アラン・フィンリー探偵事務所 死者の暗号(不問×不問×男)

Danzig

第1話

アランフィンリー探偵事務所 死者の暗号



テイラー:

ルーク・・・だから、あれほど言ったのに・・・なのにどうして、君は・・・


(場転)


ウォルター:(モノローグ)

朝のイーストエンド

まだ少し静けさの残る朝の余韻に浸るように、俺はいつものパブで朝食をとる。

これから忙しくなる本当の一日の始まりを前にしての、ささやかな抵抗ってやつかな。

どうせなら、たまには

「フル イングリッシュ ブレックファスト(Full English Breakfast)」

と行きたいところだが、俺はいつものトーストとミルクティを注文して席につく。


(場転)


アラン:(モノローグ)

とある朝、僕はいつもの様にイーストエンドにある事務所へと向う。

僕はいつも入り口で郵便物を取ってから、階段を登り事務所へと向かうのだが、

この日の朝は、そこで何とも面白くない事件が起きていた。

このビルの全ての郵便受けが、何者かによって荒らされていたのだ。


このビルは古いビルなだけに、郵便受けのロックも簡素(かんそ)なものだ、

だから、その気になれば、直ぐにでも壊す事は出来るし、

そもそも最初から鍵が壊れたままに放置している部屋さえもある。

そんな古い雑居ビルの郵便受けを物色したところで、

得られるものは新聞か広告くらいだろうに・・・


(場転)


ウォルター:(モノローグ)

この店のトーストはサクっとした食感とバターの香りが心地いい

濃いめに淹(い)れたミルクティーとも相性がよく、やけに落ち着く。

仮に今この瞬間、どこかで事件が起きていたとしても、

出勤前の今の俺には連絡をしないでくれと願うばかりだ。


(場転)


アラン:(モノローグ)

盗難に関しては、一応、ビルのオーナーが郵便局に連絡し、全ての部屋の郵便物を確認してもらったが、

どの部屋も、郵便物で盗られたものはないという話だった。

やはりというか、何というか、そんなリスクしかない犯罪を、わざわざ犯す奴もいないだろうという事で、

この事件は、子供か、酔っ払いの悪戯(イタズラ)だろうという事になった。


(場転)


ウォルター:(モノローグ)

俺は朝食を済ませた後、ロンドン警視庁に出勤した。

そして俺は、これから数時間、いつもの様に雑多(ざった)な仕事に追われる事となる。


ウォルター:

さて、まずはこの書類を整理していかないとな。


ウォルター:(モノローグ)

俺は目の前の書類の束を見てつぶやいた。



(場転)


アラン:(モノローグ)

郵便受けの鍵はオーナーが直してくれるという事だが、直るまでには3日かかると言われた。

僕としては何ともそれが面白くない。

ここは仮にも探偵事務所だ、たとえ3日であろうと、守秘義務的(しゅひぎむてき)には問題だ。

・・・でも実際、そんな郵便物が来る事なんて、そうそうあるもんじゃないから、

3日くらいなら、まぁ、大丈夫だろうとは思っているのだが・・・


(場転)


ウォルター:(モノローグ)

その日、ロンドン警視庁に1件の行方不明者の捜索願いが出されていた。

行方不明者の名前は、ルーカス・クラーク。

ウエストリッジ・プレスという出版社で、雑誌記者をしている男性という事だった。

そして俺は、その事を数日してから「とある事件」を切欠に知る事となる。


(場転と時間経過)


アラン:(モノローグ)

「郵便荒し」の事件から3日後、ようやく鍵が直った。

特に心配をしていた訳ではないが、鍵が直るまでの3日間、

案の定、事務所充ての郵便物には、特にこれと言って重要なものは無かった。

でもまぁ、これでようやく健全な日常が戻って来るというところだろう。


アラン:

ふぁぁ~(あくび)


アラン:(モノローグ)

だが、平穏を取り戻した日常というのは、やはり退屈なものだ


(少しの間)

(コンコンコン)


アラン:(モノローグ)

僕が退屈しのぎに、今朝来た郵便広告を眺めていると、事務所の扉を叩く音がする。


アラン:

どうぞ、開いてますよ。


(扉が開き、人が入って来る)


テイラー:

失礼します。


アラン:

ご依頼ですか?


テイラー:

いえ、あの・・・依頼というか・・・あなたに少々お尋(たず)ねしたい事がありまして

お話を伺(うかが)えないかと・・・


アラン:

そうですか、では、そちらのソファーにお掛けください。

今、紅茶を入れますから。


テイラー:

いや、ですから、依頼という訳では・・・


アラン:

大丈夫ですよ、ちょうど今僕も紅茶を飲もうと思っていたところですから


テイラー:

・・・分かりました。


アラン:(モノローグ)

訪問者は部屋を見渡すと、ソファーにゆっくりと腰を下ろした。

そして僕は、いつものように給湯室で紅茶を作り、ソファーの前のローテーブルの上に置く。


アラン:

お待たせしました、アランフィンリー探偵事務所へようこそ。

それで、僕に聞きたい事とは何ですか?


テイラー:

申し遅れました、

私は「ウエストリッジ・プレス」という出版社で、「ウィンス」という雑誌の編集長をしております、

テイラー・ヘイズと申します。


アラン:(モノローグ)

訪問者はそう言って、僕に名刺を差し出した。

このテイラーの語った出版社と、雑誌の名前には心当たりがある。


アラン:

「ウィンス」というと、確か・・・ルークの・・・


テイラー:

はい、あなたにお尋ねしたい事というのは、うちの記者のルーカス・クラークの事なんです。


アラン:

ルークの事・・・ですか?


テイラー:

ええ


アラン:(モノローグ)

ルーク・・・いや、ルーカス・クラークは、「ウエストリッジ・プレス」社の記者で、

「ウィンス」という社会情勢を扱う雑誌の記事を担当している。

僕よりも若く、少々危なっかしい所は感じるが、とても頭が良く、真面目で正義感の強い人物だ。

僕は何度か彼の取材に協力した事があり、面識がある。


アラン:

ルークがどうかしたのですか?


テイラー:

数日前から彼と連絡が取れないんです。


アラン:

連絡が取れないというのは、失踪したという事ですか?


テイラー:

いえ・・・どうもそうではなさそうな気がしていて・・・


アラン:

どういう事ですか?


テイラー:

実は、彼はある組織の取材というか調査をしていまして、数日間帰って来ていないんです。


アラン:

ほう


テイラー:

こういう仕事をしていますと、取材で数日留守にする事は珍しくはないんです。

ですが、連絡がないというのは初めてなんです。

ですから、あなたに彼から何か連絡が入っていないだろうかと思いまして・・・


アラン:

僕にですか?

いや、僕のところにはルークからの連絡は何も来ていませんが・・・


テイラー:

そうですか・・・


アラン:

それにしても、どうして僕なんですか?

僕は数回、彼の取材の手伝いをした程度ですよ?


テイラー:

ルークは、よくあなたの事を「とても頼りになる探偵さん」と話していたものですから

ひょっとしたら、今回の取材に関して彼から何か相談されているかもしれないと思いまして


アラン:

そういう事ですか・・・

いや、僕のところには彼からの連絡は何も来ていませんし、

僕は彼が今、何の取材をしているのかも知りませんよ。


テイラー:

本当に知らないのですか?


アラン:

え?


