サッカーボールは友達だ
藤泉都理
サッカーボールは友達だ
「オーナー制度。耕作放棄の田を借りてオーナー田として耕作するもので、オーナー会員はお気に入りの田んぼを選び自分の標柱を建て「マイ田んぼ」(借地権、所有権はなし)にする。耕作作業は年間七回(田起こし、あぜ塗り、田植え、草刈り三回、稲刈り)あるが、義務ではなく都合のいい時に参加していただく。ねえ」
オーナー制度、と調べて表示された数多ある記事の上位のものを適当に選んで読んでは、スマホの電源を落としてポケットに収めた男の名は、
「どうすっかねえ」
がらんどうの駐車場のど真ん中にひとり、大の字になって寝転んでいた栄翔は、薄雲が全体を覆う空を見ながら駐車場の行く末を考えた。
(入りがないのに税金を支払うなんてばかくせえ事この上ないし、芝生は気持ちがいいけど手入れが面倒だし、さっさとうっぱらっちまうか、またじいちゃんがやっていた田畑に戻してオーナー制度っつーのをするか、別の使い道を探すか。例えば、)
ボンボンボンボン。
バイクのエンジンを最大限に吹かしたような音が近づいてきて、栄翔はもうそんな時間かと上半身を起こして胡坐を掻いた。
「っよ! 栄翔のおっちゃん。今日も元気にぐうたらしてるねえ」
「ぐうたらしてる時こそ至高の時間だから邪魔すんなっての」
サッカーボールを手に持った少女の名前は、
「なあなあ、付き合ってくれよ。サッカーの練習」
「先生と友達はどうしたんだ?」
「今日は用事があるって。なあ、いいだろ」
「今日も用事がある。だろ。はあ」
芝生がある広大な駐車場はさぞかしサッカーをするのに最適なのだろう。
嬉々としてサッカーボールを蹴りながら駆け走る永恋を、横寝しながら見つめていた栄翔。いっその事、大々的にサッカーの練習場にして、プロチームなどを呼び込んで、この山村を盛り立てて、がっぽがっぽ儲けようか、などとぼんやり考えては、現実味が薄すぎるとやおら手を振った。
(いくら山村留学で子どもを呼んだって、どうせ根付かないんだしなあ。よくて、別荘地扱い? 時々遊びに来ますわで終わり。根付くやつなんて極々少数だし。はあ。もういっその事、さっさと都市開発して一極集中にして………限界集落一歩手前のやつらは静かに滅んでいけばいいんじゃねえか。無理に維持しようとか考える必要はねえだろ)
たったのひとり。
栄翔は想像した。
年を取って、ダンディな年寄りになって、細々と畑を耕して、足りないものはドローンで配達してもらって、電気土木あらゆる工事をこなす工事用ロボットと医療ロボットを一体ずつ派遣してもらって、遠隔操作で工事も治療も手術もここですべて済ませて、時々迷い込んで来る若いやつらに茶でもご馳走して。
(これなら限界集落でも限界集落一歩手前でも暮らせるっちゃ暮らせる………いや。今はそんな遠い未来より、直近の駐車場をどうすっかって話で。国に渡すのは嫌だし。でも税金も払いたくないし。っつーか何だ固定資産税とか意味分からねえ。買ったもんに生涯税金かけんなよな。ん~~~)
「なあなあ。栄翔のおっちゃん。ボール蹴りしようっってばっ!!!」
「あ~~~。うるせえっ! おっちゃんは今人生について深く考えてんだ一人でやってろっ!!!」
「ケチおじじっ!!!」
「アダッ!!! スライディング頭突きをすなっ!!!」
「ボール蹴りボール蹴りボール蹴りっ!!!」
「頭突きするんじゃありませんっ!!! 攻撃したいならサッカーボールにしなさいっ!!! こっちはおまえを預かっている身なんだからなっ!!! 何か怪我させたら多額の賠償金を支払わないといけないんだからなっ!!! そうなったら首が回らなくなるからねマジでっ!!!」
「嫌だっ!!! サッカーボールは人を攻撃する為のもんじゃないっ!!!」
「うん正論っ!!!」
(2025.2.27)
サッカーボールは友達だ 藤泉都理 @fujitori
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