第1話 思い出した事
「あーだりい」
頭に衝撃があり、ぶっ倒れた後、記憶が流れ込むように俺の頭を陵辱した。
上半身を起こし、頭をさすりながら周りを見回す。
なんか皆が遠巻きに見ている?
此処は家の中庭である。
「マルク。大丈夫なのか?」
「えっ誰?」
ついそう言ってしまった。
ああ、そうだ、兄貴だ。
母親は違い正妻の息子であるこいつは、妾腹の長兄ローマンと俺マルクに対する態度が悪い。
こいつらがごねるために、家はまだ家督が誰に行くのか定まっていない。
「私は、貴様の……」
「クソ兄貴だよな。思い出したよ」
「そうだ、クソ……? うがあぁ、兄に向かって何を言うかぁ」
その叫びを聞いて、反射的に手が動いた。
VRとかで攻撃相手を指し示す感じで……
こぶし大の火の固まりが次男リンチ十五歳の顔を襲う。
「うわっ」
「ちっ、躱しやがったか……」
今度は魔法を使ったことで周りが騒然とする。
「マルクが…… まほ…… つかったっ」
リンチ君の言葉を遮る。
「マルクが立ったってか? 大丈夫立っていませんよ」
適当な言葉を投げながら、俺は、なぜこんな所に居るのかを思い出す。
「―― 本気で就職なのか?」
先生の顔がおもしろい。
丸眼鏡でへにょっとした眉毛。
福笑いのひょっとこっぽい。
笑いをこらえながら俺は答える。
「そうです。親も早く働いて、家に金を入れろと言っていますし」
「そうか。生涯年収は、大学を出た方が多いんだけどなぁ」
「だけど、少しの金額差でストレスばかりが多いとか。昨今は入社をした瞬間が一番給料が多くて、その後|減る《Hell》ばかりって聞きますよ」
「それはそうだな。おかしな世の中だよ。まあいい親御さんも承知なら、履歴書を書いてこい。写真もいるぞ」
「へーい」
こうして俺は高校卒業後、働くことを決めた。
就職先は、いくつか学校がリストを持っているようだ。
「写真かあ」
家へ帰って少し調べる。
「履歴書の写真は、無帽で白背景が好ましい。写真屋さんの方が、かっこよくしてくれるらしいのだが、証明写真機でも良いのか安いしなぁ…… 行くか」
家の家は、両親共に働いているが、謎の残業がある。
彼等は、残業と言ってパチンコ屋へ。
その分、子育ては適当で緩い。
たまに勝つとぱっと使う。
一回の焼肉。
その背後で、一体幾らの金が、店に貯金されているのか判らない。
分かっているのは我が家は貧乏であり、一刻も早く家を出ないと、俺のバイト代のように帰ってこない。
「バイト代が入ったのか? おー大金だな子どもがこんな大金持っていちゃいかん。預かっていてやる」
その後何かの折に聞いたのだが、そんなもの帰っては来なかった。
高校時代、二度とバイトをしなかった。
そしてこいつらは、そんな事はすっかり忘れて上機嫌。
「預けているだけだ。たまに引き出すからこうして美味いものが食える」
それを、親は本気で言っている。負けた事への言い訳だ。
就職を機に、家を出て…… もう帰ってこないようにしよう。
住民票は移さずに、行動するのが正解だな。
金がなくなり、電気やガス、電話が止まり、子どもの時にはよく判らない電話も掛かって来た。
当時小学生の俺に、お父ちゃんはひどい奴だと吹き込むヤミ金のオッサン。
まあ色々合ったのだが、とにかく数ヶ月後には家を出られる。
「背景は白で無帽ね」
俺は近くの薬局前にある撮影機へと向かった……