だけを推してきたこととか、

 私がもう死ぬこととか、色々。




 そしたらロコ様、


 すっごいの。


 これまでのが嘘みたいに。



 昔みたいにキラキラな瞳で、


 脳みそ溶けちゃう微笑みでさ、


 心焦がれちゃうようなファンサして。




 私だけ、


 私だけのために。


 アイドルを、


 本気で魅せてくれた。





 だから私、







 逃がしちゃった。





 バカだよね。





 でもさ、



 あの時あの瞬間は、


 確かに、私だけのアイドルでいてくれたから。




 それで、


 私の人生、


 もう充分かなって。




 ゴホゴホッゴホッ――あ、


 警察の人きたかも。



 じゃ、ばいばい。


 元気でね。

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