第11話

 カンカンカンカン…非常階段を駆け上がる。


 拠点の部屋。


 扉の前で、しばらく無言だった。

 息を整える。



 ようやく鍵を回し、扉を開けた。


 ルイがカーテンを開ける。

 街は、その輝かしさに反してやけに静かだ。

 夜空の星が、なぜか微かに震えて見えた。

 「なあ、陽菜」

 「……なに」

 「さっきの……あれは、俺たちの“未来”なのかもな」

 「……未来?」

 「この世界で止まったままでいれば、ああなるかもって意味だ」

 「それって……」

 自分の意思で死ねなかった人間は、


 “この世界で形を変えて、終わりを与えられる。”


 そんな仮説が、胸を締め付けてくる。


 無言のまま、ふたりで顔を見合わせた。

 もう、元には戻れない。

 「まずいことになったな…」

 「……いや、もう外、怖いよ」

 手が震えていた。ルイの表情も沈んでいる。

 「もうしばらく、ここから出ない方がいいかもな」


 ここには食料がある。

 水だってあるし、少なくとも今のところは安全が確保されている。

 それはまるで、世界が終わった後に残された、最後の安全な檻のようだった。


 夏が終わったようで夏なようで。秋にしてはまだ寂しくなりきれない、そんな中途半端さは、まるで季節自体が移ろいゆくのを忘れてしまっているようだ。

 窓から見下ろす街は、まるで星が地上に降りてきたかのよう。無数の光が瞬き、交差点では車のヘッドライトと信号の赤青が交錯し、街は眠ることを知らない……とはいうけれど。

 本当は、眠れない誰かの集まりなのかもしれない。そんなことを考えて少しおセンチに浸ってみる。



 それから季節が一周するくらいの時が経った。

 ま、この世界で季節が変わることはないのだけど。



第二章へ続く。

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夢中な剥製、仕立てます! 湯乃卜らか @racaR

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