アラン:(モノローグ)

僕はテイラー・ヘイズと名乗る人物の態度に少し違和感を感じた。


(場転)


ウォルター:(モノローグ)

書類の処理がようやく終わりそうだと思っていた頃、デスクの電話が鳴り、俺は現場に駆り出される事になる。

電話は死体発見を知らせるものだった。

どうやら、今は使われていない廃(はい)工場で、一人の男性の死体が放置されているらしい。

聞くところによると、探検ゴッコをしていた子供たちが、廃工場に忍び込んで偶然発見したという事だった。

俺はその話を聞いて、部下のリチャードと検視官を連れて現場へと向かった。


(場転)


アラン:

「本当に知らないのですか」とはどういう意味ですか?

あなたは、僕が何かを隠していると思っているのですか?


テイラー:

いや・・・そういう事ではないのですが・・・・


アラン:

そうですか?

僕には、ルークが僕に連絡をしていると、半ば確信をしているような態度に見えますが


テイラー:

・・・いや・・・あの・・・


アラン:

詳しく話して頂けますか?


テイラー:

・・・・ですが、もし、あなたが「本当に何も知らない」のでしたら、

これから先も、知らない方がいいと思うんです・・・


アラン:

どうしてですか?


テイラー:

・・・・


アラン:

何かありそうですね。

僕に話せるところまでで結構ですので、話して頂けますか?


テイラー:

・・・そうですか・・・わかりました。

実は、ルークは今回の取材がらみで連絡の取れない状態になっていると考えています。


アラン:

それはつまり、ルークは取材先に監禁をされているか、

ひょっとしたら殺されているかもしれないという事ですか?


テイラー:

そうなんです、

この件は、それだけ危険な話ですので、あなたが本当に何も知らないのでしたら

もうこの件とはこの先、何も関係を持たない方がいいと思います。

ですが、これにはルークの命が掛かっていますので、もし何かご存じでしたら、

隠さずに教えて頂きたいと思って、あのような態度を・・・


アラン:

そういう事でしたか・・・


(場転)


ウォルター:(モノローグ)

イーストエンドには、まだ再開発されていない古い廃工場が幾つか点在している。

廃(すた)れた赤レンガの壁、錆(さ)びた鉄骨、割れた窓ガラス、穴の開いた古いトラス屋根・・・

立ち入り禁止の廃工場は、死体を遺棄(いき)するには都合のいい場所だ、

だが同時に、廃工場は子供達の冒険心を存分に掻き立てる。

それは死体が発見される大きなリスクでもある。

俺達は錆(さ)びた鉄の扉をくぐって、廃工場の中に入った。


(死体を見る)

ウォルター:

これは酷いな・・・


ウォルター:(モノローグ)

死体は建物の中央付近で椅子に縛られ、項垂(うなだ)れるような形で死んでいた。

顔や体には拷問(ごうもん)されたであろう傷が、幾つも付けられている。

だが、致命傷となる傷は見受けられない。

拷問中にショック死をしたか、あるいは毒殺されたのだろう。

俺は現場での検死の後、死体を回収し、司法解剖(しほうかいぼう)と身元の割り出しを進めた。


(場転)


アラン:

お話は分かりました。

ですが、ルークの命がかかっているのでしたら、僕も是非協力したいですし、

探偵の仕事には危険は付き物ですから、僕への心配も無用です。

ですから、詳しく話して頂けませんか。


テイラー:

・・・そうですか・・・分かりました。


アラン:(モノローグ)

テイラーは少しの沈黙の後、躊躇(ためら)いを滲(にじ)ませながら口を開いた。


テイラー:

あなたは「サイレント・パッセージ」という言葉を聞いた事はありますか?


アラン:

「サイレント・パッセージ」ですか?

ええ、確か自殺志願者に対して、自殺のノウハウを教えて、毒物を販売する闇サイトの事だったかと思いますが


テイラー:

ええ、そうです。


アラン:

ルークはその闇サイトの取材をしていたという事ですか?


テイラー:

ええ・・・


アラン:

そうですか・・・

でも、そこはそんなに危険なサイトなんですか?


テイラー:

・・・ええ


アラン:(モノローグ)

テイラーは、まだ躊躇(ためら)いを拭(ぬぐ)いきれない様子で話を続けた。


テイラー:

出版業界に限らず、記者と呼ばれる者たちの世界には、触れてはいけない「タブー」というものが幾つかあるんです。

それを記事にしようとすると、命に係わるというような・・・

例えば、宗教の闇(やみ)の部分とか、マフィアの愛人スキャンダルとか、

違法薬物のルートを特定する情報とか・・・


アラン:

タブーについては分かりますが「サイレント・パッセージ」もその一つだと


テイラー:

そうなんです。

「サイレント・パッセージ」がタブー視され始めたのは、そんなに古い話ではないんです。

私も詳しい話は知らないのですが、これまでそこを記事にしようとした人間が

何人も行方不明になったり、自殺したり・・・


アラン:

自殺・・・ですか?


テイラー:

ええ、勿論、私達は自殺とは思っていませんが・・・



アラン:

なるほど・・・


テイラー:

私達、編集長クラスの人間は、若い記者がタブーに触れないように常に目を光らせているんです。

私はルークが「サイレント・パッセージ」の取材をしていると知った時に、

かなり強い口調で止めたのですが・・・それでも彼はそのまま取材を続けてしまって・・・


アラン:

そうだったんですか・・・



(場転)


ウォルター:(モノローグ)

死体の身元の割り出しには時間がかかるだろうと思われていたが、

この死体は、数日前の捜索願(そうさくねが)いの人物と特徴が似ており、

同一人物ではないかと推定(すいてい)された。

名前はルーカス・クラーク、

ウエストリッジ・プレスという出版社で雑誌の記者をしているようだ。

一応、依頼主へは、死体の身元が確認できてから連絡する事にして、

俺達は、今度はそのルーカス・クラークについて捜査する事にした。



(場転)


アラン:

それで、ルークの事を警察には相談しましたか?


テイラー:

はい、

出版社としては、本来、取材のトラブルは、あまり警察沙汰(ざた)にはしたくないのですが、

今回は事情が事情なだけに、3日程前に警察には捜索願(そうさくねが)いを出しました。


アラン:

そうですか


テイラー:

ですが、警察からは何も音沙汰(おとさた)がなくて・・・・


アラン:

それで僕の所へ来たと


テイラー:

あ、いえ、ここへ来たのはそういう訳ではありません。

私なりに、ひと通り目ぼしい所を探したのですが、何も見つからなかったので、

ひょっとしたら、あなたが何か知っているかもしれないと思って・・・


アラン:

そうでしたか・・・

事情は分かりました、僕もルークの事が心配なので、一緒に探しましょう。


テイラー:

いえ、この話は依頼という訳ではなくて・・・・


アラン:

大丈夫ですよ、これは僕が個人的に友人を探したいというものですから。


テイラー:

分かりました・・・ありがとうございます。


アラン:

テイラーさんは、彼の立ち寄りそうな場所に心当たりはありませんか?


テイラー:

心当たりは幾つかあって、目ぼしい所には全て行ってみたのですが・・・結局何も・・・


アラン:

うーん・・・・分かりました。

では、まずは自宅へ行ってみましょう。


テイラー:

自宅ですか・・・

私は、もう何度も彼の自宅へは行きましたが・・・


アラン:

たとえ彼が留守でも、近所の人が何かを見ているかもしれません。

今度は探偵目線でルークを探してみましょう。

とにかく、もう一度、彼が立ち寄りそうなところを順に回りましょう。


テイラー:

そうですね・・・分かりました。


アラン:(モノローグ)

そして僕達は、テイラーの運転する車でルークの自宅へと向かった。


(車内)


アラン:

それで、ルークはどこに住んでいるのですか?


