余談:あの日交わした約束は

 吾輩は

 今ここに〝ある真実〟を、こっそりと君にお教えしよう。


 それは〝万物の霊長れいちょうを自認する人間族よりも、我ら猫族の方が賢い〟という、純然たる事実だ。

 これはエジプト猫族が奉ずる「猫女神バステトの御力により、人間は創造された」という牧歌的信仰にも表れている――まぁ、吾輩自身は無神論であり、この説にはいささか懐疑的であるのだが。


 なんだ、疑うのかね?

 吾輩はこうして人語を解し、君とも会話しているじゃないか。

 夢でも見ているみたいだ、狐につままれた気分だって?

 狐なんて昨今さっこん、ここいらじゃそうそう見かけるもんじゃない。古来、狐や狸が人をかすなんてのは、微笑ましい妄想ないしは、不条理を為の方便ほうべんにすぎないのだよ。


 もう一度、説明しよう。

 この地球上で一番賢いの人間である――なんて妄言は、米国巨大資本が新世界秩序を築かんとするプロパガンダにすぎないのだ。なにしろあの連中は、ネズミなんていう繁殖力が高いだけの卑しい生物を、偶像アイドルとして祀るような連中だからね、信ずるに足る弁ではないよ。

 一番賢いのはそう、我ら猫族だ。

 それは宇宙の法則に等しい、否定されざる真実なんだ。

 嘘じゃあないぜ。吾輩は、嘘と坊さんの頭はがない。


 ほうほう。

 ならば「どうして人間に代わってこの地球ホシを支配しないのか」だって?

 ふむ。君もいっぱしの口を聞くじゃあないか。

 それは我ら猫族の性にるところが大きい。かいつまんでいえば、古来から我らは「優雅さや愛らしさ、そして少々の茶目っ気」によって、人間族の精神に平和と安定をもたらしてきたのだ。バステトの民がいう、奉仕する側される側とは、そういう意味だよ。

 我らは些事に慌てふためく人間に代わり、常に泰然自若たいぜんじじゃくにして、絶えず豪放磊落ごうほうらいらく。大いに飯を喰らい、優雅に昼寝を楽しむ。君たちは、我らの姿なごみ癒され、明日への活力と生きる希望を得るというわけだ。


 つまり、君たちに〝万物の霊長の座〟を、のだよ。

 その方が我らにとっても何かと都合が良い。

 猫たるもの躍起になって鼠を獲ったりしちゃあのだ。あくせく働くなんてのは、我らの間では酷くみっともない、なんなら不道徳な行為だからね。

 どうだい、これがさ。


 ――さて、そこでだ。

 吾輩は提案したい。

 先程申し上げたとおり、吾輩は猫であるが、名探偵でもある。吾輩の明晰な頭脳でもって、難航している君の仕事を手助けしてやろうじゃないか。君に少し助言を与える程度ならば推理とも呼べない、ほんのお遊びだ。

 そのかわり、君は吾輩に美味い食事と暖かな寝床を提供する。ギブ&テイク。そう、これは契約だ。


 ふむふむ。素早い決断だな。

 いいぞ、いいぞ。猫族は拙速せっそくを貴ぶ。

 口頭ではあるが、その意思をもって契約の成立としよう。

 だがいいか、気をつけてくれたまえ。このことは他言無用、決して世間に知られてはならない。いいかい、決してだ。大事なことだからな、二回いったぞ。

 さもなくば――猫族の掟に従い、遥か遠い土地へと、吾輩は追放されてしまうことになる。ことによると、君だって吾輩の仲間からされてしまいかねない。くれぐれも気をつけてくれよ。

 お忘れなきよう。


(吾輩は迷探偵である 了)

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吾輩は迷探偵である。 夏目猫丸 @nekowillow

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