第17話 ずっと、あなたが好きでした【最終話】

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「イル……夢か。ずっと眠っていたかった。夢でならイルに会える」

「帰りました。ジルベルト様いえ……ジル」

「イル……戻ってきてくれたのか」

 ジルベルト様は、苦しそうにベッドから身体を起こします。

「お願いがあります。ジル」

「ああ、何でも」

 綺麗な黒い瞳。吸い込まれてしまいそうです。

「もう、二度と私を誰にも重ねないで。私を『イル』を愛してください」

「ああ、誓う。あの蒼い薔薇の庭の場所を知っているのは君だけだ。君の拉致事件はあの者達は、庭師だ。代々ここの庭のための。あの薔薇は切り花にするとものの30分で枯れてしまう。私が領主になって、隠れるように咲いていた1株あった薔薇を私が世話をして増やした。あの薔薇に誓う。……イルだけだ。私の唯一は、君だけだ」

 涙が一筋頬を伝いました。

「……『イル、愛している』と。呼んで下さい。私が何より欲しかった言葉を」

「ああ。イル、愛している──」

 涙が拭っても、拭っても溢れてきます。

「ジル、ジル……忘れたことなんて無かったのよ。ただ、私はジルと社交界に行くのは……あまりにも惨いことだわ」

 皆が『エリアラ様』と私を重ねる。炊き出しの処でも言われてしまった。

「……あの方は死んだんだ。悲しいが、もういない。だからと言って私はエリアラ様を、もうイルには重ねない。それに、私がいとしいと思うのは、君だけだ。私は君と生きる。疑わないで欲しい。それ相応のことをしてきたが。許して欲しい。だから、もう、いなくなったりしないでくれ。君がいない月日は、灯火が消えたようだった」

 クウーン、と少し低い声。ベッドの隣。あまりに大きな狼のような、けれど、やさしい瞳はそのまま。

「ごめんね。イデア。寂しかったね」

 私がイデアを抱き締めると、ワオーンと遠吠えをしました。

「ラム肉の端っこ茹でたのあげるね」

「イル、私には何かないのか」

 少し膨れっ面をしたジルは可愛らしかった。こんな表情もする人だったのかと、私がどれだけジルベルト様を見つめることから逃げてきたか解りました。

「アップルパイ、と言いたいところですが、まずは身体を労って、林檎とプルーンを甘く煮てきます。それと、ホタッテという貝が今、出汁が出ると街のレストランで人気なんです。ですから貝柱の粥を。この城で、魚介と言わせたら敵う人はいないと料理長に言わしめた人のお店です。本で読んだのですが遠国である国では医食同源という言葉があるそうです。早く元気になって下さい………ジル…」

「早く、元気になるよ。元気になったら、式をあげよう。君にあげたドレスに淡い紫色の、君のアメジストのような瞳の色のようなレースを足して、華やかに……イル…」

「ジル……ずっと、あなたが好きでした」

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 その後、領主ジルベルト公によって、善政が敷かれ、賢母と名高いイザベル・テレーズ夫人は三男一女をもうけた。

 イザベル・テレーズ夫人は、夫ジルベルト公と共に貧民の救済にあたり、毎日の炊き出しや、公的事業への就職、求職への支援施設、街のボランティアの謝礼と勲章の授与、女性の権利の認定、民の税の引き下げ、貴族の相続税の引き上げを行った。

 また、農地に不向きな荒野の地質を調べさせ、一面に花を植え、美しき観光都市とし、冬はスノーアートを考案し四季を通してジルベルト公の領内では人が活気に溢れ、賑わい、商業も発展し、同時に治安警察法の見直しをしたジルベルト公により、治安も良く、街の景観保持、丘の一面の花畑、冬のスノーアートなどに観光客には観光税の徴収をした。現住民は非課税とした。

 学校は大きくなり、更に勉学を続けたいものには、成績に応じ中央の大学への資金を出した。

 『学ぶことは一生、誰でも』とイザベラ夫人は有志と共に高齢者、主婦の学びの場や、寛ぎの場所。薬草園を作ったり、料理教室を開いたり、ジルベルト公の蔵書の図書室を解放したりした。

 ジルベルト公と夫人イザベルの息子や娘は、やさしく聡く、ジルベルト公の後を継いだ息子ドレ・ベネディクトは母イザベル・フォン・テレーズと同じ美しい金の髪をしていたという。

 余談だが、この地に伝わるアップルパイは、結婚式で食べられる定番であるという。






──────《FIN》


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黒将軍と蒼薔薇の庭──ハッピーエンド編【完結】 華周夏 @kasyu_natu0802

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