世、妖(あやかし)おらず ー狐顔手癖ー

銀満ノ錦平

狐顔手癖


昔よく皆で、手遊びで動物の顔に似せた事がある。


見立てではあるが犬や蝸牛、鳩や蟹などにどう似せるかで色々と話し込んでたと思う。


我ながら子供時代とはいえ、くだらないことを談義してたなあと懐かしく感じた。


そして一番シルエット的にも見立て的にもわかりやすいと思うのが…狐である。


狐は、人差し指と小指を上げ、残りの指を合わせると出来る。


人差し指と小指が耳にも見えるし目にも見える。


残りの指を口のように動かし、私がコンコン…と言いながら指を口のように動かしてその人間の手は見事に狐もどきとなるのだ。


しかしあくまで人間がそういうものだと脳が勘違い、見立てるという思考が出来ているからこそであり…そして人間の身体だからこそ出来る知能と身体が噛み合った結果、この様な簡単ながらも人間にしか出来ない…遊びが出来るのだ。


私は、歳も30になり手遊び等には縁も無くなっている。


親戚などにも子供はいないしそもそも付き合いをしていないのでいてもいなくても一緒なのだ。


要するに今時点では子供にも…パートナーにも縁も無いという嘆きである。


ただ…ここ、最近異様に手が気になっている。


手に変な癖が付いてきた。


気が付くと狐の手遊びをするようになっていた。


なっていたというのも、とある日に知り合いと話していたら「お前、なんで手を狐にさせてんの?」と苦笑しながら言ってきたのだ。


私は、何のことかとふと自分の手を見てみると慥かに狐になっていた。


私は、「昔の事を話してたらつい無意識に。」と自分でも苦笑した。


その日、別れた後に何気なく狐の形にさせたがその時は、ただの私の手遊び程度の動作だったというのに…。


風呂に入り、ふと手の感覚に違和感があり見てみると…手が狐を作っていた。


また無意識に作っていた。


コン…コンコン… 


不意に口から声が出た。


私は、少し不気味に思い咄嗟に手をもとに戻した。


自分の意志で動かしても別に違和感はない…。


ちゃんと指も動くし掌も動く、腕も何もかも自分の意思で動かせる。


人の脳みそというのは、本当にあやふやなものだ。


意思というものとは別の何か得体の知れない意思が入り込んでるんじゃと思い込む時があってそれが嫌になる。


これは、本能とはまた違うような気持ち悪さというか頭に何か詰まっている感というか…。


風呂から出たあとも特に違和感はないままそのまま寝ることにした。


コーン コンコン


朝、何かの生き物のような鳴き声が頭に響いて目をころうと手を意識させると…。


狐だ。


両手が、狐の形を作っていた。


手の狐が口と思われる所から声を出している。


コーン コンコン


コーン コンコン


私は出していない…はずである。


今、私は口を噤んでいるはずである。


確認しに鏡に行く…。


その間も、手の狐が鳴いている。


コーン コンコン コーン コンコン


コーン コンコン コーン コンコン


そもそも狐はこんな鳴き声ではない。


きゃんきゃん…の様な鳴き声のはずである。


なのにこの手の狐は…コンコンと鳴いている。


コンコン コーン コーン コンコン


唯でさえ自分から発することのない音がでてるのに両手は狐の形から固定されているのか動かすことが出来ない。


これは私達人間が想像している鳴き声のはずなのだ!


それならば、この鳴き声は…この人間が考えついた擬音を発しているこの音は!なんなんだ!!


手の狐は、私をみて鳴いている。


コーン コーン コーン コーン…。


コンコン  コンコン コンコン   コンコン…。


私は、垂々と流れる嫌な汗も拭わず、洗面所の鏡の前に付いて私を見た。


コーン コンコン    コーン コンコン









わ コンコン た しの コンコン コーン くちから コーン き こえコンコ ンていた…。









コーン コンコン。

















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