【KAC20251】オイシゲ森のひな祭り

　今日はみんなが待ちに待ったひな祭りです。

　といっても、人間の女の子のひな祭りではありません。鳥のひなのお祭りなのです。

　このオイシゲ森では、一年に一度鳥のひなのためのお祭りがあり、その日はひなたちはごちそうがたらふく食べられて、親鳥たちがいっしょうけんめい練習したきれいな歌が聞け、ゆかいなダンスが見られるのでした。

　ヤマガラのひなのピイ六は、このお祭りをだれよりも楽しみにしていました。

　ピイ六は六羽のきょうだいのなかでいちばん体が小さく、声もよわよわしく、いつもお母さんとお父さんから十分なごはんをもらえなくて、おなかをすかせていたからです。

　夜が明けると、あちこちの巣からいろいろな鳥たちが飛びたちました。もちろん、そのなかにはピイ六のお母さんとお父さんもいます。

　お母さんとお父さんは、いつものごはんよりもごうかな、丸々と太ったイモムシやクモなどを運んできては、また飛びたっていきます。

　でも今日も、お母さんとお父さんは、きょうだいたちにばかりごはんをあげるのです。

「お母さん、お父さん、ぼくにもごはんをちょうだい！　今日はお祭りなんだよ、とくべつな日なんだよ！」

　ピイ六がせいいっぱい大きな声でうったえると、お母さんもお父さんもうっとうしそうにピイ六をにらんでから飛びたちました。

　さきに帰ってきたお母さんは、イモムシを六ぴきくわえていました。五ひきはやっぱり丸々と太っていましたが、一ぴきはおなかの足しにならないくらいやせっぽちです。ピイ六はもう悲しくなってきました。

　あんのじょう、お母さんは太ったイモムシはきょうだいたちにあげてしまい、ピイ六にはやせっぽちのイモムシしかくれませんでした。

　やがて、お日さまが山にかくれはじめました。きょうだいたちはみんな満足そうに目を細めていますが、けっきょくあのイモムシしかもらえなかったピイ六は、おなかがぺこぺこです。

　どの鳥のひなたちもおなかがいっぱいになったらしく、親鳥たちの歌とダンスが始まりました。でも、ピイ六のおなかはきれいな歌とゆかいなダンスでも満たされません。心はもっと満たされません。

　お母さんもお父さんも、ぼくのことが好きじゃないんだ。ぼくのおなかがぺこぺこでもへいきだし、ぼくなんか死んじゃってもいいって思ってるんだ……。

　ピイ六の目になみだがうかんできたときでした。目の前に、ヤマガラよりもずっと大きな鳥があらわれたのです。頭には白と黒のもようが、羽には白と黒と青のもようがある、尾の長い鳥――カケスでした。

　食べられると思ったピイ六は、声も出せずにこおりついてしまいました。でも、

「こわがらなくていい。わたしはおまえを食べに来たんじゃない。むしろその反対さ」

　カケスはやさしい声で言いました。

「じゃあ、ぼくがおじさんを食べるの？」

　ピイ六が目をぱちくりさせると、カケスはジェージェーと笑いました。

「わたしも食べられるのはいやだなぁ。そうじゃなくて、わたしはおまえにごはんを運んでこようと思ったんだよ」

「えっ？」

　ピイ六がもう一度目をぱちくりさせると、

「まぁ、待っておいで」

　カケスはちょっと胸を張って飛びたっていきました。

　もどってきたカケスは、アオムシを三びきくわえていました。さっきお母さんが運んできたイモムシより、ひとまわり大きなアオムシが三びきです。

　カケスはそれをくちばしと足で細かくちぎってくれました。ピイ六は喜ぶよりもとまどっていましたが、

「さぁ、お食べ」

　カケスにうながされてひとかけ食べてみました。とてもおいしくて、ひとくちまたひとくちと食べてしまいます。

　ぜんぶ食べたときには、ピイ六のおなかはすっかりいっぱいになっていました。ねむけもさしてきましたが、それでもふしぎでふしぎで、

「おじさんは、どうしてぼくにごはんを運んできてくれたの？」

　カケスに聞かずにはいられませんでした。

「それはね、わたしもひなのころ、お母さんとお父さんから十分なごはんをもらえなくて、いつもおなかをすかせていたからだよ。同じ思いをするひなは、一羽でもへってほしいんだ」

「でも、お母さんもお父さんも、ぼくのこと好きじゃないんだよ。ぼく、死んじゃったほうがいいんじゃないかなぁ……」

　ピイ六が思わず心の奥のきもちをもらすと、

「そんなことはない。けっしてそんなことはないよ。残念なことだけれど、お母さんにもお父さんにも愛してもらえないひなはいる。でも、だからって、ひなの鳥生（ちようせい）の意味や値うちが下がったりはしないんだ。幸せになれないわけでもないんだ」

　カケスはとてもまじめな顔で言いました。正直なところ、ピイ六にはむずかしくてよくわからなかったのですが、なぜかうれしくなってこくんとうなずきました。

「これからもごはんを運んでくるよ」

　そんなピイ六の頭をきれいな羽でなでて、カケスは夕焼け空へ飛びさっていきました。

　　　　　　＊＊＊

　カケスのおかげで、ピイ六はきょうだいたちに負けないくらい大きくなり、巣立ちの日をむかえました。

　今日からぼくは自由だ。じぶんでごはんを手に入れられるし、どこにでも行ける。ぼくはぼくの力で、ぼくの鳥生を幸せなものにするんだ。

　ピイ六は力強くはばたいてよく晴れた空へ舞いあがり、まずはお礼を言うためにカケスの巣へ向かったのです。