狂い咲きの白彼岸花
夢月みつき
本文「白い彼岸花と令嬢」
私は今日も不思議な夢をみる、季節外れの白の彼岸花が咲き乱れた道を歩く夢を。
https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818093092562435647
時は大正、
佐千恵には幼い頃からの婚約者がいる。しかし、彼女はこの男性がどうしても好きになれなかった。
彼女は、淡い桜色の着物に赤の袴姿、見た目は
その日、母は活動写真館へ婦人仲間達と出かけ、父はいつものように仕事で留守をしており、屋敷は佐千恵と使用人達が生活をしていた。
火鉢の中でパチパチと火花が弾け、赤々と燃える。外国の絵画や美しいガラス細工が飾られている
「う~ん、これ甘くてふんわり、柔らかくて美味しいわぁ」佐千恵は大きな口を開けてもう一口かじろうとしている時、突然、障子を開けて青年の側仕えが入って来たので思いっきり見られてしまった。
艶やかな白い髪の短髪で、澄んだ白の瞳を持つ、淡い
「……佐千恵お嬢様、美作家の御令嬢ともあろうお方が、そのように口を大きく開けられて、はしたないですよ」
「なによ! あんたがいきなり入って来るから悪いんでしょ。いいのよ、お父様には見せないから、この事は黙っておきなさい」
「仕方ないですね、わかりましたよ」
関二郎は苦笑いすると部屋から、出て行った。
❖
その日の夜、佐千恵はまたあの奇妙な夢をみた。虫の音、そして木々の葉がざわめく音、生暖かい風が吹く。まるで、現実のようでしかし、非現実の世界。夢の中だからだろうか、この冬の時期に季節外れの狂い咲いた白彼岸花がさわさわと風に揺れている。
その花々が、山へと続く道の脇に密集している夜道を、佐千恵は歩いて行く。まるで今にも、空が泣き出しそうな曇り空でしばらく、歩いて行くと道端に白い物体が見えて来た。それは何と、人骨で何体も横たわっている。変色して苔むしている骨もあり、時間の経過を感じ取れた。
「ひっ! なにこれ」
佐千恵が身をすくませて青ざめ驚いていると、誰かにグイッと力強く腕を引かれた。
ぎょっとして、その人物を思わず仰ぎ見るとそれは関二郎だった。
関二郎の白い髪が風に揺れ、不思議な光を宿した瞳が佐千恵の目を覗き込む。
「関二郎! どうして」
関二郎は首を横に振り真剣な表情で言う。
「駄目ですよ、お嬢様。自由奔放なのも少しは良いですが。このような所へいらして。見つけるのに少々、手間が掛かりました」
「ここはあの世にも逝けず、この世にも残れなくなった者が来る場所なんです。さあ、行きますよ。決して振り向かずに」
佐千恵は関二郎の言葉が本当ならなぜ、こんな世界に来てしまったのだろうと考えていた。
少し考え、ああ、そうか私は関二郎が好きでこの政略結婚が嫌で嫌で、たまらなくてこのまま逃げたい、逃げられなければ死にたいと思っていたんだ。
「うん」
佐千恵は差し出された関二郎の手を取って歩き出す。
関二郎は、佐千恵の手を引くと、元来た道を引き返して行った。いつの間にか空は綺麗な星月夜に変わっていて、白い彼岸花達が帰って行く二人の後ろ姿を揺れながら見送っていた。
❖
すずめの鳴き声と差し込む日の光で、自室の布団の上で目が覚めた佐千恵は、寝間着から普段着に着替えると顔を洗いに井戸へ行った。
「う~ん、あの奇妙な夢はなんだったのかしら? なんで関二郎が……でも、雰囲気が違っててなかなか、格好良かった」
思わずポッと頬を赤らめる。
「……僕がなんですって?」
突然、後ろから関二郎に声を掛けられ、佐千恵は心臓が跳ねる程驚いた。
「なっ、なによ。関二郎ッ、びっくりした~!」
「すみません」それを見て困ったようにくすくすと笑う彼。
「それではお嬢様、僕はお食事のご用意をして参ります」
「ええ、お願いね」
関二郎が裏庭から屋敷に入ろうとする、その時、佐千恵の方をくるりと振り返り
「そうそう、佐千恵お嬢様? もう、あんな所へは二度と
一言伝えると妖艶な笑みで笑い、目を丸くする佐千恵を尻目に何事もなかったかのように屋敷の中に入って行った。
ランセル=
https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818093092562373714
-終わり-
最後までお読みいただきありがとうございました。
良かったら、続編があります。
「狂い咲きの白彼岸花2」
狂い咲きの白彼岸花 夢月みつき @ca8000k
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