例えば今・・・

🔨大木 げん

例えば今・・・

「結局、別れた旦那は最悪だったって結論になっちゃうんだよねぇ。……聞いてくれてありがとう美月みづき


「ううん、私にとっては千春ちはるがビンタして家から叩き出したところはスカッとするから、何回聞いてもあきないよ」


 そう言って、私は親友の千春に笑いかけた。


 実際その武勇伝は、何度聞いても面白い。

 

 ……他人事だからっていうのもあるだろうけど。

 

 千春元夫婦の事で、千春からの相談を何度も受けていた時は私も、もう一人の親友のれいちゃんも一緒になって歯ぎしりして自分の事のように悔しがっていたものだ。


 当時はうつっぽかった千春も今では笑い話に出来ているくらいだから、あれ以上辛い思いをせずに離婚して良かったと思う。


「下の子が熱を出しちゃったからって、玲が来れなくなったのは残念だったなぁ」


「そうだねぇ、アラフォーになってもこうしてたまに会えるのは嬉しいけど、私が山口に行っちゃったし、玲ちゃんは子供の事で急に来れなくなっちゃうしで、三人揃うのは珍しくなっちゃったね」


 千春が173cmのめがね美人、私が163cm、玲ちゃんが155cmと女版ズッコケ三人組みたいなトリオは、高校で出会ってから仲良くなって以来、それぞれ別の進路に進んだが、今でも定期的に集まっている。


 因みにみんな体型の維持はなんとかできているので、ぽっちゃりはいない。


「私はもう結婚はこりごりだけど、美月は今いい人いないの?」


「……今はいないねぇ。それに……私はおひとり様が性に合っているから結婚はしないと思うよ」


 千春は結婚生活がうまくいかなかったけど、玲ちゃんは子供も三人いて幸せそうに結婚生活を続けている。結婚してどうなるかは人それぞれだとは思うけど……私には合わないんだろうなと思う。


 なぜなら私にとっては、一人の時間がとても大切だから。


 人付き合いが嫌いというわけでもないけれど、一日中誰かと一緒にいて一人の時間が取れないでいると、なんというかすごく息がつまる感じがしてしまう。


 一人の時間が絶対必要だという私は特殊なのかもしれないけど、実際そうなのだから仕方がない。


 こういう話が出てきた時に、いつも考えてしまうのは東京の大学を卒業してから、一年間同棲していた元カレの葉山君の事だ。


 同じ高校の同級生だった葉山君とは、東京に出てきていた共通の友達の紹介で、大学を卒業する三か月前に四年ぶりに再会した。


 それから何度か葉山君と二人で遊びにいって付き合う事になり、大学を卒業したのを期に一緒に住み始めたのだけど……何かが違うと思った。

 

 彼は仕事にも真面目に取り組んでいたし、私にも優しくて精一杯愛してくれもした。私も彼を愛していたし、毎日楽しい時間を過ごしたのは間違いなかったのだけれど、それでも最終的には私の方から別れを切り出して自分から離れていった。


 自分から別れを切り出しておきながら、ものすごく悲しくなって泣いたりもして、最後に彼に送った手紙の文字は所々涙で滲んでしまった。


 我ながら馬鹿だなと思ったけれど、自分の心に嘘はつけないので今でも仕方がなかったと思っている。 


 その後の人生経験で、モヤッとした感覚の正体は今では明確に『一人の時間の確保』だというのがわかる。


 彼が求めていたのは常に『二人で過ごす時間』だったと思う。家でも外でも何をするにも一緒にいたいという……。束縛して一人で外出するのを許さない様な非常識な行動はとってこなかったから、甘えてきてかわいいと当時は思っていた。


 でも、そういう生活は少しずつ私に息苦しさを感じさせて積み重なっていった……。


 わかった上で誰かと結婚するのならうまくいくのかもしれないが、アラフォーにもなると今度はそんなに都合の良い相手など見つからないのが現実というものだ。


 私にとっての結婚の決め手になるような人で、楽しく過ごせる相手などそうそういないよね。


 結果的におひとり様の方が、私は日々を楽しく過ごせるので全く問題ないと思っている。 



 

 

「……それでさぁ、生徒会長だった田中君は去年結婚したんだってよ。お相手は二十代だから凄い年の差だよねぇ」


 あ、ちょっとぼーっとしちゃってた。


 飲みかけて両手で包んだままだったコーヒーカップに口をつけ、一口飲む。コーヒーはすっかりぬるくなってしまっていたが、香りはまだ十分楽しめた。


 地元に残っているので、千春と玲ちゃんからは高校の同級生の情報がまわってくる。 

  

 同じ高校出身なので、葉山君が私と別れた数年後に東京で結婚しているというのも風の噂に聞いている。

 

 君は幸せでしたか?

 

 私は当時も今もそれなりに幸せです。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

例えば今・・・ 🔨大木 げん @okigen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画