おひなさまクエスト。A級冒険者たちのひなまつり!今回のミッションは伝説のおひなさまの生け捕り⁈

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

お雛様を求めて

 オアシス連邦共和国辺境の山岳地帯。


 度の強いメガネをかけたチビでガニまたで若干小太りの青年が、岩山を見上げていた。


 彼はA級冒険者パーティー、QPs(キューピーズ)のリーダー、ヨーイドンだ。


 ヨーイドンは冒険者と言うには異様な服装だった。上はタンクトップというよりも白いランニングシャツだ。下は青い縦縞のデカパン一丁。足元は温泉旅館にあるような木のサンダルだ。まるで寝起きそのままトイレにでもいくようだ。いくら暑い砂漠の国の真っ昼間といっても、その格好で外出や冒険するなんて無分別にもほどがあろう。


 さらに異様なのはその格好の上になぜか白く厚手のゴージャスな毛皮のマントを羽織り、そして何よりも異様なのは整えられずボサボサ髪の大きな頭の上には、不釣り合いな小さな王冠が斜めにちょこんと乗っかり、ずり落ちるのをかろうじて踏みとどまっていた。


 その青年が仲間を振り返って言った。


「みんな、いよいよひな祭りばってん、油断せんと気ぃ引き締めて行くばい!」

 

わらわが油断なぞするものかえ、オイドン」


 青年の傍に立つ紫ラメの着物を露出マシマシのバニーガール風に魔改造した衣裳に網タイツとハイヒールの、過剰な色気を振りまく妖艶な美女が答えた。


「コマネチ姐さん、何度もゆうちょるが、おいはオイドンじゃなか! ヨーイドンたい!」


「妾もコマネチにあらず。コマチ・ネネなのじゃが」


「申し訳なかと。ばってんまぎらわしかよ」


「お互いにのう。妾のことも許してたもれ」


「おい、その辺にしとけ。不穏な足音が聞こえる」


 緑色の鱗に覆われたリザードマンらしき者が声をかけた。爬虫類に似つかわしくないコアラのような大きな耳に手を当てて遠くの微かな音を聞き取っている。黄色地に黒いラインが入ったジャージ上下に、白い大文字のDが入った青い野球帽をかぶっている。


「モッコ、お雛様ひなさまが来たと?」


「違うな。こいつぁコカトリスのむれの足音だ」


「ザコがお雛様に追われて逃げてきよったと!」


「お雛様を見るまえに下賤な魔物を片付けなければならぬとは、ちと面倒じゃの」


「お雛様まえの準備運動にゃ丁度いいだろう」


 モッコと呼ばれたリザードマンはおもむろに黄色いジャージの上下を脱ぎ始める。


「なんばしよっと! 女子おなごの前で恥ずかしかとよ!」


「下がパンイチの奴に言われたかねえ! 戦うとき、ジャージが破れたらもったいなかろうが!」


「妾はかまわぬぞ。まだ毛もないお子ちゃまドラゴニュートのハダカなぞ、いとかわゆし」


「うるせえ! ガキ扱いするんじゃねえ! 俺だって次に脱皮したらヒゲもタテガミももっさり生えた成竜人になれるんだよ!」


「ほほう。脱皮とな。毛を生やす前に一皮かなければならんのかえ?」


「だったらさっさと皮をば剥けばよかと。毛ぇも生えとらんで皮かぶりだと恥ずかしかとよ」


「ほんにのう。手伝うて剥いてしんぜようか?」


「コマネチもオイドンもお下劣だ!」


ドドドドドドドドドドドド!

クキェーッ! コキェーッ!


「つまらん言い合いしておる間にザコどもが来おったぞよ」


 地響と不気味な悲鳴を上げながら体高2mを超えるコカトリスの群がこちらに向かって山を駆け降りてきた。


「おーおーようけ来たとね。30羽くらいおるとよ。ほんならみんな行くばい!」


「「おお!」」


「フライドチキンにしたるど! 必殺、カーネル・サンダー⚡️ 」


ガーン💥


 ドワーフのヨーイドン青年が頭上で二つの金槌をぶつけ合うと強力な雷が発生した❗️


⚡️バリバリバリバリバババン⚡️

ギョギェーーーーバシュッ💥


 その大出力の雷撃がコカトリスの群れを襲い、その身がぜた。


「ありゃ、フライドチキンがナゲットになってしもうたとよ。半分くらい撃ちもらしたばい。コマネチ姐さん残り頼んでよかと?」


「やんぬるかな。魔糸ましがマシマシ、いとあはれ!」


 アラクネの美熟女コマチ・ネネがコカトリスを睨み据え両袖を交互に振るう。


キョ? 

