悪役令嬢という記号的な存在に突きつけられた書き手の苦悩から始まる物語。ステレオタイプな悪役として消費されるキャラクター像に違和感を覚えた主人公は、内なる感情と対峙しながらその奥底に眠る人間性を探求しようと試みます。それは単なるキャラクターの深掘りにとどまらず、創作の根源、自己との対話という、より大きなものへと繋がっていきます。
本作の真髄は、創造の核心に迫ろうとする書き手の情熱にあります。表層的な物語の面白さや快感ではなく、自身の内奥に巣食う感情を曝け出し、それを物語に織り込んでいく覚悟が、読み進めるにつれてひしひしと伝わってきます。
自己の不完全さ、負の感情と真摯に向き合う姿。「主人公にはなれない私」という言葉には、理想と現実のギャップに苦しみながらも、それでも筆を執り続ける創作者の切実な想いが凝縮されています。自らの限界に絶望しながらも、創作を通して自己を表現し続ける、書き手にとって普遍的なテーマです。
悪役令嬢という存在も、深堀りすれば単なる「悪」のアイコンでないことが見えてきます。嫉妬、孤独、焦燥感…彼女たちが抱える感情は人間誰しもが経験しうるものであり、その葛藤を理解しようとすることで、初めてキャラクターに深みと奥行きが生まれます。キャラクターに血を通わせ、読者の心を揺さぶるためには欠かせない作業です。
またSNSという現代社会の縮図を舞台に、承認欲求や炎上といったテーマを描き出している点も、本作の問題提起の一つです。自身の作品が評価されることへの期待と、批判されることへの恐怖。その狭間で揺れ動く主人公の姿は私たち自身と重なり、共感を呼び起こします。
自身の内面を曝け出し、魂を削るようにして物語を紡ぎ出す主人公の姿に、私は書き手として深い共感を覚えます。不完全さを受け入れ、それでも書き続けることの尊さ。読み終えた後、私の心に問われたものは、創作への情熱と、書き手としての覚悟でした。
この作品は、創作活動に携わる全ての人に、そして自分自身の存在意義を問い続ける全ての人に、強くお勧めしたい作品です。あなたの心に深く突き刺さり、創造への情熱を再び燃え上がらせてくれるはずです。
さまざまな作品に登場する悪役。
読者に主人公への肩入れをしてもらいたいからか、彼ら(彼女ら)の悪行はエスカレート気味。
加えてその行動原理には、ハテナがつく物も多い。
だからたまに我に返って、こう思う。
――――こんなヤツ、本当にいる?
本作の素晴らしい点は、ここがスタート地点だということ。
テンプレは嫌い、流行りなんか知るか……では終わらない。
悪役たちの生まれた背景。
つまり創作者や読者に根差した感情を客観視しながら、しだいに「私」は自身の内面を掘り下げていく。
いわば考察と共感。
その過程で「私」は悪役と向き合い、彼女と二人三脚で歩き出す。
創作論であり、ヒューマンドラマである稀有な作品。
「人生」とか「成長」という言葉を強く実感することのできる、一本芯の通った作品でした。
主人公は「悪役令嬢」のキャラ造形で悩む。どうしても悪意を持って行動する感覚にリアリティを感じることができず、どうやったらこのキャラクターを生きたものにできるかがわからずに葛藤する。
そんな煩悶を続ける中で、ネット小説の世界で交流を持っていた「ある人物」のことが思い浮かぶ。
その人物については、色々と「モヤモヤ」を抱えるものがあって……。
自分自身の「生の感情」というものを突き詰めていく内に、「よくわからないけれど誰かに反感を持ってしまう」ということを自覚していく主人公。
疑いようもない負の感情だし、あまり直視したくない「自分の醜い部分」ではないかという感もある。
それでも、紛れもない「人間なら当然持ってしまう感覚」でもある。
そうした事実に気付いたことにより、思わぬところで「問題」の答えが見えてくる。
自分自身の抱える「負の感情」や、「日常で遭遇したくない嫌な出来事」。そういうマイナスになりそうなものも飲み込んで、作家として、人として成長していく。
創作者としての前向きさとか、人生の持つ「思わぬ味わい」など、ラストで色々なものが昇華され、不思議と救われる気持ちになりました。
清濁あわせ呑んでこそ、人は成長できる。「ネガティブ」もまた人の持つ「味」なのではないかと、人間というものの奥深さを感じさせられる一作でした。