テイラー:

ブラックストーン・アレーにある集合住宅です。


アラン:

ブラックストーンですか


テイラー:

ええ・・・

私も、もう少しいい所に住んだらどうかと言ったんですよ。

どうして、あんな所がいいのか・・・

エントランスなんて鍵も掛かっていないんですよ。


アラン:

ははは、そうですか・・・

若い記者の好奇心という奴ですかね。


テイラー:

そうかもしれませんね・・・

あ、そこを曲がると、もうすぐ見えてきます。


(少しの間)


テイラー:

ほら、あそこの茶色いレンガ作りの建物です。

3階の一番奥、


アラン:

一番奥・・・あの窓の開いている部屋ですか?


テイラー:

え?

ホントだ窓が開いてる・・・そんな


アラン:

以前来た時は閉まっていたんですね?


テイラー:

ええ


アラン:

とにかく急ぎましょう


テイラー:

はい


アラン:(モノローグ)

テイラーは車のスピードを上げて建物に近づき、建物の前に乗り捨てるように車を停(と)めた。

僕達は急いで建物のエントランスに入り、一気に階段を3階まで駆け上がる。

その時のテイラーは息を切らせ、口元をゆがめていた。


(少しの間)


アラン:(モノローグ)

3階に着くと、廊下の向こうに扉の開いたルークの部屋が見えた。

僕達は廊下に足音を響(ひび)かせ、部屋に飛び込むように入り口に立った。

その時、目の前に飛び込んで来た予想外の光景に、僕達は一瞬言葉が出なかった。


ウォルター:

おや、アランじゃないか。

どうして君がここに来たんだ?


アラン:(モノローグ)

ルークの部屋は数人の警察官によって捜索が行われていた。

そして、その中には、ロンドン警視庁のウォルター・ライルの姿があった。

僕は以前、このウォルター・ライルと捜査協力をした事があり、彼とは面識がある。


アラン:

ウォルターさん・・・

ウォルターさんこそ、どうしてここに?


ウォルター:

どうして俺がここに居るかなんて、今の君に言える訳がないだろ。

ただ、警察の仕事でここにいるとだけ言っておくよ。


アラン:

ルークに何かあったのですか?


ウォルター:

アランは、この部屋の住人を知っているのか?


アラン:

ええ、友人です。

今、彼が行方不明なので、探しているところです。


ウォルター:

そうか・・・


アラン:

警察にも3日前にルークの捜索願いが出されていると思いますが・・・


ウォルター:

あぁ、確かに出されているな、でも君が出した訳じゃないんだろ?


アラン:

ええ、僕ではありません。


ウォルター:

そうだよな


アラン:

・・・

ウォルターさんがここに居るという事は、殺人事件ですよね?


ウォルター:

さて、どうだろうな。


アラン:

ルークは被害者ですか? それとも加害者の側ですか?


ウォルター:

・・・

ところで、そちらの方は?


アラン:

・・・


テイラー:

私はテイラー・ヘイズと申します。

ウエストリッジ・プレスという出版社で「ウィンス」という雑誌の編集長をしています。


ウォルター:

あぁ、あなたが彼の捜索願いを出された方ですね。


テイラー:

はい、そうです。

ルークは私の部下で、警察への捜索願いも私が出しました。


ウォルター:

そうですか、分かりました。


アラン:

ウォルターさん・・・


アラン:(モノローグ)

ウォルター・ライルは、僕の呼びかけにはまるで答えようとせず、淡々(たんたん)と話を進める。


ウォルター:

テイラーさんには、まだお話出来る段階ではありません。

ある程度情報が揃(そろ)った時に報告をさせて頂きます。

またその時には、こちらから、いくつかお尋ねする事にもなるかと思います。


テイラー:

そうですか・・・


ウォルター:

また後日、改めて警視庁から連絡が行くと思いますので、その時にはご協力ください。


テイラー:

わかりました。


アラン:

ウォルターさん!


ウォルター:

この場所は、今は警察が捜査をしていますので、

お二人には申し訳ありませんが、今日のところはお引き取り下さい。


アラン:

・・・

ウォルターさん、僕達もルークについて調べていますし、

彼が行方不明になる直前の行動も把握(はあく)しています。


ウォルター:

・・・


アラン:

以前にもお話しましたが、僕は探偵なので、捜査(そうさ)の障害(しょうがい)となるような事はしませんし、

テイラーさんもジャーナリストなので、その辺りは大丈夫だと思います。

それに、現時点では、僕達の方がルークの情報は持っていますから、捜査協力もできますよ。

殺人事件なら尚更、捜査協力はあった方がいいんじゃないんですか?


ウォルター:

はぁ・・・あぁもう、分かったよ!


ウォルター:(モノローグ)

俺は今回も不本意ではあったが、アランの捜査協力を受け入れる事となった。


ウォルター:

実はな、今日、とある廃工場で死体が発見されたんだ。


テイラー:

ルークの死体が発見されたのですか?


ウォルター:

いや、まだ死体が彼のものと決まった訳ではありません。


テイラー:

・・・・そうですか・・・


ウォルター:

ただ、その死体が捜索願の出ているルーカス・クラークと特徴が似ているので

俺達は、確認を兼ねて、彼を捜索しているところなんです。


テイラー:

・・・そう・・・ですか・・・


アラン:

でも、ウォルターさんがいるという事は、その死体・・・


ウォルター:

あぁ、察しがいいな

死体の状態から、何かの事件に巻き込まれて殺されただろうと判断してな、

俺達は、ルーカスの個人情報と、DNAの採取(さいしゅ)の為にここに来たという訳さ。


アラン:

そうですか・・・

事件に巻き込まれたという事は、死体には何か特徴があったという事ですか?


ウォルター:

あぁ、拷問(ごうもん)をされた痕(あと)があったよ


アラン:

拷問・・・ですか・・・


ウォルター:(モノローグ)

アランは俺の言葉を聞いて何やら考え込む仕草を見せた。


ウォルター:

どうしたんだアラン、何やら腑(ふ)に落ちないような顔して


アラン:

あ、いえ・・・何かちょっと変だと思って・・・


テイラー:

何が変なのですか、アラン。


アラン:

・・・

ウォルターさんは先程、死体は廃工場で発見されたと言いましたよね?


ウォルター:

あぁ、レイブンホルムにある溶接(ようせつ)作業の廃工場だ


アラン:

そんな所で誰が発見したのですか?


ウォルター:

子供達だよ。

遊ぶつもりで工場に忍び込んだらしい


アラン:

なるほど・・・

で、死体は工場のどの辺りにあったのですか?


ウォルター:

丁度、建物の真ん中辺りだが・・・死体の場所がこの事件と何か関係があるのか?


アラン:

いや、死体の場所に限らず、ウォルターさんの話を聞く限り、

今回の件とルークの死が、一見関係無さそうに見えるところが変なんです。

いや、でも、それにしては・・・


ウォルター:

「関係なさそうに」とはどういう意味だ?

それに「今回の件」とは何の事なんだ?


