冬が過ぎ、柊さんが十七歳を迎える四月になっても、大きな雪害は一度も起きなかった。僕たちが過ごした代々木公園の夜以降、雪は静かにその勢いを失い、少しずつ春の兆しが見え始めた。


しかし、完全に雪が消えるわけではなかった。四月になった今でも、時折、穏やかな雪が舞い降りることがあった。その雪は、冬の厳しい冷たさとは違い、どこか優しさを感じさせるものだった。


「これも……柊さんがいる証なんだ。」


僕はそう感じていた。その雪は彼女の存在を静かに示すものであり、彼女がもう孤独ではないことの象徴のようにも思えた。


新学期が始まって数日が経ったある日の放課後、春風が暖かく吹き抜ける中、柊さんと僕は校舎の裏手にある桜の木の下に立っていた。満開の桜が風に揺れ、花びらがひらひらと舞い落ちる。


「桜が満開だね。」


僕がそう言うと、柊さんは微笑みながら頷いた。その瞳には、これまでにない穏やかさが宿っていた。


「ねえ、月島君。」


突然、彼女が僕の名前を呼んだ。その声は少しだけ震えていたけれど、どこか決意を感じさせるものだった。


「何?」


「……ありがとう。」


彼女の言葉に、僕は一瞬言葉を失った。その短い一言に、これまでのすべてが詰まっているように感じた。


「どうして急に?」


「あなたが……そばにいてくれたから、私はここにいることができた。最初は、この力を隠すことだけが生きる手段だと思っていた。でも、月島君といるうちに、この力を誰かのために使うことができると知った。」


彼女の言葉は静かで、桜の花びらが舞う音に溶け込むようだった。その瞳には、感謝と暖かさが混じり合っていた。


「柊さん……」


 僕はどう返事をすればいいのかわからず、ただ彼女を見つめた。だけど、その目を見ているだけで、全てが伝わった気がした。


「これからも、よろしくね。」


そう言って、彼女は微笑んだ。その笑顔は、これまで見たどんなものよりも自然で、暖かく、美しかった。


その瞬間、風が桜の木々を揺らし、舞い落ちる花びらが僕たちを包み込む。空を見上げると、淡い春の光が世界を優しく照らしていた。


「もちろん、これからも。」


僕はそう答えながら、彼女の手をそっと握った。その手は、ほんのりと温かく、まるで新しい季節の始まりを象徴しているようだった。



その時、これからの未来への希望を静かに告げるように、春の風が僕たちの間を吹き抜けた

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雪の彼方。 @kabotya139

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