 キョエ?

  キェ?

   ギョギ?

    ギョ?


 10羽ほどのコカトリスが見えない魔糸の刃に襲われて、何が起こってるかわからないまま、頭から脚まで輪切りでバラバラにされて崩れ落ちた。


「姐さんの魔糸の斬れ味相変わらずえげつなかと」


「だるま落としみたいだな」


「5羽ほどそっちに行ったぞよ、皮かむり」


「おい年増! 俺はこう見えても竜人国の王子、モッコ・ド=アラゴンさま、だぞ!」


「おいもドワーフ王国のヨーイドン・フトカ・マウントバッテン王子たい」


「妾もアラクネ族の女王コマチ・ネネ・ネイサンであるぞ、かべちょろ」


「俺をヤモリ扱いすんじゃねえ! クソッタレ! みんな王族なんだよな、このパーティーじゃマウントとれやしない。ちくしょおおおおおおおお!」


 未成年ドラゴニュートのモッコが叫ぶとその体は、ミシミシと音を立てて巨大化していく。巨大化しながらコカトリスに背を向けてまわるその瞬間、


「Tレックステイル!」


ブンっ!

キョエブッ!💥


 巨大な尻尾が横殴りにコカトリスを3羽まとめて薙ぎ払う。巨大化したドラゴニュートの姿は今は肉食恐竜ティラノサウルスのそれだ。吹き飛ばされたコカトリスたちは大型ダンプに衝突された軽自動車のように原形をとどめないほどぐちゃぐちゃだ。


ギョギェ ギィギェ


 生き残った2羽のコカトリスは仲間のあまりの惨状にQPsの3人を前にすくんで動けなくなる。


「ちっ。2羽仕留めそこねた」


「コカトリスよ、無闇に突っ込まぬのは褒めてつかわすが」


「うしろと上がすっかりお留守ばい」


コケ?

コケ?


ゴアアアアアアアアアアア❗️


グチャグチャッ💥


 山をも震わす雄叫びとともによ巨大な雛鳥の足が2羽のコカトリスを真上から踏み潰した。伝説の巨大なトリの降臨だ。


 姿形は可愛らしくとも、3階建ての建物ほどもありそうなほど圧倒的に巨大な雛鳥は虫かエサでも見るような目で3人を見下ろしている。


「おおお、やっと会えたばいお雛様! おいはこの日を首をバリ長うして待っとったとよ」


「ようやっと雛祭りが始まるよし。いとうれし」


「こうして実物をみると、まだお雛様とはいえ想像以上にデケエな。ティラノサウルスになった俺を見下ろしてやがる。体高10mはあるぜ」


「成鳥は40m超えるばい」


「あなこわや」


 QPsの三人は、この世界で唯一『お雛様』と呼ばれる伝説の雛鳥、超巨大な怪鳥ロック鳥の雛を見上げていた。


「今回のミッションはこのお雛様を生け捕りしてテイムすることだったよな」


しかり。ロック鳥をテイムできたなら、めでたきことかぎりなく」


「おいたちは世界中のどこでも、天空竜が住まう城にもひとっ飛びでいけるばい!」


「「「お雛様! いざ、勝負!」」」


ゴアアアアアアアアアアア❗


 今、冒険者たちが生命をかける、真の雛祭りのゴングが鳴る!




『おひなさまクエスト2。ドラゴンへの凸凹道』につづく

https://kakuyomu.jp/works/16818622170588084559/episodes/16818622170588694425






おまけ


ヨーイドンのイラストはコチラ

https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16818622170455557686


モッコのイラストはコチラ

https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16818622170518015585


コマチ・ネネのイラストはコチラ

https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16818622170664038837

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