十一人目の同窓生(第三部)

第三章


【もう一度、同窓会の知らせ】


 それから三年が経った。

 ある日、再び高橋さんから同窓会の連絡が入った。

 「また、大学時代の仲間たちで集まることになったの。良かったら、今回も来てくれない?」

 電話越しの声は、どこか明るく、それでいて少しだけ懐かしさを帯びていた。

 前回の同窓会から、もう三年も経つのか、時の流れの速さを感じた。

 私は少し迷ったが、「行くよ」と答えた。

 なぜか、今回は迷いがなかった。

 

 【板橋くんの家を訪ねる】

 

 同窓会当日の午後、私は板橋くんの家を訪ねた。

 玄関のチャイムを押すと、彼の奥さんが出てきた。

 「……お久しぶりです」

 彼女は、かつての葬儀のときよりも少し落ち着いた表情をしていた。

 私は静かに香典を手渡し、仏壇の前に座ると、手を合わせた。

 「これから、大学時代の文学部史学科の同窓会に行くよ。メンバーは前回と多分同じ、十人ほど……。さあ、一緒に行こう!」

 そう語りかけた瞬間、胸の奥で何かがザワリとした。

 言葉にした途端、それが現実になってしまうような——そんな不思議な感覚だった。

 私は手を合わせたまま、しばらくじっと目を閉じていた。

 そして、ゆっくりと立ち上がると、奥さんにもう一度軽く頭を下げ、家をあとにした。


【中華料理店にて】


 店に到着し、自動ドアが開く。

 「高橋の名で予約があります」

 店員は愛想よく頷き、私を個室へと案内した。

 部屋に入ると、すでに何人かが談笑していた。

 「これでみんな揃ったな!遅かったじゃないか」

 誰かが笑いながら言った。

 私は少し申し訳なく思いながら、「さっき板橋くんの家に寄ってきたんだ」と言うつもりだった。

 しかし——。

 その瞬間、店員が椅子を持ってきた。

 「はい、こちらですね」

 私は何気なく店員を見た。

 幹事が笑顔で言う。

 「これでぴったり十人だな!」

 だが、その言葉を聞いた店員が、怪訝な顔をした。

 「えっ……お客さん、今二人で入ってきましたよ?」

 私は思わず聞き返した。

 「いや、一人で入ったよ」

 店員は困惑した様子で首をかしげる。

 「でも、お客さんの後ろに、背の高い人がいましたよ?確かに一緒に入ってきましたよね……?」

 その瞬間、寒気が背筋を走った。

 ——板橋くん。

 彼は、クラスの中でも一、二を争うほど背が高かった。

 まさか……。

 幹事が軽く笑いながら、店員に言った。

 「まあ、いいよ。お姉さん、そこに椅子を置いておいてくれ」

 店員は少し不思議そうな顔をしながら、椅子をテーブルの端にそっと置いた。

 ——まるで、そこに誰か座ることが当たり前であるかのように。


【乾杯の音と、消えない違和感】


 乾杯の音が響き、同窓会は和やかに始まった。

 しかし、私はずっと考えていた。

 ——板橋くん、一緒に来たのか?

 さっきまで話すつもりだった「板橋家を訪ねた話」を、今ここでしていいものか。

 あまりにもタイミングが良すぎる。

 もしかしたら、この場にいる誰かも、私と同じことを感じているのではないか。

 そう思いながら、私はグラスを口に運ぶ。

 だが、結局私は何も言わなかった。

 突然、一人の男のメガネの右フレームからレンズが落ちた。

 「このメガネは古いからな」

 「安物を買うからだよ」と、誰かが言う。

 すると、その男のメガネのレンズも落ちた。

 この場にいる10人のうち、老眼鏡ではなく普通のメガネをかけているのは2人だけ。

 1人のメガネのレンズが落ちることはあっても、2人同時というのは珍しい。

 これは何なのか……。

 ただ、それだけだった。

 その後も、何か特別なことが起こるわけではなかった。

 誰かが亡くなったわけでもなく、怪我をしたわけでもない。

 何か不吉な出来事が起こるわけでもなかった。

 ただ、それだけのことだった。

 同窓会が終わる頃には、いつも通りの穏やかな空気が流れていた。

 結局、この出来事を同窓会のメンバーに話すことはなかった。

 だが、私は確かに見た。


【後日、会社の仲間に話す】


 後日、私は会社の仲間にこの話をした。

 最初は笑って聞いていた彼らも、途中から微妙な表情を浮かべた。

 「いやいや、そんなことあるわけないでしょ」

 「お前、ちょっと疲れてたんじゃないか?」

 「店員さんの勘違いでしょ?」

 ——そうだろうか?

 たしかに、私は彼がすぐ後ろにいるのを感じていたわけではない。

 でも、店員が「2人で入ってきた」とはっきり言った のは確かだった。

 それに、私は彼に「一緒に行こう」と語りかけていた。

 その言葉が、まるで「約束」だったかのように——。

 しかし、最後に会社の仲間が言った一言で、私は我に返った。

 「でもさ、もし本当に一緒に来てたなら——なんで何も起こらなかったんだ?」

 そう、何も起こらなかった。

 誰かが亡くなったわけでもない。怪我をしたわけでもない。

 ただ、店の自動ドアをくぐるとき、私のすぐ後ろに、彼がいた。

 それだけだった——。

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十一人目の同窓生 羽柴吉高 @HashibaTamuramaro

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