アラン:

あ、実はルークは、雑誌記者として「サイレント・パッセージ」について調べていたようなんです。

今回の件というのは、その「サイレント・パッセージ」の件という事です。


ウォルター:

「サイレント・パッセージ」っていうのは、あの闇サイトの事か? 


アラン:

ええ

テイラーさんの話によると、ジャーナリストの間では、それを取材すると命に関わる危険が及ぶために、

タブーとされている存在の一つなんだそうです。

そうでしたよね、テイラーさん。


テイラー:

ええ・・・そうです。


ウォルター:

そうか・・・所謂(いわゆる)「アンタッチャブル」というやつだな、

警察でも、前からそこは危険なサイトだと認識してはいたが、まさかそんなサイトだったとはな・・・

でも、それなら今回、そいつらが彼を殺したと考えれば、別に不自然じゃないだろ、

一体、どこが変なんだ?


アラン:

変なのはルークの殺され方なんです。


ウォルター:

殺され方だって?

一体どういう事なんだ?


アラン:

ウォルターさん、ルークの死体を見せて貰う事は出来ますか?

そうすれば、もう少し分かる気がするんです。


ウォルター:

いやぁ、そんな事を言われてもなぁ、

いくら捜査協力をしていると言っても、流石に民間人に遺体を見せるという訳には・・・


アラン:

・・・そうですか・・・


(少しの間)


ウォルター:

あ、いやまてよ、出来るかもしれないぞ、

ルークの捜索願いを出しているテイラーさんに、遺体の身元確認をしてもらうという名目なら・・・


アラン:

なるほど、それはいいですね。

テイラーさんもそれで問題ありませんか?


テイラー:

ええ、構いません。


アラン:

ではウォルターさん、遺体を今からでも見せて貰いたいのですが、出来ますか?


ウォルター:

今からか・・ちょっと待ってくれ、確認してみるよ。


アラン:(モノローグ)

そう言って、ウォルター・ライルは何処かへ電話を掛けた


(電話に向かって)

ウォルター:

そうか、わかった、ありがとう


(電話を切る)

ウォルター:

アラン、遺体は司法解剖が済んで、今は病院内のモルグにあるそうだ。


アラン:

モルグって、遺体の安置施設の事ですね。


ウォルター:

あぁ、

遺体との面会は今からでもいいそうだよ。


アラン:

有難うございます。

テイラーさんも行きましょう。


テイラー:

分かりました。

あ、すみません、ちょっとその前に会社に電話を入れておきたいので、少し待っていて下さい。


アラン:(モノローグ)

そう言って、テイラーは部屋を出て行った。

その後、テイラーが帰って来るのを待って、僕達はウォルター・ライルと共に病院へ向かった。


(場転)


ウォルター:(モノローグ)

病院についた俺は、アラン達を連れて解剖室へと向かった。

解剖室は明るい蛍光灯に照らされ、清潔で無機質な金属の冷たさが印象的だ

俺達は、解剖室を通り、その奥のモルグへと入る。

モルグの中は、金属製の冷蔵庫が壁一面に並び、各扉(とびら)には番号が振られている。

冷蔵庫の中で、ストレッチャーに横たわる黒い死体袋。

俺は、管理番号「4983」のタグの付いたジッパーを開けて遺体を二人に見せた。


ウォルター:

テイラーさん、この人がルーカス・クラークで間違いないですか?


ウォルター:(モノローグ)

テイラーは遺体を確認して呟いた。


テイラー:

はい、ルークに間違いないです。

ルーク・・・だから、あれほど言ったのに、なのにどうして君は・・・


ウォルター:

・・・


アラン:(モノローグ)

ルークの顔や体にはウォルターの言った通り、拷問の後が見受けられた。

ウォルターの話によると、ルークは椅子にロープで固定されたまま、死んでいたらしい。

死亡推定期間は4、5日、

身体には致命的な外傷はなく、おそらく拷問の後で毒殺されたのだろうという話だった。


ウォルター:

どうだアラン、何か分かった事でもあったか?


アラン:

ええ、遺体を見て確信しましたよ。

やはり殺され方が変ですね、やっている事が、まるでチグハグというか・・・


ウォルター:

どういう事なんだアラン。

詳しく説明してくれないか。


アラン:

ええ、でもその前に

テイラーさん、「サイレント・パッセージ」を記事にしようとした人間はどうなるんでしたっけ?


テイラー:

え?


アラン:

僕に教えてくれた事を、ウォルターさんにも教えてあげて下さい。


テイラー:

あ・・・はい・・・

私も詳しい話を知っている訳ではないのですが、

「サイレント・パッセージ」を記事にしようとした人間はこれまで何人も行方不明になったり、

自殺をしたりしているんです。


ウォルター:

それは本当なんですか?


テイラー:

ええ・・・私の知る限りはですが・・・


ウォルター:

そうですか・・・


アラン:

おそらく「サイレント・パッセージ」は、自分達の邪魔になる者は容赦なく殺す組織なんでしょう。

ですが、それを事件にはしたくないと考えているのではないでしょうか。


ウォルター:

なるほど


アラン:

まぁそりゃ、彼らは自殺志願者に対して、まるで手を差し伸べるかのように毒物を売りつけるわけですからね、

殺人もいとわない犯罪者だという悪い噂は立てたくはないのでしょうね。


ウォルター:

だとすると、今回のルークの殺し方は・・・


アラン:

ええ、明らかにこれまでとは違っています。


ウォルター:

だが、これまで行方不明になっている人間も、実はそうやって殺されてるかもしれないだろ?

今回はたまたま見つけられただけで、ルークは行方不明者として処理をするつもりだったんじゃないのか?


アラン:

ウォルターさんは「ルークの死体は、廃工場の敷地の真ん中に遺棄(いき)されていた」と言いましたよね?


ウォルター:

あぁ


アラン:

もし、ルークを行方不明者にしたいのであれば、敷地の真ん中というのも変だと思いませんか?

行方不明にするのであれば、同じ工場に遺棄するにしても、なるべく見つかりにくい位置を選ぶ筈(はず)です。


ウォルター:

まぁ、そうだな・・・


アラン:

おそらく、これまで行方不明になっている人達は、見つからないような場所を選んで遺棄されていると思いますよ。

そして仮に見つかったとしても、まるで自殺をしたかと思われるような状態で・・・


ウォルター:

たしかに・・・

そう考えると、拷問の痕が残っているルークの遺体は不自然だな。

だがどうしてそんな不自然な殺し方を・・・


アラン:

これはあくまでも僕の仮説ですが、

今回、彼らにはルークを拷問せざるを得ない状況が発生してしまったのだと考えます。


ウォルター:

拷問せざるを得ない状況?


アラン:

ええ、例えばルークが彼らにとって重要な何かを手に入れたか、盗んだか、そしてそれを隠したとか・・・・


ウォルター:

そうか、だから彼を拷問して、それを聞き出す必要があったのか・・・


アラン:

そして、彼らはルークから、その情報を聞き出した後で殺害した。

しかし、拷問の痕(あと)のある死体は自殺者として処理する訳にはいかない。


ウォルター:

そうだな・・・だが、仮にそれがアランの予想通りだったとして、

じゃぁ、死体を工場の真ん中に遺棄したってのは、どういう理由なんだ?

