秘め事と約束。
久遠 れんり
ある日の顛末。 「一夜の過ち。」
「大丈夫ですか?」
その日は、予想外な大雪だった。
覗き込むその人は、端正な顔だが、当然笑顔ではない。
アルミ製門扉と、中に駐めてある車を私が壊したからだ。
国産だが、グリルの所に王冠。
その日……
「うひゃあ、何これ」
あせって、帰ろうとする。
家は共稼ぎだが、努力に見合った学校を卒業をして、努力相応の会社に勤めている。
取引先相手の社外恋愛で結婚した夫も、同じ様なものだ。
そのため、軽自動車に乗り込むと、一瞬だけ考える。
ノーマルタイヤ……
雪の中ノーマルだと、確か法律が変わり、違反になった。
だけど、バスと電車で家から……
今日は良くても、明日の朝は絶対遅刻。
一応旦那に電話する。
「ああ? ホテルに泊まる? ふざけんな雪くらいで…… ゆっくり帰れば大丈夫だよ。飯はどうすんだよ」
「判ったわよ、事故らないように祈っていて」
私の命より、晩飯の方が心配かい。
ぶつぶつ思いながらの帰り道。
私と同じチャレンジャーが多いようで、車が刺さっている。
「大通りは駄目ね」
私は愚かにも、住宅地を抜ける所へ入ってしまった。
車通りが少なく、圧雪されていない。
「この方が意外と滑らない?」
そう思いながら進んでいると、唯一のクランク。
まっすぐは、時間帯によって一方通行となる。
「右に行って、少し行って左よね」
だがその道に入った瞬間、雪は踏み固められて氷になっていた。
ハンドルを切ったまま、まっすぐ進む。
「駄目そこは余所様のお家……」
周囲では、私の車が物を破壊する、色々な音がする。
そう、車は止まらず、人様の駐車場に突き刺さった。
音を聞きつけて、家主さんがでてきた。
無論笑顔ではない。
門扉と車、そして私と目があう。
駄目だけど、思わずにへらと笑う。
「大丈夫ですか? 警察呼びますね」
「はい」
そうです。事故は報告義務があります。
そして、ノーマルタイヤは見つかり、反則金の伝票。
「知り合いの、車屋さんを呼ぶから」
そう言ってテキパキと、車屋さんを手配。
私の車もお願いすることにした。
ただ問題は、明日にならないと代車が無い。
だけど、修理をするなら無料で貸してくれるらしい。
今回、相手は止まっていて一〇ゼロ。
お金がなくて、車両保険に入っていない私は、自分の車を直せない。
旦那に連絡をする。
「おかげで事故ったわよ。怪我は無いけど、ノマールで走ったから罰金喰らった。車も壊れた。絶対にホテルへ泊まるからね」
それでも、まだ何か言っていたけれどブチッと切る。
顔を上げると、驚いた顔の相手方。
よく見ると、真新しい家は結構大きい。
「元気で仲の良い夫婦ですね。旦那さんが羨ましい。ホテルに泊まるなら、今日みたいな日は、調べて予約を入れた方が良いですよ」
そう言われて、お邪魔することにした。
「ごめんね。妻が、実家の様子を見に行っていて留守なんだ」
そう言ってお茶を入れてくれる。
ティーポットで入れた紅茶。
ついソーサーで出てくると、緊張してしまう。
聞けば奥様も完璧な人らしい。
周辺のホテルを調べて電話をすると、どこも部屋が空いていない。
絶望をしながら私は悩む。
「うん? それが駄目なんだ。雪で車が突っ込んできて、明日にならないと代車が無いらしい。ああ、そうだね。その方が良いよ」
「奥さんですか?」
「迎えに行く時間に来ていないって、お怒りでね」
「ごめんなさい」
平謝りしかない。
「いや実家に泊まると言うから、その方が良い」
そこから、お互いの伴侶を貶しまくった。
「とてもいい感じのご夫婦なのに、苦労があるんですね」
「彼女の見栄というかプライドが高くてね。もう一緒にいるのが苦痛なんだが……」
「家の亭主もおバカで、貧乏だし自分事ばかり……」
そんな話をしていて、なぜか肉じゃがとかの話になって、私は作り始める。
ちなみに宿は決まっていない。
時間はドンドン遅くなる。
そうして……
「泊まっていけば良い」
私たちは、一線を越えた。
始まりは軽く触れるキス。
拒まなかった私。
すると始まる、どこまでも優しい愛撫。
旦那と全然違う。
夢のようなひととき。
だけど、お互いに結婚をしている。
「もし、別れたら連絡して……」
「ああ、君もだよ」
「うん……」
その日は夢のようだった。
夜半にまた雪は降り出して、外の音はない。
常夜灯の薄明かりの中、彼の体は完璧だった。
旦那みたいに突き出ていない腹、甘い囁き……
本当に……
翌日、彼の家から一度会社へ出勤。
事情を話して、休暇を出す。
車屋さんで、請求書の概算見積もりを貰うまで、私は夢の中に居た。
「じゃあ」
昨日と違う、笑顔の彼に見送られて、家路を急ぐ。
旦那と別れてやる。
心の内で、そう決心をして……
秘め事と約束。 久遠 れんり @recmiya
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