これまでの手口からすれば、まるで開き直ったとしか思えないやり方だと思うが・・・


アラン:

ひょっとしたら彼らは、ルークが「サイレント・パッセージ」とは関係の無い、

何か別の事件に巻き込まれたと思わせたかった・・・とか、

例えば、何か別の注目される事件が起きれば、ルークは、その事件に巻き込まれた可能性も出て来る・・・


ウォルター:

・・・・


アラン:

仮に別の事件が起きなかったとしても、彼らとやり方が違う殺し方なら、

別の事件として捜査されると考えたのではないでしょうか。


ウォルター:

だから事件に巻き込まれたような状態で、見つかりにくい廃工場に棄(す)てたのか・・・


アラン:

勿論、これはあくまでも仮設ですが、そう考えれば、ある程度は話が成り立ちますよね。

・・・うーん・・なんですが・・・


ウォルター:

他にも何かあるのか?


アラン:

ルークは毒殺されたんですよね?


ウォルター:

まだ詳細な検死結果は出てないが、幾つかの特異(とくい)な成分が検出されているみたいだし、

他に致命傷となる傷もないからな、毒殺された可能性は高いと思うよ。


アラン:

毒を使えば、「サイレント・パッセージ」の関与も疑われると思うのですが・・・


ウォルター:

確かに・・・あそこは毒薬を扱うサイトだからな


アラン:

その辺りがチグハグに思えるんですよ。


ウォルター:

なるほど


アラン:

おそらく、彼らにとっては、ルークの案件は全てが想定外だったのではないでしょうか?

遺体も、彼らはこんなに早く見つかるとは思ってなかったでしょうね。

もし、遺体の発見がもっと遅れていたら・・・


ウォルター:

身体から毒が消えていた・・・か


アラン:

ええ・・・そういう毒物が使われていたのではないでしょうか?


ウォルター:

そういう事か・・・


アラン:

勿論、これは僕の仮設に過ぎないのですが・・・


ウォルター:

うーん・・・


アラン:

テイラーさんはどう思います?


テイラー:

え? 私ですか・・・

私はこれまで、記者として「サイレント・パッセージ」には関わらないようにしていましたし、

私の分野は、政治経済なので、殺人とかそういう事は、正直よくわかりません。


アラン:

そうですか・・・


テイラー:

すみません、お役に立てずに。


アラン:

・・・いえ、すみません、僕も変な事を聞いてしまって・・・


ウォルター:

ところでアラン

サイレント・パッセージがルーカスを拷問してまで聞き出そうとした「何か」だが

奴らはそれを手に入れたと思うか?


アラン:

正確な事は分かりません。

ですが・・・毒殺されたのであれば、彼らがそれを手に入れたと考える方が妥当かと。


ウォルター:

やはり、そうだろうな・・・


アラン:

ええ、残念ながら


ウォルター:

だとすると、もうこれ以上、奴らへの手がかりも期待できないという事か・・・


アラン:

そういう事になりますね。


アラン:(モノローグ)

この後、僕達は程なくして病院を後にした。

ルークを殺されてしまった事は悔しいが、これから先、僕達に出来る事は何もないだろう。

この件はもうこれで終わりだと思い、僕は病院の入り口で二人と別れ、

なんともやるせない気持ちで事務所へと向かった。


(場転)


ウォルター:(モノローグ)

俺はアラン達と別れてから、警視庁に戻って今回の事件の報告書を書く事にした。

詳しい事は、司法解剖の詳細結果が出てからになるだろうが、

ルーカス・クラークの死は、おそらく毒殺であり、犯人はサイレント・パッセージなのだろう、

だが、証拠がない。

アランの予想通りだとすれば、これ以上の情報は得られそうにない・・・・

まったく、頭が痛いよ


(場転 事務所の近く)


アラン:(モノローグ)

帰り道、僕は事務所まではあと数分という場所の交差点で信号待ちをしていた。

信号が青に変わり、他の歩行者と一緒に交差点を渡りかけたその時、

対向車線から一台の黒いバイクが猛スピードで横断歩道に突っ込んで来た。

僕は反射的に身をひるがえして、倒れ込むようにバイクをよけたが、

その時、小さな少女もバイクに驚き、転倒してしまった。

次の瞬間、通り過ぎたはずのバイクはタイヤをきしませながら、その場で180度向きを変え、

再び猛スピードで僕達に近づいて来る。

僕はとっさに少女を抱きかかえ、歩道に転がり込んで信号の陰に隠れた。

バイクは猛スピードのまま僕達の横を通り過ぎ、角を曲がって何処かへ走り去っていった。

バイクが去った後には、タイヤの跡と焦げた匂い、散らばった荷物と踏みつぶされた紙袋

そして、少女の泣き声が混ざったざわめきが残された。



(場転)


テイラー:(モノローグ)

私が病院から会社に向けて車を走らせている時、ポケットの中の携帯電話がなった・・・

私はハンズフリー機能をONにして電話にでた。


テイラー:

テイラー・ヘイズです。


アラン:

僕です、アランです。


テイラー:

あぁ、アラン、今日はお世話になりました。

また改めてルークの事についてお礼に伺います。

ところで、今回は何の御用ですか、私は今運転中なのですが、一旦車を停めた方がいいですか?


アラン:

いえ、そのままでいいので、聞いて下さい。


テイラー:

はい


アラン:

僕は先程、黒いバイクに襲(おそ)われました。

ひょっとしたら「サイレント・パッセージ」の仕業なのかもしれません。


テイラー:

それは本当ですか?


アラン:

ええ、多分・・・、

それでテイラーさんは大丈夫かと思って電話をしたんです。


テイラー:

そうですか・・・私は病院からずっと車を運転していたので、今のところ何にもありませんが・・・


アラン:

・・・・今後何かあるかもしれませんので、気を付けてください。


テイラー:

わかりました。


テイラー:(モノローグ)

そう言った後、私はバックミラーを見た。


テイラー:

あれ?


アラン:

どうしました?


テイラー:

あのオートバイ・・・さっきも・・・


アラン:

何かあったのですか?


テイラー:

いえ、少し前に見たオートバイが今も後ろにいるんです。

バックミラーで見えたり、見えなかったりして・・・


アラン:

そうですか・・・

テイラーさん、なるべく人の多い所に車を停めて、そのバイクをやり過ごして下さい。

それで、暫く動かないで様子を見てから車を走らせてください。

それでも後を付けられているような事があったら、決して車を降りないで、そのまま警察に行ってください。


テイラー:

はい、分かりました。

何かあったらまた連絡します。


アラン:(モノローグ)

そう言ってテイラーは電話を切った。

事務所に戻った後、デスクの椅子に座り僕は考える。

あの交差点の襲撃(しゅうげき)は、状況的に見て、僕を狙ったものと考えて間違いない。

まぁ、こんな仕事をしていると、誰かに命を狙われても不思議ではないのだが、、

今回は、流石にタイミング的に「サイレント・パッセージ」と考えるべきだろう。

でも何故、彼らが・・・

ひょっとして、ルークを拷問しても何も聞き出せなかったのか、

あるいは、何かを聞き出せはしたが、それをまだ回収できていないか・・・

いずれにしても、まだこの案件は終わっていないという事だろうな・・・


アラン:(モノローグ)

僕はこれまでの状況を頭の中で整理し、ウォルター・ライルに電話をかけた。



ウォルター:

はい、ウォルター・ライルだ


アラン:

僕です。


ウォルター:

あぁ、アラン。 どうしたんだ?


アラン:

ちょっと早急にお伝えしておきたい事があって


ウォルター:

何だよその早急な事って。


アラン:

「サイレント・パッセージ」の件、まだ終わっていなかもしれませんよ。


ウォルター:

なんだって


アラン:(モノローグ)

僕は先程起きた襲撃(しゅうげき)事件をウォルターに説明した。


ウォルター:

そうだったのか・・・

で、アランはどう思う?


アラン:

その事なんですが・・・・


ウォルター:(モノローグ)

アランは一通りの思惑を俺に話して電話を切った。


(場転)


アラン:(モノローグ)

次の日の朝

僕はいつものように事務所へ向かう

ビルの一階で鍵の新しくなった郵便受けから、いつもの新聞と郵便物を取り出す。

そして、ビルの階段を上がろうとした時、背中から僕を呼ぶ声がした。


テイラー:

おはようございます、アラン


アラン:

テイラーさん・・・おはようございます。

どうされたんですか、こんな朝から


テイラー:

ルークの事で改めてお礼を言おうと思いまして・・・

それに、昨日も助けて頂いたので、そのお礼も兼ねて、


アラン:

そういえば、昨日はあれからどうでしたか?


テイラー:

ええ、アランに教えてもらった通りにしたら、大丈夫でした。

ありがとうございました。


アラン:

いえ、何もなくて良かったです。

ここでは何ですから事務所へどうぞ、紅茶を入れますよ。


テイラー:

はい


アラン:(モノローグ)

そして、僕はテイラーを連れて事務所へ続く階段を上がった


(場転)


(紅茶を出すアラン)


アラン:

どうぞ


テイラー:

有難うございます。


アラン:

ミルクと砂糖はどうしますか?


テイラー:

じゃぁ、折角ですから両方ください。


アラン:

分かりました。


アラン:(モノローグ)

僕はミルクと砂糖をローテーブルの上に置いた。

僕も自分の紅茶にミルクを入れてデスクに運ぶ


アラン:

すみませんが、ちょっとそこで待っててください。

今、郵便物を仕分けちゃいますので


テイラー:

はい、どうぞごゆっくり


アラン:(モノローグ)

僕はデスクの椅子に座り、入り口で取って来た郵便物を仕分ける。

不動産の広告、株式投資の宣伝・・・いつもの広告ばかりだ

だがその中に、広告とは明らかに違う封筒があった。

幾つかのタグが付けられた白い封筒、


アラン:

これは・・・


アラン:(モノローグ)

僕はその手紙を見て思わず声を漏(もら)らす。


テイラー:

どうしました?


アラン:(モノローグ)

僕がそんな反応をしたのは、手紙の差出人がルーカス・クラークだったからだ。

まさか、5日以上前に死んだ人間から手紙が届くなんて・・・

その手紙を見ながら僕は考える。

ひょっとして、サイレント・パッセージが回収できていない「何か」とは、

この手紙の事なのだろうか・・・

だとすると・・・


テイラー:

アラン、どうしたんですか、さっきから

その手紙がどうかしたのですか?


アラン:

え、ええ・・・

実は、この手紙の差出人はルークなんです。


テイラー:

なんですって

で、何が書かれているのですか?


アラン:

まだ中を見ていないので分かりません。


テイラー:

早く中を見てみましょう。


アラン:

まぁ、待って下さい。

とりあえず、ロンドン警視庁のウォルターさんを呼びましょう。

殺人事件に関わる手がかりになるかもしれませんから


テイラー:

・・・そうですね・・・


アラン:(モノローグ)

僕はウォルター・ライルに電話を掛け、事の次第を説明した。


アラン:

ウォルターさんは直ぐに来てくれるそうですよ。


テイラー:

そうですか。


アラン:

では、手紙を見てみましょうか


テイラー:

ええ


アラン:(モノローグ)

僕はペーパーナイフを使用して慎重に封筒を開けた。

中からは二つ折りにされた一枚の紙が出て来た。


テイラー:

何が書かれているのですか?


アラン:(モノローグ)

紙を開いてみると、中には『East(イースト)』という文字と8という数字だけが書かれていた。


アラン:

イースト、エイト・・・


テイラー:

・・・


アラン:(モノローグ)

僕とテイラーは暫くその紙を見つめていた


(間)


テイラー:

どういう意味なのでしょうか?


アラン:(モノローグ)

テイラーは暫く考えた後、痺(しび)れを切らしたように口を開いた。


アラン:

テイラーさんは、この言葉に何か聞き覚えはありませんか?


テイラー:

「イースト」と「エイト」ですよね・・・私はその言葉は記憶にないですね。。

東と8・・・一体何を意味しているのでしょうか・・・イーストエンドと響きが似ているから、

イーストエンドの何かと関係があるのでしょうか・・・


アラン:

どうでしょうか・・・


テイラー:

アランは何か思い当たるものは無いのですか?


アラン:

・・・


(コンコンコン)


アラン:(モノローグ)

その時、事務所の扉を叩く音がした。


アラン:

どうぞ、開いてますよ。


(扉が開いて、ウォルターが入って来る)


ウォルター:

待たせてしまってすまんな、アラン


アラン:

いえ、今テイラーさんとルークの手紙を見ていた所です。


ウォルター:

で、手紙には何と書いてあったんだ?


アラン:

これです。


アラン:(モノローグ)

僕はウォルター・ライルに手紙を渡した。


(手紙を読むウォルター)


ウォルター:

イースト・・・エイト・・


テイラー:

何かの暗号のようなのですが、何が書いてあるのかがわからなくて・・・


ウォルター:

確かに、これだけでは、俺にも何とも・・・

アランも、流石にこれだけでは分からないのか?


アラン:

いえ、僕には分かりましたよ、彼のメッセージが何を示(しめ)しているのかが。


テイラー:

そんな・・・じゃぁどうして、さっき教えてくれなかったんですか、


アラン:

謎解きはウォルターさんが来てからの方がいいと思いましたから


テイラー:

・・・・


ウォルター:

それじゃアラン、この暗号が何を意味しているのか説明してくれないか


アラン:

ええ、

でも、ちょっとその前に・・・


アラン:(モノローグ)

僕は事務所の入り口まで行き、扉に鍵を掛けた。


ウォルター:

どうしたんだアラン、鍵なんてかけて


アラン:

これから話す事は、お二人以外には聞かせたくないですからね、

念のために鍵を掛けさせていただきました。


ウォルター:

そうか・・・

それで、この手紙は何を意味しているんだ?


アラン:(モノローグ)

僕はデスクの椅子に座り直し、一呼吸入れた後に話し始める。


アラン:

この手紙は、僕の予想が正しければ、おそらく2つの事を同時に僕に教えてくれている筈(はず)です。


テイラー:

2つ・・・ですか?


アラン:

ええ


ウォルター:

それは「イースト」と「エイト」がそれぞれ違うメッセージだという事なのか?


アラン:

いえ、それはイーストとエイトで一つのメッセージになっています。


テイラー:

では、あと一つは何処に書いてあるんですか?


アラン:

まぁ、その前に、

お二人は、5日以上前に殺されたルーカス・クラークから、どうして今頃、僕の所に手紙が届いたと思いますか?


ウォルター:

確かに・・・

手紙はポストに投函(とうかん)してから、大体1日程度で送り先に届くよな・・・

なのに何故5日も・・・


テイラー:

そうです、私もそれが不思議でした・・・


アラン:

実は、彼は転送サービスを利用したんですよ。


テイラー:

転送サービス・・・ですか?


アラン:

ええ、引っ越しなどで住所が変わった場合に、そこに届いた郵便物を引っ越し先に転送してくれるサービスです。

地元の郵便局に住所を登録しておけば、別に引っ越しをしなくても転送サービスは利用できるんですよ。


ウォルター:

確かに転送サービスを使えば、少しは遅延(ちえん)させられるかも知れん、

だが、転送サービスを使ったとしても、遅延させられるのは、せいぜい2、3日程度だと思うが・・・


アラン:

そこがルークの優秀なところなんです。

彼は転送サービスを2回利用したんですよ、しかもなるべく遠い町を使って・・・


ウォルター:

2回も・・・


アラン:

ええ、手紙に書かれた住所と転送タグを見ると、ルークは最初イーストエンドの隣町の

ハックニーに充てて、この手紙を出しています。

そして、そのハックニーから、50マイル(約80㎞)以上離れた、ケンブリッジに向けて、

1度目の転送がされ、そのケンブリッジから、この事務所に向けて、2度目の転送がされています。

この50マイル離れたケンブリッジを経由させる2度の転送が、5日の遅延を実現させたんですよ。

ルークはケンブリッジの大学を出ていますから、向こうに転送の手続きをしてくれる友人でもいたのでしょうね。


ウォルター:

それで5日間も手紙を遅延させられたのか・・・

でも、どうしてそこまでして、わざわざ遅延させる必要があったんだ?


アラン:

彼が手紙をだしたら、「サイレント・パッセージ」に知られると思ったからでしょう。

案の定、ルークの予想通り、4日前にこのビルの郵便受けの鍵が壊される事件が起きています。

もしルークが配送を5日遅延させていなければ、この手紙は彼らに奪(うば)われていたでしょうね。


ウォルター:

なるほど・・・

じゃぁ「サイレント・パッセージ」はルークがどこかに手紙を出した事を知って、

どこに手紙を出したのかを聞き出そうとして、彼を拷問したのか


アラン:

そうでしょうね、

そして僕の所に手紙を出した事を知って、事務所の郵便受けを荒らした、

だが、ルークが出した筈(はず)の手紙は回収できなかった。


ウォルター:

それは分かった。

だが、どうしてルークは、自分が手紙を出した事が知られると思ったんだろう


アラン:

その理由は、この手紙に書いてあるんですよ。


ウォルター:

その「イースト」と「エイト」というのが、その理由なのか?


アラン:

いえ、これはまた別の事を示しています。


ウォルター:

別の事?


アラン:

この暗号は「サイレント・パッセージ」のアジトの場所を示しているんです。


ウォルター:

それは本当なのか?


アラン:

ええ


ウォルター:

どうしてそんな事がわかるんだ?


アラン:

実はルークが転送サービスを使ったのには、配送の遅延だけではない、もう一つの理由があったんです。


ウォルター:

もう一つの理由? なんだよそれは


アラン:

それは、住所に注目をさせる事ですよ。

僕に住所を教える為にね。


ウォルター:

住所だと?


アラン:

この手紙は3つの住所が関わっています。

一つは、ハックニー、もう一つは、ケンブリッジ、

そして、最後はイーストエンドのこの事務所。


ウォルター:

・・・


アラン:

ルークが殺された場所を考えれば、注目すべきはイーストエンドかハックニーに絞られます。

ですが、イーストエンドは、この事務所の事なので、残る住所は・・・


ウォルター:

ハックニーか


アラン:

ええ、手紙に書かれた最初の宛先、そこがルークが僕に伝えたかった場所。

そして、一緒に送られて来たこの「イースト」、「エイト」という暗号。

これを組み合わせると、ルークが僕に伝えたかった本当の住所が分かる仕組みになっているんです。


ウォルター:

そうなのか、で、それはどこなんだ


アラン:

それは、ハックニーの転送住所、スレイト・ワーフ25番地から、東に8ブロック移動した場所。

そこに「サイレント・パッセージ」のアジトがある筈(はず)です。


ウォルター:

なるほど・・・


アラン:

もし、彼らが、手紙の中身までは聞き出せていなかったとしたら

今そこに踏み込めば、おそらく・・・


ウォルター:

そうか! 分かった


アラン:(モノローグ)

そういって、ウォルター・ライルは携帯電話で警視庁に連絡をいれた。


(電話を切るウォルター)


ウォルター:

今、ハックニーの住所に踏み込む手配をさせたよ。

奴らに手紙の中身を知られていなければいいんだが・・・


アラン:

それは大丈夫だと思いますよ。

彼らはまず間違いなく、手紙の中身を知りません。


ウォルター:

それは本当か、どうしてそんな事が分かるんだ?


アラン:

もし彼らが、手紙の中身がアジトを示すものだと知っていたら、

アジトの場所を変えればいいだけなのですから、わざわざ手紙の回収なんて、しようとはしませんよ。


ウォルター:

それは、確かに・・・

じゃぁ、奴らは一体、手紙には何が書かれていたと思っていたんだろうか・・・


アラン:

それは、さっき僕が言った、ルークが手紙を遅延させた理由と同じものなんです。


ウォルター:

それがその手紙に書いてあると?


アラン:

ええ


ウォルター:

俺には、住所の暗号以外には何も書かれていないように見えるが・・・


アラン:

いいえ、ちゃんと書かれていますよ。


ウォルター:

どこに書かれているんだ・・・


アラン:

この「イースト、エイト」という暗号です。


ウォルター:

だからそれはアジトの住所なんだろ?


アラン:

ええ、そうです。


ウォルター:

・・・どういう事なんだ。


アラン:

この手紙が重要なのは、それが暗号で書かれているという事なんです。

ただ「住所を僕に教える」だけなら、わざわざ暗号にする必要なんてないんですよ。

転送サービスを2回も使って遅延させてまで、僕の所に確実に手紙を届けたのですから。


ウォルター:

じゃぁ、暗号にしたのはどういう理由だというんだ。


アラン:

それはですね、ルークは、こう予測したんですよ。

手紙を遅延させても『この手紙は、僕と一緒に「サイレント・パッセージ」の人間にも見られるだろう』とね、

だから手紙の中身を暗号にしたんですよ。

そして実際、ルークの予測通り、僕と一緒に手紙を見た人物がいた・・・

そうですよね、テイラーさん。



ウォルター:(モノローグ)

いつの間にか扉の近くにいたテイラーの背中に向けて、アランが声をかける

とっさに扉を開けて逃げ出そうとするテイラー

だが、扉には鍵が掛かっていて開けられない。


アラン:

扉の鍵はさっき閉めたじゃないですか。

その鍵は、僕じゃなきゃ開けられませんよ。


テイラー:

クッ・・・


アラン:

テイラーさん、あなたが郵便受けを壊した時、ルークの手紙はなかった。

だから、それからおそらく毎日、あの場所を見張っていたんですよね?

それで今日、僕が手紙らしき物を取り出したのを見て、声をかけた・・・

違いますか?


テイラー:

・・・


アラン:

ルークはそこまで予測していたんですよ。


ウォルター:

そういう事だったのか・・・


アラン:

ルークが手紙を遅延させたのも、暗号にしたのも、全ては、自分の上司であるテイラー・ヘイズが

「サイレント・パッセージ」の人間だと気づいていたから。

だからルークは、自分が監視されているであろうと予測して行動したんですよ。


ウォルター:

それならわざわざ手紙なんて使わずに、電話かメールで直接アランに伝えれば良かったんじゃないのか?


アラン:

「サイレント・パッセージ」は、毒物を売るだけではなく、ネットの中で巧妙に自分達の足取りを隠(かく)す

優秀なサイバー集団でもあるんですよ。

携帯電話やメールなどの通信を利用したものは、全て監視されているとルークは判断したのでしょう。

アジトの場所が知られたと感づかれてしまえば、それでもう終わりですから。


ウォルター:

確かにそうだな・・・


アラン:

・・・でも、手紙ではなく、僕の所に直接来てくれていれば・・・

彼を守ってあげられたのですが・・・


ウォルター:

・・・・

だがそれは・・・それだとアランにも危険が及ぶと、彼は考えたんじゃないのか?


アラン:

おそらく、そうなんでしょうね。

僕はただの探偵ですから・・・


ウォルター:

・・・・


ウォルター:(モノローグ)

その時、俺の携帯電話が鳴った。

電話の内容は、ロンドン警視庁が「サイレント・パッセージ」のアジトに踏み込み

パソコンなどの機材と6人の身柄を確保したというものだった。


ウォルター:

アラン、

アランが言った通りの場所に、奴らのアジトがあったみたいだ。

今、6人逮捕したってさ。


アラン:

そうですか、それはよかったですね。


ウォルター:

あとは・・・

さて、テイラー・ヘイズ、署までご同行願おうか。


テイラー:

ちょっと待って下さい。

どうして私が逮捕されなきゃいけないんですか?


ウォルター:

それは、あなたが「サイレント・パッセージ」の人間だからですよ。


テイラー:

私は違いますよ。

どこにそんな証拠があるんですか?

ルークの手紙だって、私が「サイレント・パッセージ」の人間だという証拠にはならないでしょ


ウォルター:

まぁ確かに、あの手紙では証拠にはならないが・・・


テイラー:

ほら、そうでしょ。


アラン:

テイラーさん、

あなたは僕と一緒にルークの手紙を確認した後、僕を殺すか、気絶させて連れ去る算段だったでしょ?

だから、今も持っていますよね? そういう道具を


テイラー:

・・・私が持っているのは、単なる防犯グッズですよ。

それを持ってちゃいけないんですか?


ウォルター:

・・・・


テイラー:

ほら、証拠なんてないじゃないですか。


アラン:

証拠ならまだありますよ。


テイラー:

え?

そんな・・・そんな訳ないでしょ、そんな証拠がどこにあるんですか

あるなら出してみて下さいよ。


アラン:

それは、あなたの携帯電話ですよ。


テイラー:

電話・・・


アラン:

僕は昨日、不審なバイクに襲われました。

状況やタイミングを考えれば、その指示を出したのはあなたで、

指示をした時間は、昨日、ルークの部屋を出る時じゃないんですか?

その時の通話履歴を調べれば、先ほど逮捕された6人のうちの誰かの電話に繋がると思いますよ。

仮に6人の誰かでなかったとしても、「会社に電話をかける」と言ったあなたが、

一体どこに電話をかけたのか、知りたいものですね。


テイラー:

・・・


ウォルター:(モノローグ)

テイラー・ヘイズは、その場で項垂(うなだ)れた。


テイラー:

いつから気が付いていたんですか・・・


アラン:

あなたが怪しいと思ったのは、ルークの死体が、工場の真ん中で発見されたと聞いた時です。


テイラー:

そんな・・・でも、どうしてそれで・・・


アラン:

あなた達が、ルークの死体を工場の真ん中に遺棄(いき)したのは、

ルークが「サイレント・パッセージ」ではなく、別の事件に巻き込まれた可能性を演出したかったからでしょう。

もしそうであるなら、ルークが「サイレント・パッセージ」を取材していると知っている

あなたの存在が邪魔になる筈(はず)です。

でも、あなたは何も被害を受けていないようでした。

つまりあれは、あなたがルークの取材先を言わない事が前提の演出だったと考えられるんです。


テイラー:

クッ・・ルークが・・・ルークが私の言う事さえ聞いてくれていれば・・・

あんな手紙さえ出さなければ・・・

こんな探偵事務所になんて来なくてもよかったのに・・・


アラン:

・・・


ウォルター:

では、話は署で伺いましょうか。


アラン:(モノローグ)

そして、テイラー・ヘイズはロンドン警視庁へと、連行されて行った。


(間)


アラン:(モノローグ)

二人が去り、一人事務所に残った僕は考える。

もし、どうであれば、ルークは死なずに済んだのだろうか、

僕とルークの関係がどのようなものであれば、結果が変えられたのだろうか・・・と

まったく答えの出ない問いを、何度も自分の中で繰り返していた


(次の日の朝)


アラン:(モノローグ)

その次の日の朝、僕が事務所に着き、いつものようにミルクティーを淹(い)れていたところへ

ウォルター・ライルから電話がかかって来た。


アラン:

はい、アランです。


ウォルター:

あぁアランか、俺だ、ウォルターだ。


アラン:

ウォルターさん、どうしたんですか、こんな朝から。


ウォルター:

実はなアラン、

テイラー・ヘイズが死亡したんだよ。


アラン:

死亡した・・・って、どういう事ですか?

まさか、自殺したんですか?


ウォルター:

いや、それが分からないんだ。


アラン:

分からないって、どういう事ですか?


ウォルター:

死因は心臓発作(しんぞうほっさ)という事なんだが、

奴らのアジトで逮捕した6人も、全員同じ状態で死んでるんだよ。


アラン:

全員・・・


ウォルター:

あぁ、

留置(りゅうち)施設では、全員別々の部屋に入れていたんだが、

今朝、全員が同じ状態で死亡していたらしい。


アラン:

そうですか・・・


ウォルター:

おそらく、毒を使ったであろうとは思っているんだが、それを自分達で飲んだのか

それとも、誰かに飲まされたのか不明なんだ。


アラン:

なるほど・・・

もし、誰かに飲まされたとなると


ウォルター:

あぁ、「サイレント・パッセージ」という組織は、まだ無くなってはいないという事になるな。

そして、警察内部にも奴らの協力者がいる可能性がある・・・


アラン:

ええ・・・そう言う事になりますね・・・


ウォルター:

とにかく今はまだ調査中だ、詳しい事が分かったら、また連絡するよ。


アラン:(モノローグ)

ウォルター・ライルとの電話終えた僕は、デスクの椅子に座り考える。

毒を使った殺し・・・

それを考える時、僕の記憶の中で、一つの名前が浮かび上がる。

フィンリーの歴史よりも古い時代、イタリアで毒を得意とした殺し屋の一族がいた。

ボルジャの没落とともに、歴史から消えたはずの一族・・・

そして、その一族を有名にした、その毒・・・


アラン:

カンタレラ・・・いや、まさかな・・・


アラン:(モノローグ)

僕はおもむろにミルクティーを口にした。

僕の頭の中で、ルークとの記憶と、それをかき消すかのように浮かび上がる

サイレント・パッセージという言葉、

ルークの死と、彼が最後に僕に託そうとした想い、

そして、それを叶(かな)えてやれなかった悔(くや)しさ・・・

それらが渦を巻いてリフレインする。


(少しの間)


アラン:(モノローグ)

それから、僕はもう少し紅茶を口にする。

いつもの飲みなれたはずのミルクティーが、今朝はやけに渋く感じられた。



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アラン・フィンリー探偵事務所 死者の暗号(不問×不問×男) Danzig @Danzig999

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